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特集 本橋麻里が語るロコ・ソラーレのリアル 2年半ぶり選手復帰のわけ

カーリング 2021年2月6日(土) 午後5:05

2月8日開幕のカーリング日本選手権で連覇に挑む「ロコ・ソラーレ」。その代表を務めるのが、本橋麻里選手です。3度のオリンピックに出場し、ピョンチャン大会で日本初の銅メダルに輝くなど、日本のカーリング界をけん引してきました。


コロナ禍でどうカーリングに向き合うのか、2年半ぶりの選手復帰のわけ、そして明かした夢とは。本橋麻里選手のリアルないまに迫ります。

新型コロナをポジティブに捉えるアスリートのメンタル力

――コロナショックで、スポーツ界全体が大きな影響を受けています。カーリング日本選手権を控え、「ロコ・ソラーレ」のチーム状況を教えてください。

 

2019年 カーリング日本選手権・女子 準決勝

やっぱり、コロナショックが起きた初期の頃は選手たちはすごく落ち込んでましたね。カナダで2日後に予定されていた世界選手権がなくなったりもしたので、なんて言葉をかけたらいいのかわからないぐらいでした。やっぱり昨シーズンの終わり方が、パンデミックによる突然の大会中止という今まで経験したことのないものだったので、みんな動揺していたようです。

コロナショックが起きた当時を振り返る本橋選手

ただ、アスリートってメンタルの鍛え方がものすごくタフなんですね。ネガティブなものをポジティブに変える対応力がスゴイんです。カーリングでは毎年1回ほどルール改正などもあるので、それにフィットさせる準備をシーズンごとに整えないといけない。そうした状況を繰り返していくうちに、メンタルの保ち方を学んでいくんですよね。

2019年 カーリング日本選手権・女子 準決勝

どの競技も近いとは思いますが、アスリートって、トップになればなるほど、自分たちがコントロールできない事柄に対して、感情をむき出しにしたり、何とか変えようとは考えないんです。自分でコントロールできることに集中します。一般的に言えば、何か悪いことが起きているとしても、それを他人のせいにせず、自分でできることと向き合うということ。現在の状況は決して自分でコントロールできるものではないですし、そのなかでも今できるトレーニングやスケジュールを組んでいました。自宅でもトレーニングをやっていて、みんな『けっこうできることあるじゃん!』って感じで、今は完全にポジティブに捉え直しています。

――それでも試合数の少なさなどの不安要素はありませんか?

もちろん、それはあると思います。通年ですと、ロコ・ソラーレの選手たちは、7月から翌年の5月にかけてのシーズン中のうち2/3は地元にはいません。その多くはカナダにある拠点でトレーニングを積んで、世界大会などに出場して調整しています。ですから、ロコ・ソラーレはいつものシーズンに比べて、ほとんど試合ができていません。数少ない国内の大会でもシード権を獲得していると、予選を戦わないので試合勘不足はあるかもしれませんね。その点では、もどかしさもあるとは思います。

2016年 世界女子カーリング選手権の表彰式 日本は準優勝

ただ、それだけに一つ一つの大会に対する想いが、今までとはちがうものになってきています。試合ができることも、応援されることも、普段だったら当たり前にできていたことが今はできなくなっている。私も含めて、チームのみんなが、そういった“当たり前”が本当はとても大切なんだと痛感しています。だからこそ、勝負に対する想いはこれまで以上に強くなっていますね。

もぐもぐタイムに込められた意味 日本選手権に挑むロコ・ソラーレ

――日本選手権に向けての準備は順調ですか?

順調そのものですね! ロコ・ソラーレは“世界一の準備をするチーム”って自分たちで言うくらいなので(笑)。他のチームからすると、「そんなことどうでもいいでしょ」ってことまで細かく自分たちで作って管理できるチーム。例えば、個々のタイムスケジュールだったり、トレーニングメニューもみんなで話し合って、かなり細かく決めています。栄養面を考えて、栄養士さんに帯同してもらうようになったことも大きいですね。これまでは海外遠征などのとき、選手たちが自分で食材を調達して、メニューを考えていました。ただ、それって結構選手の負担になったりもするんですね。選手たちもいろいろと勉強をして、栄養面に気遣っていましたが、そうした時間が別のトレーニングや休息に使えるようになりました。例の“もぐもぐタイム”も、実は好きなものを食べているのではなく、選手たちが栄養面を考えて用意してるんですよ。10分もない休憩時間に栄養を補給するためには、すぐに体に吸収され、エネルギーとなる食べ物がいいので、糖質が高く脂質が少ない果物がとくに多いですね。

2018年 ピョンチャンオリンピック カーリング女子3位決定戦にて ロコ・ソラーレの「もぐもぐタイム」

久しぶりにチームのみんなと直接顔を合わせましたが、非常にいい表情に仕上がっていると感じました。焦っているわけでもなく、かといって自信満々なわけでもなく、とてもフラットな状態で試合に臨めるんじゃないかなと思います。
ロコ・ソラーレの強みは安定感です。選手たちもそれぞれ経験を積んできて、悔しいことも楽しいことも積み重ねている。その上で、「またカーリングが好きになった」と言っているので、たぶんディフェンディングチャンピオンというよりはチャレンジャーの気持ちが強くなっているんだと思います。日本選手権では、彼女たちのチャレンジ精神にも注目してほしいですね!

若手を世界に羽ばたかせたい 約2年半ぶりの選手復帰! 

ロコ・ステラの一員として練習に励む本橋選手 提供:本橋選手

――2020年12月の北海道選手権で「ロコ・ステラ」のメンバーとして公式戦に復帰されましたが、なぜ復帰を決意されたのでしょうか?

ロコ・ステラは、いわば若い世代の育成チームです。私は、これまでロコ・ステラのコーチとして選手たちの外側から教えてきましたが、さらにチームを成長させるには、チームのメンバーとして一緒にプレーする立場になり内側から教えなくてはならないと感じたんです。

ですから、若い選手たちを何とか世界に羽ばたかせたいという気持ちで取り組んでいます。カーリングは、試合中に常に状況が変化する競技なので、感情的にならず客観的に試合に臨む姿勢が大切なんですが、私がメンバーとして参加する前までは、やっぱりどこか感情的になったりする面が多かったんですね。試合中の打ち合わせでも「なんで決まらなかったの?」と感情的になってしまったり…。そういうときにしっかり私がコントロールをして、感情との向き合い方や頭の切り替えの仕方を、選手たちに、場面場面で投げかけをして考えるキッカケを与えています。今回の北海道選手権でもそうした面を意識できていたと思います。

――ロコ・ステラのメンバーは、コロナショックをどうやって乗り越えようとしているのでしょうか?

ロコ・ステラは育成チームですので、メンバーの生活スタイルもバラバラで、学生がいたりもして、時間を合わせるのが結構苦労していたんですけど、逆にコロナショックによって、共有できる時間が増えたことがプラスに働きました。お互いに合わせられる時間が増えましたし、ほとんど地元から離れなかったので、ミーティングをする時間がたっぷりあったんですね。とことんメンバーと話し合ってお互いの理解が進んだことは非常に大きかったと思います。

ロコ・ステラ 集合写真 提供:本橋選手

最近では意識のレベルがどんどん上がっています。スキルの伸びしろももちろんですが、『ロコ・ソラーレといっしょに全日本に出場したい!』という明確な目標を立てるようにもなってきました。これまでは、ロコ・ソラーレに対する遠慮というか、遠い存在という意識が強かったのですが、間近でロコ・ソラーレの練習を見る機会も多かったので、すごく刺激になったようです。ロコ・ステラのメンバーから次のスター候補が生まれるよう、私もコーチとしてがんばっていきたいですね!

夢はフィギュアスケートと並ぶ人気競技にすること!

2019年  GPシリーズ NHK杯 エキシビション

――このコロナショックを乗り越えた先に、どんな展望を描いていますか?

ウインタースポーツの花形といえば、やっぱりフィギュアスケートですよね。でも、カーリングもそれに負けないような競技にしていきたいという目標があります。幸いなことに協会も選手たちの意見を尊重してくれますし、カーリングに関わるみんなが発展のために力を尽くしてくれている。とくに、この大変な状況にあっても支援してくれるファンの皆さんやスポンサーの方々には感謝してもしきれません。そうやって応援してくれる人たちのためにも、私たち選手も今以上に発展するよう努力しなければと感じています。

――人気競技になるために選手にできることとは?

やっぱりまずは“勝つこと”にこだわるという点ですね。カーリングの魅力は真剣勝負にあります。そうした緊張感あふれる試合で勝利を重ねていけば、より魅力的な競技として発展していけるのではないでしょうか。
今はまだ発展途上ですが、日本人ならではのカーリングスタイルも確立されつつあります。日本のチームって、海外チームのいいところを吸収してブラッシュアップすることに長けているんですね。他の海外チームだと、オリジナルにこだわっていやがることも多いんですけど、そういう意味で、日本のチームはすごく柔軟というか。それに加えて、日本チームが本来持っている繊細さとかはどんどん伸ばしていければ、日本人が誇れるチームになっていくと思います。私たち選手も日本人であることに誇りを持って戦っているので、観ている人にもそれを感じてもらえるようなプレーができたらと思います。暗いニュースばかりですけど、カーリングを通じて、元気なニュースを届けたいですね!

オンライン取材でこれからの展望を語る本橋選手

コーチとして、選手として、そしてカーリングに携わるひとりの人間として。本橋選手を含めた日本選手たちはコロナショックを逆手にとって、自らの成長に糧にしています。あの明るい笑顔をぜひ日本選手権で見せてほしいですね!

本橋麻里

2006年「チーム青森」のメンバーとしてトリノオリンピックに初出場、7位入賞。2010年のバンクーバーオリンピックでも8位となり、2大会連続で入賞を果たす。同年8月、出身地の北見市で新チーム「ロコ・ソラーレ」を結成。2016年3月に行われた世界選手権にて銀メダルを獲得すると、2018年ピョンチャンオリンピックで、日本カーリング史上初の銅メダルを獲得。2018年夏に選手休養を表明し、一般社団法人ロコ・ソラーレを設立。現在は代表理事としてチーム運営、「ロコ・ステラ」でコーチ兼選手として現役復帰。

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