特集 市川美余が解説!カーリング日本選手権で何が起きた!?

2月に開催されたカーリング日本選手権。女子はロコ・ソラーレが4年ぶりに優勝、男子はコンサドーレが2連覇を達成して幕を閉じました。
例年と比べるととても変化の多かった今大会。
では、何が変わったのか?その変化によりどのような影響があったのか?
過去に日本選手権を4連覇し、今大会、NHKの放送解説を務めた市川美余さんに話を聞きました。
変化1. 参加条件・枠が変わった!
WCT枠で日本選手権への出場を決めた北海道銀行。3位という結果を残した
――WCT(ワールドカーリングツアー)ランキング最上位のチームが出場できる「WCT枠」や、各ブロックの予選で優勝を逃したチームにもチャンスが与えられる「ワイルドカード枠」が新設され、日本選手権に参加できる条件が変わりましたよね。
市川美余さん(以下、市川):そうですね。その結果、例年に比べて実力差がうまってきた大会だったと思います。
――なぜこのような変更があったのでしょうか?
市川:海外遠征が多いチームはその分負担も大きいので、WCT枠があることによって世界で活躍するチームの貢献度を考慮した形になっています。
ワイルドカード枠は、“本当に強いチームを日本選手権に出場させる”ための変更ですね。強いチームが突発的な理由で予選敗退してしまったときの救済措置でもありますし、日本全体のレベルアップのために2番手の実力を持つチームに本戦で戦うチャンスを与えるという意味合いもあります。今回ワイルドカード枠で出場したチームは非常にいい戦いぶりをみせてくれたのが印象的でした。国内で実力のあるチームが上がってこられたので内容の濃い試合が増え、大会全体のレベルが上がりましたね。
変化2.海外コーチが増えた!
――今大会は北海道銀行と富士急に外国人のコーチがついていたのも印象的でした。
市川:そうですね、コーチが与える影響は大きいので、チームのレベルアップのために何が必要かと考えたときに、カーリング大国であるカナダからコーチを招へいするという判断になったのではないでしょうか。
コーチと相談をする富士急
――カナダのカーリングと日本のカーリング、具体的に何が違うのですか?
市川:技術的なことや戦略、そしてカーリングに対する考え方が全く違います。カナダは日常とカーリングがとても近いんです。私の現役時代にカナダのトップチームから教えてもらったことがあるんですが、「毎日、何があっても100投は投げるんだよ」と言われたときは衝撃的でした。
カーリングの流行はカナダから生まれていますし学ぶことが多いので、現地のコーチを呼ぶのは効果的ですよね。
ーー実際、その影響はみられたのでしょうか。
市川:富士急の作戦の立て方はとてもよかったと思います。全体的な視野が広がったように感じましたね。
コーチも現役の選手なので常にチームを見てもらうわけにはいかないのですが、海外遠征のときなど今回のようにピンポイントでみてもらうだけでも大きな効果があると思います。変化3.ストーンが新調された!
――今回は大会の前にストーンが新調されたそうですね。選手にとってこの影響は大きいのでしょうか?
市川:それほど大きな影響ではないと思います。プラクティスの時間は平等に与えられていましたし、普段使っているストーンも大会前に研磨して多少は変わるのでこれまでと同じなのではないでしょうか。
変化4.アイスが世界レベルになった!
――オリンピックや世界選手権など、世界の舞台で整氷をしているハンス・ウ―リッヒ氏をチーフアイスメーカーとして迎えたそうですね。
市川:これまでは各会場の整備担当者がアイスを整備していたのですが、今回はハンス氏がチーフとなって整備しました。会場によって氷にクセがあるというか、その会場を普段から使っている人(=クセを知っている人)がどうしても有利だったので、ハンス氏にお願いすることで平等になった面がありますね。
――ハンス氏が中心となり、日本のアイスメーカーのチームを指導したということですよね。世界レベルのアイスメーカーから吸収できるものもあったのではないでしょうか。
市川:そうですね。たとえば、“曲がり幅がこのくらい、何秒でこのくらい滑る”というようないい氷の基準というのがなんとなくあって、それに近づける技術を吸収出来たのではないでしょうか。大会としてはより世界基準に合わせたいという思惑があったのかもしれませんね。ただ、 “地のアイスの癖”というのがあって、今大会では軽井沢の元々の癖である“曲がりが浅い”という場面が続いたようにも感じます。
変化5.男子、軽井沢が2チームに!
日本選手権では3位という成績を収めたSC軽井沢クラブ
――ピョンチャンオリンピックに出場したSC軽井沢クラブは山口剛史選手以外がチームを離れてメンバーが一新されました。そして、元メンバーの両角友佑さんは自身が中心となってTM軽井沢を新たに結成。これによって男子は軽井沢が2チームになったのも大きな変化ですよね。それぞれのチームに対する日本選手権での印象を教えていただけますか?
市川:新生SC軽井沢クラブはスキルが高いメンバーが集まっていますが、山口選手を中心としていろいろ模索中なのかな?という印象がありました。
TM軽井沢は良くも悪くも“チーム両角”。リードの両角公佑選手で始まり、スキップの両角友佑選手で終わるチームですが、両角兄弟よりも経験の浅い他のメンバーが育ってくるとまた違うプレーが期待できそうです。
結成一年目でありながら準優勝を飾ったTM軽井沢
――2連覇を達成したコンサドーレとの差はどうでしょう?
市川:現時点では正直まだ差がありますね。ただ、注目すべきはどちらも1年目ということ。男子3強といえる勢力図が見えてきたので、2年目以降どうなるかがとても楽しみです。
男子日本選手権はコンサドーレが2連覇を達成した
変化6.大会の注目度がアップした!
――大会のライブ配信をしていましたが、視聴者の数がかなり多かったようですね。
市川:そうですね。決勝のときはSNSで「両角」「ロコ・ソラーレ」という単語がトレンド入りしていたのも驚きました(笑)。
――お客さんの見方も変わったのでしょうか?
市川:カーリングについて分かってくれる方が増えたので、私が解説をするときも専門用語を使うようになりました。知っている限りの選手の情報なども話したいなと思っています。
――その他、人気が上がったことで変化したことはありますか?
市川:セキュリティに関する運営マニュアルがかなり分厚くなったみたいです(笑)。これまでは明確に分けられていなかった選手とお客さんの動線やロッカーなどが整理されるといった、主に選手の安全面を確保しようという動きですね。これもカーリングが注目してもらえるようになったからこその変化でしょうか。
2021年の日本選手権に注目!
市川:来年の日本選手権は横浜で開催するので、よりたくさんの人に見に来てもらいたいですね。国内では珍しいアリーナでの開催なので(※)、普段よく見に来てくれるお客さんにとっても新鮮だと思います。
※…海外の試合はリンクを囲むように観戦できるアリーナ開催が一般的だが、国内の試合は会場の都合で片側からしか見られないことが多い
2020年の日本選手権が開催された軽井沢アイスパーク。日本では観客席が片面のみに作られていることが多い
市川美余(いちかわ・みよ)
長野県出身、1989年生まれ。
元カーリング女子日本代表・元中部電力カーリング部主将。
7歳からカーリングをはじめ、2005年の日本ジュニアカーリング選手権で優勝。
高校卒業後の2008年に中部電力に入社し、カーリング部に所属。
2011〜2014年、日本カーリング選手権4連覇。
日本カーリング界の人気を支えるも2014年に引退し、現在は解説者として活躍中。
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