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特集 羽生結弦の振付師が見せた、親子関係も変えるフィギュアスケーターの育て方

フィギュアスケート 2020年11月19日(木) 午前10:33

羽生結弦選手の世界最高得点の演技を振り付けたプロスケーターが、最強コーチとして日本の子どもたちを1週間レッスン。

 

スポーツ、勉強、芸術、仕事など、何事にも壁にぶつかることがあります。

そして、その壁の原因がどこにあるのか自分では分からないことも…。

しかし、そんな壁も、世界で活躍する名コーチのレッスン一つで変わることがあるんです。

 

※この記事は2016年11月13日に放送された「奇跡のレッスン フィギュアスケート編」を再構成したものです。

世界的コーチ シェイリーン・ボーンさんの特別レッスン

 

カナダのシェイリーン・ボーンさんは、アイスダンスの選手として世界一になった経験を生かし、現在はプロスケーターとして活動するかたわら、振付師としてトップスケーターを指導しています。

世界最高得点を叩き出した羽生選手の「SEIMEI」を振付けたのもこのシェイリーン・ボーンさんなのです。

 

シェイリーンさんは世界中の子ども達にも指導を行っています。“子ども達の内に秘めた思いを気持ち良く表現できるよう手助けしたい”というシェイリーンさん。

 

2016年9月、福岡県のスケートリンクに通う小・中学生たちも、シェイリーンさんの特別レッスンを1週間受けました。

喜びの感情を出せない中学3年生の女の子と母の悩み

シェイリーンさんは、レッスンを受けるメンバーの最年長・江口璃咲(リサ)さん(中学3年・当時)の演技を見て、リサさんが抱えている課題をすぐに見抜きました。

 

出だしの演技は良かったものの、明るい雰囲気の曲調に変わった後、表情を変えられない…。

シェイリーンさん

リサの心の何かが喜びの感情を邪魔しているようです。無表情という仮面をかぶることで自分が傷つかないようにしているみたい。

 

じつは、リサさんの母・雪子さんにも悩みがありました。

 

 

「反抗期でコミュニケーションをあまりうまく取れてないので、親としてどうサポートすればよいのか…」。

「練習の出来不出来に口を出さずにただ見守るだけでよいのか…」と悩みを打ち明ける雪子さん。

江口さん親子はフィギュアスケートを通して互いにぶつかり、つい口げんかになってしまうこともあったんです。

シェイリーンさんのレッスン

1.二人一組で滑りながら“相手を笑わせる”レッスン

 

仲の良い友だちと二人で向き合って滑りながら、お互いに目をそらさず相手を笑わせるレッスン。

 

 

「シングルスケーターは、自分の世界に入って孤独になりがち。だからこそ“人とのつながり”が大事」と言うシェイリーンさん。

氷の上ですべての感情をさらけ出せば、ありのままの自分に出会える。

そうすることがより良い演技へと繋がっていくんだそう。

2.髪を振り乱して踊り、“動きを体で感じる”レッスン

 

観客の心を動かすには、普段人前では見せない感情を表現することも求められます。

 

この日は、激しい音楽に合わせてリンクで踊るレッスン。

女子生徒は結っている髪をほどき、激しく体を動かし、髪を振りながら滑りました。

 

 

「髪を結んでいるときと外しているとき何が違った?」というシェイリーンさんからの問いに、生徒たちからは「解放感」という答えが。

シェイリーンさんが伝えたかったのは“氷の上では優等生じゃなくてもいい”ということ。

シェイリーンさんから雪子さんへの2つのアドバイス

シェイリーンさんは、リサさんの母・雪子さんの悩みに対して、2つのアドバイスをくれました。

 

シェイリーンさん

会話をするときはフィギュアスケートの話だけでなく、人生のいろいろな話をするように心がけてください。


“愛している”と伝えてください。

 

アドバイスを受けた雪子さんは、「愛情は注いできたけれど、目に見える愛情を欲しがっているのかな?」と少し戸惑いました。

しかし、「私も変わる努力をしなきゃ…苦手だけど愛情を伝える努力を考えてみよう」と宣言。 

ちょうどそのころリサさんの誕生日が近かったので、思い切って行動に移すことに。

今までは練習が忙しく、なかなかお祝いの時間がとれなかったリサさん。

今回のレッスン中に15歳の誕生日を迎えたリサさんのため、雪子さんがサプライズでお祝いしました。すると・・・。

 

 

嬉しくて涙があふれるリサさん。“愛されている”ことが実感できた瞬間でした。

 

そんなリサさんを見てもらい泣きする雪子さん。

二人で“一緒にスケートを頑張っていこう”と誓い合いました。

 

 

その後、リサさんの演技に変化が…。

レッスン最終日、リサさんの演技に変化が現れました。

失敗しても顔を上げ、笑顔を見せるようになったのです。

 

 

どんなスケーターにとっても、ありのままの自分が受け入れられているという感覚はとても大切。

ありのままの自分を受け入れることで、苦手だった「表現をすること」が少しずつできるようになっていくと、シェイリーンさんは語ります。

 

また、リサさんが愛情を素直に感じられるようになり、母と娘の関係も変化していきました。

フィギュアで一番大事な感情は“愛”

 

自分が心を開けば、愛を与えることも、受け取ることもできる。そして、心が満たされればその喜びを表現できる。

だからこそ、常に自分の感情に正直でいることが大切。

自分の気持ちを偽っていては人の心を開くことも、自分の感情を届けることもできません。

 

表現とは自分の人生に観客を引きつけること。

 

世界的名コーチのレッスンは、子どもがフィギュアスケートでぶつかった壁の乗り越え方だけではなく、母と娘の関係をも変える名レッスンでした。

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