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ボクシングミドル級チャンピオン 村田諒太選手「コロナ禍の現在地は」

2021-01-29 午後 03:15

“自分の存在価値を見失わない”。新型コロナウイルスの影響ですべてが一変した時代、誰もがそんな理想を持っているのではないでしょうか。このシンプルかつ難しい課題を実現するにはどうすればいいのか。プロボクシングの世界チャンピオン、村田諒太選手のことばにはたくさんのヒントが詰まっていました。

見えない敵との戦い

WBAミドル級チャンピオンの村田選手は新型コロナウイルスの影響でタイトルマッチから1年以上も遠ざかっています。

 

 

最後の試合は2019年12月23日の防衛戦。第5ラウンドテクニカルノックアウトで圧勝し“ビッグマッチ”への期待が高まっていました。そんな中で待っていたのが、新型ウイルスという見えない敵との戦いでした。1月の緊急事態宣言前に行ったインタビュー。村田選手は現状について率直な思いを口にしていました。

 

村田 選手

焦りはやっぱりありますね。アスリートというのは家賃がかかるわけでもなく、在庫リスクがあるわけでもなく何か借金をしなければいけないほど大きなものとか、社員を抱えていることもないじゃないですか。だけど、われわれは肉体が“在庫”なので、その在庫がどんどん劣化していくのは、ものすごくリスクだと思います。そこに対する焦りというか。

“在庫”を磨き上げる日々

プロボクサーとしての肉体を“在庫”と表現する村田選手。置かれた状況を冷静に分析しながら、やるべきことを考えてきました。

 

村田 選手

ただ焦るだけではなくて、“在庫”にしている物、自分の体というのをいかにしっかり磨き上げておくかということを大切にしなきゃいけないなと。いつ試合が決まってもいいようにと思って動いています

 

 

合宿での走り込みにジムワーク。コロナ禍で試合が決まらない状況でも、みずからの肉体という“在庫”を磨き上げてきました。

チョイスと“合理化”

先が見えなければ気持ちも切れそうなもの。なぜ村田選手はそこまでストイックになれるのか。答えは明快でした。

 

村田 選手

チョイスがないからですよ。僕には今、ボクシングというチョイスしかなくて、それがいちばん、人にいい意味での影響をちゃんと与えられて、そこに自分の意味とか、“合理化”が出来る。こんないいものって、今の僕にとってはそれしかないので。

 

国語辞典によると「合理化」の意味は、<もっともらしく理由づけすること。正当化><自分の考えや行動を無意識的に正当化すること>。さまざまな書物から知識を深めてきた村田選手ならではの考え方です。

村田 選手

前に読んだ本におもしろいことが書いていて。“人間は合理的な生き物ではなくて、合理化する生き物だ”と。ボクシングだって合理性があってやっているわけではないんですけど、こういう理由でやっているんだという“合理化”をして、僕たちはうまくそれをモチベーションにしてやっているわけです。

ブランクは言い訳

心を揺さぶられる存在もいます。

 

 

村田選手と同じミドル級のIBFチャンピオン、ゲンナジー・ゴロフキン選手(カザフスタン)。3団体統一の経験もある“ミドル級最強”と呼ばれる1人です。去年12月には、およそ1年2か月ぶりのリングで実力を見せつけてタイトル防衛を果たしました。対戦も視野に入れるライバルの奮闘ぶりに、村田選手も刺激を受けないわけがありません。

村田 選手

試合間隔が空いているにもかかわらず、進化している。ボクシングをしっかり仕上げている。全く落ちていない。改めて超一流だなと思いました。だから自分が次に試合することになったときも、しっかりとしたパフォーマンスを自分も見せなきゃいけない。“1年以上、試合してないからこんな動きしか出来ないよね”じゃなくて、“ちゃんと練習してたんだな”とか“ちゃんとおもしろい試合だったな”とか言ってもらえるような状況を作らなきゃいけないと思っています。

カエルの気持ちで・・・

村田選手は最後に置かれている状況や心境を平安時代を代表する書家、小野道風が残したとされる逸話になぞらえました。

 

村田 選手

カエルが池からジャンプして、柳の葉に捕まろうとしているんです。何回ジャンプしても届かない。そしたら風がヒューッと吹いて柳の葉が揺れた瞬間にパッとカエルが乗っかることが出来た。僕もカエルと一緒ですよ。跳び続けて跳び続けて、試合が出来るという風があったら、その瞬間に葉にしっかり乗れるように。そう思ってます。

 

 

1月には再び緊急事態宣言が出るなど、厳しい状況が続いています。緊急事態宣言が出たあと、村田選手に心境を尋ねるとメッセージを寄せてくれました。「いつ試合が出来るのか分からない状況で、モチベーションの維持は難しいですが、モチベーションがなくても、強くなることは出来ると考えて練習しています。先のことは見ようがありませんので、方向性もありませんが、強くなることだけを考えて日々を過ごしています」

 

“風が吹く、その時まで”。ますます先が見通せなくなった中でも、肉体という“在庫”を磨き続けながら、カエルのようにジャンプし続ける村田選手。その現在地はコロナ禍の生き方のヒントにもなりそうです。

この記事を書いた人

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小野 慎吾 記者

平成28年NHK入局。岐阜局を経て、2019年8月からスポーツニュース部で格闘技(大相撲、ボクシングなど)を担当。前職はスポーツ紙記者。

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