特集 荒川静香さん解説!どうなる、異例尽くしのNHK杯フィギュア 女子シングル!?

11月27日(金)~29日(日)に開催されるNHK杯フィギュア。今回注目するのは女子シングルです。
他の種目と同様、今年は新型コロナウイルスの影響で紀平梨花選手や海外のトップ選手の多くが参加しません。でも、女子シングルは今年も見逃せないんです。ピョンチャンオリンピックに出場し、さらなる高みを目指す坂本花織選手や体調不良による長期休養から待望の復帰を果たした三原舞依選手、さらには、シニアに初挑戦となる次世代スター候補も続々登場します!
はたして誰がどんな演技を見せてくれるのか!?
トリノオリンピック金メダリストの荒川静香さんに今大会の見どころを詳しく聞いてきました!
何もかも異例となった今年のNHK杯、どうなる!?
――今年のNHK杯は、新型コロナウイルスの影響によりほとんどの海外選手が出場できなくなるなど、例年とは大きく異なっています。荒川さんはどんなところに注目していますか?
荒川静香さん(以下、荒川)
今年の国際大会は、どれも非常に難しい大会運営を強いられています。その中で、今回のNHK杯を開催できるようにしてくださった関係者の皆様がどんな思いで尽力されてきたかを思うと、胸がいっぱいになります。
選手たちにとっても大事な大会になるかと思います。例年ならNHK杯までに多くの試合を経験し、それらの試合で見つけた課題をこなしながらプログラムを向上させていきます。しかし今シーズンは試合数が少ないので、難しい調整の中で大会に臨むことになります。来シーズンには冬季オリンピックを控えていますし、現時点での自分の課題を見出すチャンスにもなると思います。
2019年はロシアのアリョーナ・コストルナヤ選手が優勝 。ロシアと日本の選手が上位を争う展開に。
――選手はどんなモチベーションで今大会に臨むのでしょうか?
荒川
日本で行われる唯一の国際グランプリシリーズですので、選手にとってNHK杯は憧れの舞台でもあります。私自身も選手時代はそのように捉えていました。例年ならば、日本から出場する選手は3人だけという狭き門ですが、今回は多くの日本選手にチャンスが巡ってきました。このような大舞台で演技を披露できることが、選手たちは楽しみなのではないかと思います。
――今年はコロナ禍において、選手たちの練習時間も限られていたと聞いていますが、それがどんな影響を与えると思われますか?
荒川
継続して練習できた選手もいれば、できない選手もいたと聞いています。ブランクをどう乗り越えて、自分のベストコンディションにもっていけるのか。スケートは日常にはない感覚なので、その感覚を戻すのに1週間休めば1か月かかる、みたいなところもあります。そういったプレッシャーもある中で、どんな演技をしてくれるのか未知数です。
ただ、日本の選手は勤勉ですし、どんなに苦しい状況でも気持ちをポジティブに転換することに長けていますから、伸びやかな演技を期待しています。
――ファンは、どんなところに注目したらいいでしょうか?
荒川
国際大会で、これだけたくさんの日本の選手が集う機会はそうそうありません。シニアでずっと日本を引っ張ってきた選手からジュニアとして挑戦する選手まで、一堂に会するという魅力的な大会になると思います。どんな選手がいて、どんな演技をするのか。また、どう飛躍して成長していくのかを見ていただければと思います。
荒川さんが注目選手を徹底チェック!
ここからはNHK杯に出場する女子シングルの選手の中から特に注目の5人について、今シーズンの仕上がりや大会での期待を荒川さんに解説してもらいました。
坂本花織(さかもと・かおり)選手
今シーズンの近畿選手権、全兵庫選手権、西日本選手権で1位の坂本花織選手。優勝候補のひとり。
荒川
初戦からダイナミックなジャンプを披露していて、もともと上手なスピンにも磨きがかかっている印象です。年々表現力が増していて、それが演技構成点にも表れています。実力的には優勝を狙っていく選手の一人。今シーズンはまだ4回転ジャンプは跳んでいませんが、個人的には4回転ジャンプ以上にどれだけ加点を伸ばせるかに注目しています。非常に飛距離のある3回転3回転のコンビネーションジャンプも魅力的ですので、彼女自身がどれだけ自分の満足する出来で滑れるかという点がポイントになってくると思います。
樋口新葉(ひぐち・わかば)選手
11月の東日本選手権で優勝を果たした樋口新葉選手 。トリプルアクセルに期待がかかる。
荒川
昨シーズンはなかなか結果を出せずに苦しんでいましたが、今シーズンは初戦からトリプルアクセルという大きな武器にもチャレンジしていて、成功する確率もかなり高まっていますから、質の高いトリプルアクセルを跳べれば高得点が期待できます。
また、今シーズンは持ち前のパワフルさがジャンプにもうまく表れていると思います。もともと音楽のリズムをつかむことが上手ですが、滑りやスピンにさらに磨きがかかっている印象です。表現も洗練されてきているので、いい演技を期待しています。
三原舞依(みはら・まい)選手
昨季は体調不良のためグランプリシリーズを欠場した三原舞依選手。10月の西日本選手権ではフリーで1位、総合で2位に入るなど調子を上げている。
荒川
復帰のシーズンとなりますが、ここまでは非常に順調な滑りを見せてくれていると思います。今シーズンの演技では、「本当にスケートが好きなんだな」というところがすごく表れていて、演技を見るのが楽しいですね。ジャンプも非常に軽やかで、難しい3回転の組み合わせもプログラムに組み込めるようになってきています。試合数が少ない中で、着実に調子を上げている印象を受けました。以前よりも体が細くなっている状態ですが、体重や筋力の低下を感じさせることなく、プログラムをしっかり滑りこなせています。今大会でもエネルギー全開の元気な演技を見せてほしいですね。
本田真凜(ほんだ・まりん)選手
表現力の高さが魅力の本田真凜選手。今シーズンは東京選手権、東日本選手権と苦戦が続いている。
荒川
今シーズンはまだ本田選手がもっている本来の調子ではないという印象を受けました。プログラムに組み込まれているジャンプの難易度を少し落としていて、今はプログラムをしっかりとまとめて滑り終えることを意識しているように思います。段階を踏んでジャンプの難易度を高めていく狙いがあるのでしょう。昨シーズンから継続しているフリープログラムは、彼女の表現力の豊かさを感じることができる魅力的なプログラムです。繊細さも力強さもある表現力の高さに注目してほしいと思います。
川畑和愛(かわばた・ともえ)選手
2019年の全日本選手権で3位という結果を残した川畑和愛選手。今年11月6日から行われた東日本選手権では5位。
荒川
迫力のあるジャンプと、ポジティブさを感じる滑りが印象的な選手です。10月の段階ではまだ本調子という状態ではなかったように感じました。ただ、質の高い滑りがありますので、最終的にはジャンプの完成度が上位進出のカギを握ってくるかと思います。
気になる優勝争いはどうなる!?
――今年は特に予想が難しいかもしれませんが、あえてズバリお聞きします!今大会の優勝争いはどうなりますか?
荒川
今シーズンは試合数が少ないので、確かに予想が非常に難しいのですが、坂本選手、樋口選手に加えて、韓国のユ・ヨン選手の争いになると思います。そして、ブランクを克服できれば三原選手にもその3人に食い込める実力があります。
2020年2月に行われた四大陸選手権で2位に入賞した韓国のユ・ヨン選手。日本では濱田美栄コーチに師事している。
荒川
優勝争いで重要になってくるのは、やはりジャンプの質になってくると思います。世界的に4回転ジャンプを跳ぶ選手が増えてきていますが、4回転ジャンプはハイリスクハイリターンです。成功する確率が低いのなら、3回転3回転などのコンビネーションの完成度を高めたほうがいいこともあります。
今大会では、昨シーズンから継続しているプログラムを選択して完成度や表現力に磨きをかける選手もいれば、まったく新しいプログラムに挑戦して、自分の可能性を広げようとする選手もいます。こなしてきた試合数も少ないので、波乱が起こる可能性もあります。まったくの未知数なので、私も含めて誰もがワクワクする大会になるのではないでしょうか。
2022年の北京オリンピックを控えた今シーズン。出場機会が限られる中で、選手たちがNHK杯にかける思いはこれまで以上に強いのかもしれません。日本中の期待と注目が集まるNHK杯でワクワクさせてくれるような演技を見せてくれることに期待しましょう!
荒川静香(あらかわ・しずか)
1981年12月29日生まれ。
トリノオリンピックで、ショートプログラム及びフリースケーティング共に自己ベストを更新し、アジア人としてフィギュアスケート女子シングル初の金メダルを獲得。2006年5月にプロ宣言し、本人プロデュースのアイスショー「フレンズオンアイス」、国内及び海外のアイスショーを中心に活動。2013年12月に一般男性と入籍、2014年11月に第一子、2018年5月に第二子を出産。現在は育児と並行して日本スケート連盟副会長を務めるほか、テレビ、イベント出演、フィギュアスケート解説、オリンピックキャスターなど様々な分野にも精力的に挑戦している。