ストーリー相撲

貴景勝 “集中して”横綱という大きな夢へ

2020-11-24 午後 06:40

貴景勝「集中してやります」

 

11月場所の貴景勝は何度、このことばを繰り返したかわからない。ただ1人の大関の重責も、優勝争いの重圧も、すべてと向き合った上でただ目の前の土俵だけを見つめる集中力が2年ぶりの賜杯をもたらした。

 

 

11月場所は観客が先場所の倍となる、およそ5000人に増えたが、両横綱に続いて、大関 朝乃山、さらには新大関 正代までもが早々に休場し、ファンを落胆させた。そうした状況の中でも看板力士として、ただ1人残った貴景勝は一顧だにしなかった。

 

貴景勝「人のことを気にしても意味がない。自分の相撲をとることだけを考えている」

 

貴景勝が土俵で見せたのは“自分の相撲”そのもの。低い当たりから突き押しでただ前に出る。相手が無理に押し返そうとすれば強烈ないなしが待っている。つけいる隙のない押し相撲で白星を重ねていった。

 

 

みずからも押し相撲で角界の頂点に立った元横綱 北勝海、日本相撲協会の八角理事長は「押し相撲で安定して勝っていくのは非常に難しい」と指摘する。押し相撲で白星を積み重ねていくためには、一気に前に出る思い切りのよさが欠かせない。少しでも”迷い”があれば足が出ず、踏み込みが甘くなる。いったんリズムが崩れれば、そのとたんに連敗してしまうこともある。

 

八角理事長「相手が全員、まともに来てくれるならいいけど、まともに当たれないこともある。それでも自分の相撲を貫くという集中力が必要になる」

 

貴景勝も毎日の取組後、繰り返し同じ言葉を話していた。

 

貴景勝「とにかく集中していこうとだけ思っていました」

 

“自分の相撲に集中する”。単純なことだが、それがいかに重要か誰よりも貴景勝自身が理解していた。

 

 

そんな貴景勝にも”迷い”が見えた取組があった。9日目、平幕の人気力士で、しこ名のように動きのいい翔猿との一番。相手の立ち合いを警戒したのか、やや慎重になり、思い切って前に出ることができずはたき込みで敗れた。

 

ただ、「何も言うことはない。10日目に、集中してやることしかできないので」と話した貴景勝。その言葉どおり、決して集中力を切らすことなく、また白星を重ねていったのだ。

 

八角理事長は、連敗せず場所を引っ張っていた貴景勝を「いいときだけ力を出すんじゃなくて悪いときも力を出す。この精神力が立派だ」と高く評価した。

 

 

千秋楽の優勝決定戦は迷いの一切ない、会心の押し相撲だった。優勝を決めた直後、珍しく表情を変え、涙をこらえているように見えた。

 

 

ただ1人の大関の責任、大関として初めての優勝を期待する周囲の声に24歳の貴景勝が重圧を感じなかったはずはない。そうした声やみずからが置かれた状況とすべて向き合った上で、ただただ目の前の土俵に”集中”し続ける、それがいかに困難なことだったかを土俵での表情が示していた。

 

 

来年1月の初場所は「綱とり」の場所となる。

 

貴景勝「小学校から毎日強くなりたいと思ってきてるんでそれを変わらず一生懸命頑張って、自分と向き合ってやっていきたい」

 

”ただ集中する”という単純で困難な道を歩み続けてきた貴景勝。その日々の積み重ねこそが、横綱という大きな夢につながっていく。

この記事を書いた人

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清水 瑶平 記者

平成20年 NHK入局。熊本局、社会部などを経て、平成28年からスポーツニュース部で格闘技を担当。学生時代はボクシングに打ち込む。

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