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特集 三役復帰を狙う阿武咲 感謝しながら土俵に

相撲 2021年1月13日(水) 午後2:00

「土俵に上がれるだけで幸せ」

 

前頭3枚目の阿武咲の相撲には、その言葉どおり、喜びがあふれていた。全身をバネのように躍動させ、目の覚めるような立ち合いで頭からぶつかる。関脇 隆の勝に対して完全に当たり勝ち、体を開いて難なく引き落とした。

 

初日から3連勝という結果以上に、素晴らしいのはその内容だ。いずれも立ち合いの踏み込みで勝負を決める会心の押し相撲。髙安、照ノ富士といった大関経験者にも何もさせなかった。白星を挙げたあと、かみしめるように言ったのは感謝のことばだった。

 

土俵に上がれるだけで幸せ。1つ1つ感謝しながら土俵に上がっています。

 

心にあるのは、けがによって苦しんだ時期だ。

 

4年前、20歳での新入幕からわずか3場所で三役へと、番付を駆け上がったが、その後、右ひざのじん帯を痛める大けがで2場所連続の休場。「大関候補」と言われた若手は十両に陥落した。懸命なリハビリで幕内に戻ってきたが、なかなか思うような相撲を取れない時期が続いた。それでも決して腐ることはなかった。

 

 

去年12月の合同稽古を終えて話していたのは「しっかり前に出る。しっかり押し切る。自分の距離で取る。やることをやっていれば結果はついてくる」ということば。課題に1つ1つ向き合い、稽古を積み重ねていくしかないという覚悟がにじみ出ていた。

 

もう1つ、今場所の阿武咲には心に期するものがある。

周りがどんどん上に行っているので置いていかれている。返り三役まであと一歩まできたので。

 

念頭にあるのは中学校からのライバルだった同学年の貴景勝だ。自分が足踏みしている間に大関へと昇進し、今場所「綱とり」に挑む姿に負けん気の強い阿武咲が、悔しさを感じないはずはない。

 

土俵に上がる喜び、磨いてきた押し相撲、作り上げてきた強じんな体、先を行かれたライバルへの思い。ここまでの阿武咲は、心・技・体すべてがかみ合っている。3日目を終えて役力士全員に土がつき、早くも混戦の様相を見せている初場所で三役復帰を狙う24歳が主役になるかもしれない。

この記事を書いた人

清水 瑶平 記者

清水 瑶平 記者

平成20年 NHK入局。熊本局、社会部などを経て、平成28年からスポーツニュース部で格闘技を担当。学生時代はボクシングに打ち込む。

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