ストーリー相撲

現役引退の琴奨菊 感謝の気持ちを込めた“琴バウアー”

2020-11-16 午後 03:10

「できることはすべて土俵に置いてきた」

 

元大関 琴奨菊が19年の力士生活に別れを告げた。11月場所は中日8日目の折り返し地点。少し土俵から離れ、人気のベテラン力士の言葉からかいま見えた人間性に迫りたい。

 

 

今場所十両で相撲を取った琴奨菊は、現役最年長の関取のまま36歳で引退した。高校相撲の強豪、明徳義塾から角界に入門し、生涯のライバルとなる稀勢の里などと出会った。

 

初土俵から3年で新入幕、代名詞の「がぶり寄り」で番付を上げ大関昇進も果たした。

 

4年前、平成28年の初優勝は日本出身力士としては実に10年ぶりとなる優勝。幕内では15年以上かけて歴代6位の718勝まで1つ1つ白星を積み重ね、まさに記憶にも記録にも残る力士だった。

 

 

引退会見で琴奨菊から発せられた多くのことばには人間性があふれ出ていた。

 

大相撲では引退する力士に対し、報道陣からおきまりの質問がある。「土俵人生で思い出の一番は?」その答えは意外なものだった。大関昇進や初優勝を決めた一番など具体的な取組ではなく「すべてで!!のひと言。その理由については・・・。

苦労した時のほうが思い出に残っている。白星を挙げたときはみんなが喜んでくれた。それがよかったと思えた瞬間だったから。思い出の一番はすべて。

 

もう一度対戦したいという元横綱 稀勢の里の荒磯親方に対しては・・・。

自分が力を試せるいちばんの相手だと思って、何も考えずにぶつかった。ここまで来られて感謝している。

 

 

さらに琴奨菊の人間性が見えたのは、現役最後と決めて臨んだ6日目の一番について振り返った時だった。この取組の際、土俵上からファンに引退のメッセージを送っていたのだ。琴奨菊の取り口の代名詞が「がぶり寄り」なら取組前のルーティンは、上半身を大きく反らす“琴バウアー”。プレッシャーを克服し気持ちを落ち着かせるために始めたという。

 

 

最後に見せたその動作に、これまでの感謝の気持ちを込めた。

たくさんの人たちに応援していただいた。自分ができることは、すべてやったので勝っても負けても、この一番で終わろうと思っていたので感謝の気持ちを伝えたかった。

 

琴奨菊は、土俵に別れを告げるとともに年寄「秀ノ山」を襲名した。今後は新米親方として指導者の道に進む。その決意には、苦労を重ねた力士だからこそ発することができる物言いとやさしさがにじみ出ていた。

ぶつかった壁の先にある光景を知らずに苦しむ子がたくさんいると思うが、自分の経験を生かして勇気を与え、壁の先にある光景を見せられるようにしていきたい。

 

みずからの相撲に対して琴奨菊が常々、口にしていた「追究」の二文字。人間味あふれる指導で、若手とともに理想の相撲を追いかけ、ファンに愛される力士を生み出してくれることを願っている。

この記事を書いた人

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坂梨 宏和 記者

平成21年NHK入局 福岡県出身

長崎局、広島局などを経てスポーツニュース部で大相撲を担当。早くコロナが収束し、通常の取材環境になることを願っています。

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