特集 両角友佑が分析する"ロコ・ソラーレ 強さのヒミツ"

日本時間の3月15日(日)からカーリングの女子世界選手権が開幕!ピョンチャンオリンピックで銅メダルを獲得し、今シーズンの日本選手権を制したロコ・ソラーレが日本代表として出場します。
日本女子カーリング界のトップを走り続けているロコ・ソラーレ。その強さのヒミツを、現役選手でもあり、ライバルチーム・中部電力のコーチも務める両角友佑さんに分析してもらいました。
ロコ・ソラーレの強さ 3つのヒミツ
両角さんによると、ロコ・ソラーレの強さのヒミツは主に3つ。具体的に解説してもらいました。
強さのヒミツ1 安定感のあるフロントエンド
ロコ・ソラーレのフロントエンド 吉田夕梨花選手(左)と鈴木夕湖選手(右)
両角友佑さん(以下、両角):フロントエンド(リードの吉田夕梨花選手とセカンドの鈴木夕湖選手)の強さ、安定感がいちばんの強みだと感じます。
とにかく組み立てがうまいタイプのカーリングをしているなという印象です。昨年からファイブロックルール(※)に変わってセカンドの戦略の幅が広がりました。昔は速いショットを求められることが多かったのですが、今はちょっとした小技が使われたり…。(スイープをするので)体力的な消耗が激しいはずなのに、自分が投げるときに影響が出ないのもすごいです。
※…両チームのリード2投および先攻チームのセカンド1投目まではフリーガードゾーンにあるストーンを外に弾き出してはいけないというルール
両角:そしてこの二人はスイープもうまいので、どのくらいの速さでどのくらいまで届くか、どこに止まっちゃいけないかといったストーンのジャッジが的確にできるのも強みですね。
スイーパーとしての力がある二人がフロントエンドにいるのが最大の強みですし、これは2016年の世界選手権で銀メダルを取ったときから変わっていません。
ルール変更直後は一時的にミスが増えたと言っていましたが、いろいろと試行錯誤した結果安定し、今ではロコ・ソラーレらしいカーリングができていると思います。強さのヒミツ2 世界の舞台で得た豊富な経験値
ピョンチャンオリンピック以降、世界の舞台で経験を積んできたロコ・ソラーレ。写真は2018-19カーリングW杯グランドファイナル出場時
両角:世界トップレベルの大会に出場し、強豪との試合にさらされ続けていることで相当な経験値を積んでいます。先日の日本選手権でも、世界で戦った経験を生かした判断の早さ、冷静な判断力を発揮していました。
日本選手権、世界選手権といった公式戦と比べると、グランドスラム(※)などのツアーは大会によって練習時間、方法が違います。自分たちが置かれた状況がよく分からないまま、探りながら戦わなければいけないので柔軟な対応力が求められるのですが、しっかり優勝できるのはそれだけの力があるということでしょうね。
海外の大会に出たいと思っても、グランドスラムのような大会はトップ15に入り続けなければ参加出来ないのでなかなか難しかったりもするのですが…。グランドスラムなどのツアーにコンスタントに呼ばれているチームはロコ・ソラーレが日本で初めてですし、この1~2年で一気に経験を積んでよりパワーアップしたのではないかと思います。
※…カーリングの国際大会シリーズ(ワールドカーリングツアー)の中でも最高峰と言われる一連の大会。1国1代表ではなく、ツアーランキング上位から招待されるため強豪国の強豪チームが複数参加する。
強さのヒミツ3 圧倒的なコミュニケーション量
コミュニーケーションがチームの強さにつながっている
両角:「○投目を投げたらスキップと誰々が話す」というのが決まっているのも特徴的ですね。毎エンド同じタイミングで話してアイスの情報などを交換していますし、それを試合後のミーティングでまとめて次の試合に臨んだりと、コミュニケーションの量が圧倒的に多いのも強さの秘密といえるでしょう。
得た情報を全員で共有し、しっかりと次に生かすので隙がなくなってきていますね。
中部電力のコーチとしてみるロコ・ソラーレの印象
男子・TM軽井沢の選手として大会に参加しながら中部電力のコーチも務める両角さん
――両角さんは中部電力のコーチもされているので、ロコ・ソラーレはライバルでもありますよね。実際に戦ってみて、何か変わったと感じた部分はありますか?
両角:ロコ・ソラーレは昨年も強いと思っていましたし、今年も変わらず強かったですね。世界的にみてもトップチームの一員になりつつありますし、ロコ・ソラーレがやりたいカーリングをできるようになったことでより安定感が増したように感じます。
――昨年はそのロコ・ソラーレにも勝利し、中部電力が全勝で優勝しました。昨年と今年では何が違ったのでしょうか?
両角:確かに昨年は中部電力が全勝優勝しましたが、“今年になってロコ・ソラーレが強くなり勝てなくなった”のではなく、“昨年は中電に勢いがあって、実力以上の結果を出せた”という感じです。今年が実力どおりの結果という印象ですね。
――では昨年の中部電力には何があったのでしょう?
両角:予選を全勝で通過できた自信が決勝まで持続したのかもしれませんね。
今年は実力の2位という感じです。優勝は逃してしまいましたが、昨シーズンよりも4人の伸び率が大きいと感じたのでコーチとしてはネガティブな要素はなかったと思っています。実力を出し切れたとしてもまだロコ・ソラーレのほうが強いと感じているので、どう追いつくかを考えたいですね。
メダル争いに食い込めるか?世界選手権の展望
――いよいよ世界選手権が開幕しますが、ロコ・ソラーレにはどのくらいの成績を期待していますか?
両角:ロコ・ソラーレにとっては2大会目、オリンピックのポイントがかかる最初のシーズン(※)という意味ではちょうど4年前(2016年)と同じシチュエーションでの世界選手権になりますが、またメダルを取れるくらいの実力はあると思います。
※…2020年と2021年の世界選手権での合計獲得ポイント上位国に北京オリンピックの出場権が与えられる。
2016年の世界選手権で2位という好成績を収めたロコ・ソラーレ
4年前は絶対的な実力で2位になったというよりも大会開催の時期にロコ・ソラーレの勢いがあったというような印象でしたが、今回はたとえチームにとって調子が悪い時期であったとしても勝てる実力を身につけています。メダルには絡んでくると思いますし、1位になってもおかしくない実力です。特別なことをやる必要はなく、いつもどおりやって活躍してくれるといいですね。
世界選手権、注目の対戦カードは?
ロコ・ソラーレの予選リーグ日程(いずれも日本時間)
3月15日(日)韓国戦/デンマーク戦
3月16日(月)カナダ戦
3月17日(火)ドイツ戦/アメリカ戦
3月18日(水)スイス戦/チェコ戦
3月19日(木)イタリア戦
3月20日(金)ロシア戦/中国戦
3月21日(土)スコットランド戦/スウェーデン戦
両角:初戦の韓国戦がとても大切になってきます。韓国は2019年11月のパシフィック・アジア選手権で3位と勢いがありますし、予選で勝つことにも大きな意味があります。同じ日に対戦するデンマーク戦に勝利して翌日の強豪カナダ戦を2勝でむかえるか、1勝1敗でむかえるかで大きく違ってきますね。
――初日から波に乗っておきたいということですね。
両角:はい。韓国との実力差でいえばロコ・ソラーレの方が上ですが、1試合目ということでお互いに探り探りな分、良くも悪くも予測していないことが起きやすいので実力に関係ないところで勝敗がついてしまったりするんですよね。とはいえ、ロコ・ソラーレのメンバーは「対戦順は気にしてない」って言うんでしょうけど(笑)。僕は対戦順をすごく気にするんですが、彼女らは「どうせ対戦するならいつ当たっても同じじゃん」って…(笑)。強いですよね、考え方が。
――頼もしいですね(笑)。他にも見どころや注目のチームなどはありますか?
両角:スコットランドやスウェーデン、カナダはたしかに強いのですが、日本は何度も戦った経験があります。どちらかというとロシアや中国、アメリカといった中堅どころ、戦い方を分かっていないチームとの対戦がとても重要ですね。また、スイスなどの若いチームも波に乗っていたら要注意です。
中継を見る方におすすめなのはやはりスコットランドやスウェーデンとの試合でしょうか。分かりやすいスーパーショットが見られるかも。予選の最終戦とその1つ前の試合なので決勝トーナメント進出への結果が見えつつあるタイミングですが、勝つためにいろいろな攻め方を試していかなければいけないですし、相手を追い込みたいと思っているはずなので面白い展開になるのではないでしょうか。
メダル獲得なるか?ロコ・ソラーレ2度目の世界選手権に注目
カーリングの解説者として、またライバル中部電力のコーチとしての目線から両角さんにロコ・ソラーレの強さを紐解いていただきました。
今回の世界選手権では果たしてメダル獲得なるか?NHKでは、日本代表として戦うロコ・ソラーレの全試合を生中継でお伝えします。お楽しみに。