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特集 王鵬 偉大な祖父 昭和の大横綱・大鵬の命日に

相撲 2021年1月20日(水) 午後0:45

「自分にとって大事な日です」

 

 

1月19日。王鵬は毎年、特別な思いで土俵に上がる。偉大な祖父、昭和の大横綱・大鵬の命日だ。新十両で迎えた初場所の10日目、幕内経験者の大翔丸を相手に前に出たものの、はたき込まれて白星はならなかった。

 

「毎年、この日にずっと勝てなくて。きょうこそはと思ったんですけど・・・」

 

あまり感情を表情に出さない王鵬。悔しさがにじみ出るようだった。

 

必ず「大鵬の孫」と紹介されてきた王鵬。「巨人、大鵬、卵焼き」と言われるほどの人気で社会現象にもなった祖父の名前は同じ角界で生きることを決めた20歳の若者にとって、誇りであると同時にどれほどの重圧になってきたのか。今場所が始まる前、その複雑な思いを明かしてくれた。

 

「まず自分自身の名前の前に“大鵬の孫”って出ちゃうので、意識せざるを得なかった。何だたいしたことないなとは絶対に思われたくなかった」

 

それまで相撲が好きでただ楽しく土俵に上がっていた王鵬が知らず知らずのうちに重圧を感じるようになり、場所が近づくと体調を崩したこともあったという。

 

幕下で思うように白星をあげられない時期が続き、出世争いでは琴勝峰や豊昇龍といった同学年の力士に先を越されていた。それでも王鵬は自分に足りないものに真摯(しんし)に向き合い、ひたすら稽古を積み重ねた。そして入門から3年、ついに十両昇進を決めた。大きな重圧から決して逃げることなく歩みを進めてきた王鵬。

 

「期待されたら期待以上のことをしていかないといけない」

 

 

言葉の奥に覚悟が感じられた。新十両の初場所はここまで3勝7敗と決して順風満帆ではない。9日目からは土俵入りで着ける化粧まわしを「忍」の文字が記されたものに変えた。祖父が好きだった字、自分自身が苦しいときに常に心にある字だ。

 

「耐え忍んでやっていかないと」と語る王鵬の目は集中力を切らしていなかった。苦境にあっても耐え忍びながらみずからがやるべきことをやり続ける。王鵬はそんな心の強さを大横綱から受け継いでいる。来年の1月19日こそ、祖父にいい報告ができるはずだ。

 

この記事を書いた人

清水 瑶平 記者

清水 瑶平 記者

平成20年 NHK入局。熊本局、社会部などを経て、平成28年からスポーツニュース部で格闘技を担当。学生時代はボクシングに打ち込む。

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