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特集 日本最南端の”カーリング愛” 熊本からめざした日本選手権

カーリング 2021年2月12日(金) 午後7:35

カーリングといえば、寒い地域で盛んなスポーツ。そんな中、九州・熊本でカーリングに熱中している人たちがいることを知っていますか?

”日本最南端のカーリングチーム”とも呼ばれる、熊本県カーリング協会。

NHKスポーツ編集部では3年前にそんな熊本の皆さんの熱い思いを取材させていただきました。

あれから約3年、ピョンチャンオリンピックでの日本の活躍、そして今なお続くコロナ禍と、カーリングを取り巻く状況は刻々変化していますが、あの熱量はいまだに健在なのでしょうか?

今回、オンラインで再び取材させていただきました!

日本最南端のカーリングチームは、こうして生まれた!

 

マンションの一室にて 室内練習の様子 2017年撮影

 

3年前、編集部が取材させていただくきっかけとなったのが、こちらの写真です。マンションの部屋でカーリング!?という映像的なインパクトと同時に、そうまでしてカーリングをやりたいという”カーリングへの愛”が伝わってくるいい写真ですよね。

熊本では氷の張った会場を使える期間が限られているため、熊本県カーリング協会のみなさんは、室内で練習に励んでいたのでした。

”氷がなくても全力でカーリングができる”ことを私たちに教えてくれました。

 

3年ぶりにお話を聞くのは、熊本県カーリング協会・理事長の後藤浩史さん。モニターの向こうで、変わらずお元気な様子です!

 

ーー 後藤さん、お久しぶりです!

後藤さん:お久しぶりです。

 

ーー まずは、「なぜ熊本でカーリングチームを作ろうと思ったのか?」を改めてお聞きしてもいいですか?

カーリングって、年齢・性別関係なくみんなが楽しめるという魅力がまずありますよね。

なぜ熊本で?については、そんなに特別なきっかけがあったわけでもないんです。2012年ころ、カーリングに興味がある人たちが集まって「熊本でもカーリングをやろう」という感じになったんです。隣の福岡に強いチームがあって、毎週金曜日にスケートリンクで熱心に練習をしているのを知っていたので、少なからず影響を受けたというのはありますね。

 

終始笑顔で取材に応じてくれた後藤さん

 

で、まずは北海道などから選手に指導に来ていただき、熊本のスケートリンク「アクアドームくまもと」でカーリングの教室を開きました。その後は岡山にあるカーリング専用シートがある会場に毎月合宿に行っていました。当時、メンバーは20人ほどで私はその合宿のバスの運転手を頼まれて行っていましたが、見るよりやるほうが楽しくなり今はメンバーとしても活動しています。

 

ーー 北海道から指導者を呼び、岡山までバスに乗って合宿…熊本でゼロから立ち上げたご苦労がしのばれますね。

公式戦・オープン大会は県外(九州以外)で行われるため、 やはり旅費がかかってしまうのが厳しいですね。たいていの場合は各自で宿泊施設や移動手段の手配をするので、 十分な打ち合わせができないまま現地の会場で顔を合わせることもありますよ(苦笑)。

大変だったのは、日本カーリング協会へ加盟することでした。私達がチームを発足させたタイミングでちょうど、加盟基準が厳しくなったんです。

「初級指導員資格者2名」と「C級審判2名」の所属という要件を3年以内に成立させるというものです。要件がそろう2017年まで、ずっと加盟できずにいたんです…。

 

ーー 現在は無事に加盟されたとのことで、おめでとうございます!今、どんな方がメンバーなんでしょうか?

登録している選手は10名です。小学生から女子高生、パートの主婦さん、サラリーマンの方、また福岡のカーリング協会から参加されている方もいます。メンバーの半分は体験会で初めてカーリングにふれてハマった人たちです。

カーリングを熊本に広める!という使命

ピョンチャンオリンピック(2018) 女子日本代表の銅メダルでカーリングの知名度がアップ

手探りで始めたカーリング活動。後藤さんにとっては、プレー技術の向上と同様に、カーリングに興味を持ってくれた人への「普及活動」が重要な役割になっているといいます。

 

 

ーー ピョンチャンオリンピックの銅メダルでカーリングの知名度がグンと上がりましたよね。熊本県カーリング協会にも変化はありましたか?

 

後藤さん:それはもう、大きくありました!ピョンチャンオリンピック開催中に熊本の「アクアドームくまもと」で体験会をしたところ、参加申し込みが定員(14名)を超えることが毎回になったんです。

それまでは10人にも満たないことがザラだったのに…一気に増えてうれしかったですね!!

 

体験会の様子(2018年)

 

 

ーー すごいじゃないですか…!

 

そうなんです。事務局にメディアから問い合わせが多数寄せられたりと、オリンピックの影響を強く感じましたね。新聞やWEBメディア、それからローカルテレビの取材もありました。

 

地元の西日本新聞にも大きく取り上げられた

 

なかでもテレビの影響というのは大きくて、「テレビを見て熊本にカーリングチームがあるのを知り、やってみたいと思いました」という人も多かったですね。そのおかげで体験会に来る人の年代も幅広くなりました。40、50代の方もいらっしゃいますし、親子で来られる方も増えました。お子さんに体験させるのと同時に自分も体験するという感じですね。

ちなみに、メディアに取り上げられるようになってから、地元の方からも「理事長!」と呼ばれるようになりました。

 

ーー すごいですね、理事長!

や、やめてください(笑)

 

 

体験会が新チーム結成のきっかけに!

 

熊本農業高校の生徒も体験

 

ーー 体験会のおかげで、カーリングが熊本県内に着実に普及しているんですね?

 

後藤さん:うれしいのは、熊本県立熊本農業高校の生徒を対象に体験会を開いたことがあるんですが、参加した高校生のメンバーで新たに女子チームが結成されたんです。彼女たちは平成30年「日本カーリング高校選手権」西日本代表として出場を果たすことができました!

 

ーー これまたすごい!体験会にも力が入りますね。

外部からの依頼で体験会を行うこともありますが、ほとんどが春から秋にかけてのリンクの製氷期間外なんです。ですから、床で行う『フロアカーリング(通称:フロッカー)』で、カーリングの気分を味わっていただいています。(笑)

 

ショッピングモールで体験会を実施する後藤さん(右)

 

 

コロナ禍でも、あきらめない

ーー 昨年2020年は新型コロナウイルスによって生活が様変わりしましたね。現在の状況は?

 

後藤さん:2020年に予定されていた大会はほとんど中止になりました。密を避けるために室内練習も2020年4月以降は一度も実施されていません。それぞれが個人で練習することが増えましたね。それでも、コロナが少し落ち着いた8月に「西日本代表選考会(日本選手権のブロック予選)はどうするか」という会議をしたのですが、どこの協会もやはり熊本と同じで練習が十分にできない状況で…。

 

大会前の合宿は新設のアルゴグラフィックス北見カーリングホール(北海道北見市)で

 

討議の結果、西日本代表選考会は感染対策をしっかり行った上で、北海道稚内に新しくできた専用シートで行うことが会議で決まりました。

出場するメンバーを集めて合宿を行ったのが12月。それが2020年初めての練習でした。

 

 

ーー 本当に大変な1年でしたね…。その西日本代表選考会の結果はどうだったんですか?

 

なんと熊本県カーリング協会始まって以来、初めて決勝トーナメントに進出、準優勝という好成績を残せました!

 

ーーまたまたすごい!!その理由はどんなところにあると思いますか?

 

正直、どこのチームもベストメンバーで出場できておらず、調子が良くなかったというのはひとつあると思います。私たちも、スキップとサードに関しては若い選手になんとか参加してもらうことができたのですが、リードは40代でセカンドの私は50代と、あまりベストではないメンバーでした…。

ですが、北見市で合宿をしたことによってそれぞれ課題を持ち帰り、ある程度修正できたことと、大会前に熊本の「アクアドームくまもと」で1回だけ氷上で練習したことでだいぶ調子が戻った実感はありましたね。

 

室内は氷上よりも”むしろ効率的な練習ができる”(後藤さん)という

 

そもそも我々の場合、普段から室内練習や個人練習が主なので、実は氷上での練習が少ないのは例年と大きな差があるわけではないんです(笑)。それもあって、今回大会前に貴重な氷上での練習をできたことがコンディションを整える良いきっかけになりました。

 

ーー コロナ禍ゆえに普段の室内練習が生きてきた、と?

 

そうなんです。大人数で集まっての練習はできていませんが、元々マンションの一室で室内練習を行っていたし、各自自宅でのトレーニングにも慣れていますしね。私自身も自宅でフィジカルトレーニングをしています。

氷上での練習はもちろん大事なのですが、反復練習の観点から見ると、実は移動や準備が楽な室内練習のほうが効率的に感じます。例えば、ストーンを投げる練習は氷上だと1回につき大体1分掛かるのですが、室内だと狭い分1分間に何回もその練習ができちゃいます。他にも、フィジカルの部分でデリバリーを安定させたり、スイープをしっかり擦れるようにするなども、室内でも十分練習できるんです。

 

練習はマンションの一室で

 

ちなみに、練習するマンションは熊本市の繁華街に近い「上通(かみとおり) 」にあるのですが、私が「上通でカーリングをやっています」というと、「あんな場所にアイススケートリンクなんてありましたっけ!?」とよく驚かれます(笑)。

 

熊本から世界をめざす!

熊本県カーリング協会には様々な年代が参加している

 

ーー 最後に、今後の目標や展望について聞かせてください。

 

後藤さん:今までは室内練習ばかりでしたが、「アクアドームくまもと」の施設を使用できる3月までは可能な限り氷上でしっかり練習したいと思います。その後は各自で室内練習に励み、夏季と秋季もしくは冬季に合宿を実施し、今度こそは準備万端で西日本の大会に臨みたいと思っています。

将来的には、カーリング日本選手権や世界大会に出るようなチーム、もしくは選手を出したい気持ちがあります。これは、熊本県カーリング協会全体の願いであり、熊本でカーリングを続けるモチベーションでもあります。

 

ーー後藤さん、貴重なお話をありがとうございました!これからの活動に期待しています!

 

 

インタビュー後記

活動をゼロから立ち上げ、仲間を募り、練習方法を工夫し、さらに普及活動で裾野を広げる。”カーリング愛”ともいえるその情熱は、コロナ禍という状況でむしろヒートアップしているように感じました。最南端のカーリングチーム、今後の活躍に注目です!

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