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特集 無心の優勝 大関・貴景勝 綱取りへ

相撲 2020年11月28日(土) 午後3:10

大相撲11月場所を制した大関・貴景勝が11月22日のサンデースポーツに出演。優勝決定戦にもつれ込んだ千秋楽。悲願の優勝を決めた取組を振り返り、その裏側にあった思いを語りました。

劇的!千秋楽、優勝決定戦

2横綱2大関が休場となった大相撲11月場所。出場力士中番付最高位となった貴景勝は、低い当たりからの突き押しで前に出る得意の相撲で、優勝争いをリード。そして1敗で迎えた千秋楽。結びの一番は追う2敗の照ノ富士との直接対決となった。

 

勝てば優勝の貴景勝が立ち合いから押し込むが、照ノ富士も耐える。ここで貴景勝が引き、距離をとる両者。一呼吸のあと、照ノ富士が張って距離を詰めると大関のまわしをがっちりつかむ。そして豪快な浴びせ倒し。

 

 

右の背中にべったりと土をつけられ、照ノ富士の力に屈した貴景勝。賜杯の行方は優勝決定戦へ。流れは完全に照ノ富士。

しかし12分後の優勝決定戦は、貴景勝にとって会心の相撲となった。

立ち合いで低く踏み込んだ貴景勝。一度、二度、三度と強烈な突き押しで前に出て、照ノ富士の巨体を土俵外に押し出した。

貴景勝にとって2年ぶり2回目、大関として初めての優勝。いつもはほとんど表情を崩さない大関も、土俵上では感極まった表情を見せた。

 

 

この二つの取組の間の12分間、いかに気持ちを立て直したのか。優勝直後に貴景勝にインタビューした。

 

*****

 

――貴景勝関、優勝おめでとうございます。

 

ありがとうございます。

 

――今場所は2横綱2大関がいない中、大関としてプレッシャーもあったんじゃないですか。

 

 

自分はけがせずに万全の状態で出場していましたから、やれることを一生懸命やって、お客さんにいい相撲を見せる。それだけを考えていました。

 

――優勝を決めた瞬間の表情がとても印象的でした。あの瞬間はどういった感情が込み上げてきたんでしょう。

 

自分の調子が悪い時でも応援してくれた人たちの期待に応えることができた。それが本当に良かったなと言う思いでした。

12分間で無心の境地へ

――きょうの取組、まず本割では照ノ富士関の豪快な浴びせ倒しで敗れました。この一番はどう振り返られますか。

 

自分なりに集中して、やれることはやりました。でも自分の方が弱かったから負けた。そう思っています。

 

――本割から決定戦までの12分間、どんな事を考えていましたか。

 

悔いのない相撲を取りたいと思って土俵に上がりました。決定戦では自分の相撲をとって、もし負けたら来場所で出直して、また押し相撲をもっと磨こうと考えていたと思います。

まあ本割で負けてから決定戦が始まるまで、ほとんど記憶がないんです。今までの経験では計り知れないくらいの闘争心があふれていたからなのか、もしくはただ頭の中が真っ白になっていたからなのか、自分では分からないんですが。とにかく無心で、自分の相撲を取り切ろうと思ったのが良かったと思います。

 

――決定戦ではまさに大関らしい突き押しの相撲が出ました。

 

 

またひとつ、いい経験をしたなと思っています。今までは「どうしようか、こうしようか」と頭で考えて相撲を取っていたんですけど、初めて自分の体に任せて、脳の思考をストップさせるように相撲を取れました。自分が今までやってきたことが自然に出るように、何も考えなくても体が動いてくれたので、いい相撲が取れました。

大関にあがってから、いいことがなかった

賜杯を受け取った後の優勝インタビューで、貴景勝は次のようなことを語った。

 

「大関にあがってから、あまりいいことがなくて。こういう結果で終われたこと、本当にうれしく思います。」

 

 

新大関で迎えた去年の夏場所。四日目の御嶽海戦で右ひざを痛め、いきなり途中休場を余儀なくされる。次の名古屋場所も休場し、わずか2場所で大関から陥落。続く秋場所では12勝をあげて大関復帰を決めるものの、優勝決定戦で御嶽海に敗戦。その後も優勝争い終盤戦で星を落とす展開が続き、今年初場所では幕尻の徳勝龍に、先場所は関脇の正代に優勝をさらわれてきた。

さらにその間には再びケガでカド番を経験するなど、大関として苦しい日々が続いていた。

 

*****

 

――大関昇進からの日々を振り返り、今どんな気持ちですか。

 

自分の思い描いていることと、現実がなかなかマッチしてくれなかったですね。でも、自分よりもっとつらい思いをしている人たちもいる。自分にとって今が踏ん張り時だと思っていました。

 

――その中で一番苦しかったことは何でしょうか。

 

やっぱりケガですかね。心は元気なんですけど、体が言うことを聞いてくれない状態だったので。今までは体が多少痛んでも気持ちが引っ張ってくれたんですけど、ケガで体が気持ちについてきてくれない時は苦しかったですね。

 

――苦しい日々を乗り越えて得たものはどんなものだったでしょうか。

 

 

以前、「精神的に強くなれるのは、自分にとって良くないときだ」と教えてもらったことがありました。うまくいかない時にこそ精神は強くなれるんだと。だから、うまくいかなかったこと、良くなかったことはすべて自分の「深み」を増してくれているんだと、自分に言い聞かせていました。うまくいかなかったら来場所頑張ろう。また来場所頑張ろう。その繰り返しでした。その中でも自分を応援してくれる人たちがたくさんいたので、その人たちに支えてもらったことも大きかったです。

いざ綱取りへ

――来場所、いよいよ綱取りということになってくるかと思います。この点についてはどうお考えですか。

 

 

もう結果が全てなんで。強ければ勝つと思うし、負けたらまだまだ実力が足りないということ。今日からまた2カ月間、自分が強くなれるようにしっかり体を鍛えて、いい状態で一日一日やっていけば、後悔はないと思うので。そこに気を付けてやっていきたいと思います。

 

――来場所は休場した横綱・大関も復帰してくると思います。ファンとしては非常に楽しみです。

 

とにかくファンに喜んでもらえる相撲、活力を与えられるような相撲を取っていきたいと思います。

 

――貴景勝関、お疲れのところありがとうございました!

 

ありがとうございました。

 

 

サタデースポーツ/サンデースポーツ

 

 

 

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