ストーリー相撲

定年の高砂親方 厳しさと愛情を語る

2020-11-30 午後 04:30

「そんなものは巡り合わせだ」

 

11月場所の3日目、大関 朝乃山が休場し師匠の高砂親方(元大関 朝潮)が報道陣の取材に対して語気を強めた。

 

12月に65歳で日本相撲協会の定年を迎える高砂親方が師匠として迎えた最後の場所。まな弟子の朝乃山がケガで休場し、千秋楽まで相撲を見届けられなくなったことを問われた時だった。

 

しかし、その強い口調は、角界に入門してきた時から苦楽をともにしてきた弟子に対する深い愛情の裏返しだった。「これで終わりじゃないんだから」と、師匠としての愛情も見せて巻き返しを期待することばも添えた。

 

 

この時の親方の発言を聞いて、ふと思い出したことがある。

 

約10年前の九州場所直前、弟子の横綱 朝青龍に関する取材で高砂親方の怒りを買ったことがあった。左ひじの治療で母国モンゴルに帰国した朝青龍は番付発表の日にも関わらず来日しなかった。横綱が番付発表日に宿舎に不在なのは極めて異例のこと。

 

 

私は親方の横綱への対応を聞こうと直接、ことばをかわせる機会をうかがった。宿舎の前で1時間は待っただろうか、ようやく接することが出来た。

 

記者「世間が対応に注目していますが?」

 

高砂親方「ほかに(他社)誰もそんなこと聞きに来てないだろ!」

 

記者「モンゴルから帰ってきたら稽古しますか?」

 

高砂親方「当たり前だ!!!」

 

険しい表情を崩さず、声を張り上げた高砂親方。相撲界では、師匠の弟子に関する発言には計り知れない重みがある。質問をシャットアウトしたのも、渦中の横綱に対する発言が1人歩きしあらぬ邪推を避けようとする狙いがあったのではないかと思っている。

 

 

その後も不祥事が続き、引退を決断した朝青龍。高砂親方は、今も多くは語らないが最後の場所を終えたあとNHKのインタビューに対し珍しく当時を振り返った。

高砂 親方

 

もちろん、ある程度はかばってあげなきゃいけない。同じことを繰り返すから、かばいきれなくなってくる。どんな人生だって、いいことばかりじゃないが、悪いことばかりでもない。現役も親方もどちらかと言えば、全部、楽しい人生だった。そう思わないとやっていけないよ。

 

現役横綱の前代未聞の不祥事など、さまざまな苦難を受け入れ、土俵人生を総じて前向きに捉えていると感じさせる人としての器の大きさを見せたことばだった。

 

 

今後、高砂親方として後進の指導に当たるモンゴル出身の錦島親方(元関脇 朝赤龍)は、「育てて頂いた先代の師匠に恩返しすべく決意した。部屋の名に恥じぬよう精進したい」と話す。その強い決意は、師匠と弟子の固い絆を感じさせるものだった。

 

 

代が替わり、先代となった師匠(元朝潮)も、その思いをくみ取っている。「一致団結してしっかり頑張って部屋を盛り上げて下さい」と、部屋の発展に期待を込めた。

 

私にとっては苦い思い出も、そこにあったのは変わらぬ弟子たちへの深い愛情だ。厳しさと優しさを失わず、これからもまな弟子たちの活躍と部屋の様子を見届けてくれるはずだ。

この記事を書いた人

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小野 慎吾 記者

平成28年NHK入局。岐阜局を経て、2019年8月からスポーツニュース部で格闘技(大相撲、ボクシングなど)を担当。前職はスポーツ紙記者。

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