特集 大関 正代 「“柱”なら“水柱”が好きです」

立ち合い、スパッと2本入る。振られてもしっかり残り、うまく腕(かいな)を返しながら前に出ていく。うまさ、スピード、力強さを兼ね備えた正代らしい、厳しい相撲。
(大相撲初場所6日目 正代ー栃ノ心)
先場所痛めた左足首の影響はまったく感じさせなかった。今場所5勝目、通算300勝目となる節目の勝利に、正代も手応えを感じているようだった。
「足もよく動いてくれている。この調子で最後までいけたら」
調子を上げてきた正代を見て思い出したことがある。正月の1月2日、正代が電話取材の中で、こんな話をしていた。
「“柱”なら“水柱”が好きです」
何のことか、ピンと来た人もいるだろう。大ヒットした「鬼滅の刃」のキャラクターのことだ。9人の「柱」は主人公を指導する組織のリーダーたち。そのうちの1人「水柱」は寡黙だが誠実できっちり仕事をこなす“背中で語るタイプ”だ。
大関という地位は、ほかの力士を引っ張っていく、いわば角界の「柱」。
「あまり口うるさくなく、行動で尊敬される。そういう風になりたい」
アニメ好きで知られる正代は、無口な「水柱」をみずからが目指すリーダー像に重ねていた。
確かに正代は決して強気な発言で引っ張っていく大関ではない。新十両では「できれば誰とも当たりたくない」という“ネガティブ発言”が話題になった。
大関に昇進も角番で迎えた今場所「負け越したら負け越したで何とかなる」とことさら闘争心を表に出さない控えめな姿勢。6日目の取組後も「ここ一番でのメンタルが弱い部分があるのでそのあたり付き合っていけたら」と自分の弱さを隠さなかった。
それでもあくまで自然体を貫き、淡々と白星を重ねていくのが正代らしいリーダーのあり方なのかもしれない。アニメは「柱」に率いられた主人公たちが鬼を倒していくストーリーだが、正代が立ち向かうのは鬼のように強い力士たちだ。
6日目を終えて勝ちっぱなしは早くも平幕2人と上位陣の奮起が求められる今場所。背中で引っ張る正代が、優勝して大関昇進を決めた、あの場所のようにじわじわと存在感を見せ始めた。
この記事を書いた人

清水 瑶平 記者
平成20年 NHK入局。熊本局、社会部などを経て、平成28年からスポーツニュース部で格闘技を担当。学生時代はボクシングに打ち込む。