特集 北の富士勝昭が斬る 綱取りはスッキリした形で

大相撲を厳しく、かつ暖かく見守り続ける元横綱でNHK大相撲解説者の北の富士勝昭さんに1人大関貴景勝の11月場所の優勝を振り返り、初場所での綱取りへの期待を語ってもらいました。
優勝するのは貴景勝と思っていた
貴景勝が賜盃を受け取る(11月場所千秋楽)
2横綱2大関を休場で欠いた11月場所はどうなることかと見ていたが、“1人大関”となった貴景勝が2年ぶり2回目の優勝で納めの場所をしっかり締めてくれたのはよかった。
最後まで優勝戦線のトップを守り続けたのは立派だったが、幕内最下位の志摩ノ海も終盤まで貴景勝と首位を並走し、ことしだけですでに2回も起きた幕尻優勝の可能性もあっただけに冷や冷やものだった。
しかも9月場所であわや新入幕優勝かという活躍ぶりだった翔猿に足元をすくわれただけに、今や大関から平幕まで横並び状態である。千秋楽の照ノ富士との本割、決定戦の二番はなかなか見応えがあった。
さすがに膝に“爆弾”を抱えている照ノ富士にとって二番取るのは厳しかったようだ。本割は執念もあっただろうし、あれで使い果たしたのだろう。本割の貴景勝の当たりも弱かった。しっかり踏み込めなかったし、あれは立ち合い負けだ。元大関も立ち合いは相当神経を使っていたように見えたが、一番に集中するのが精いっぱいだったのではないか。
結果が出たあとで言うのも何だが、貴景勝は新大関の正代よりはやると思っていた。大関陣の中で優勝するのは貴景勝だろうと。特に推すだけの強い理由はなかったが、場所前に本人がよさそうなことを言っていたので、それを信じたまでだ。前半は結構引いて勝つ相撲があったが、それも攻めてからのものだったし、内容的にも尻上がりによくなっていった。
綱取りは、優勝というスッキリした形で
貴景勝 初場所番付発表のリモート会見で決意語る(12月24日)
横綱も不在で1人大関としての重圧をどれだけ感じていたか分からないが、土俵に上がったら余計な神経は使っていられないということだろう。私も1人横綱の経験があるが、やはり寂しいものだし孤独だ。
責任感というものもそれなりにあって、確かに心細いものだ。誰もいないから自分が有利だとは思ったこともないし、自分がやらなければというのもあるにはあったが、それは毎場所思っていること。とにかく必死になってやるしかない。
貴景勝も同じ心境であっただろう。おそらく気持ちで取るタイプだろうし、その点は朝乃山や正代と比べて肝の据わり方が違う。少なくとも私にはそのように映る。初場所は綱取りになるが、優勝というスッキリした形を見せてほしい。
今、勝てなくては先場所の優勝も色あせてしまう。横綱不在の土俵を守り抜いた意地を見せてもらいたい。
新関脇で勝ち越しの隆の勝、次の大関候補かもしれない
優勝を逃したが照ノ富士はよくやった。これは本物だ。やっぱりいい根性をしている。大関に戻るという目標がだんだん近づいてくるにしたがって、モチベ—ションも高まって頑張れるのだろう。初場所で12、13勝したら、ムード次第だが場所後の大関復帰もないこともないだろう。
隆の勝が押し出しで宝富士を破り勝ち越し(11月場所14日目)
新関脇で勝ち越した隆の勝もよく頑張った。相撲内容もよかった。人間的にも明るくて素直そうで好感が持てる。やはり、貴景勝ら稽古相手ができたのが大きい。押し相撲が基本だが右四つの相撲もなかなかいい。四つでも取れるようになったことが成績の安定にもつながっているのだろう。次の大関候補は御嶽海ではなく隆の勝かもしれない。
この記事を書いた人

北出 幸一
相撲雑誌「NHK G-Media大相撲中継」編集長。元NHK記者。昭和の時代に横綱千代の富士、北勝海、大乃国らを取材し、NHKを定年退職後に相撲雑誌編集長となる。