特集 千代の国「必死に攻める。それしかできないから」

「諦めたくない。やっぱり相撲が好きだから」
幕内前半の土俵を連日盛り上げている30歳の千代の国の言葉だ。左ひざの大けがを乗り越え、9場所ぶりに幕内に戻った千代の国は、この日、体重が190キロを超える魁聖を投げで土俵に転がし初日から4連勝。さらに5日目も白星を重ねて好調だ。
11月場所4日目 魁聖(右)を掛け投げで破る千代の国
4日目の相撲、千代の国は立ち合いから突いて出たが攻めきれない。右を差されて組まれ、分が悪いかと思われた。
しかし、不利な体勢だろうと先に先に攻める、きっぷのいい相撲が千代の国の真骨頂。左上手に手がかかると投げを打ちながら左足で相手の足を跳ね上げる「掛け投げ」で50キロ以上重い相手をしとめた。豪快に巨体を転がすさまは、まるで柔道の内股。中学時代には柔道で全国大会に出場した経験もあり、時折、このような豪快な投げ技を見せる。強引にも映る投げ技は、入門時の師匠、あの大横綱 千代の富士と重なってしまう。
1989年7月 名古屋場所千秋楽 北勝海を破る千代の富士
しかし、この投げ技は、もろ刃の剣でもある。新入幕だった平成24年初場所、強引な投げが原因で右肩を脱臼し、3場所連続休場に追い込まれた。その後も、両ひざなどけがは絶えず、休場は19回を数える。
初場所10日目 勢との取組で負傷した千代の国
それでも千代の国は「土俵に上がったら必死に攻める。それしかできないから」と話す。
持ち味の自分から攻めるきっぷのいい相撲を変えるつもりはない。たび重なるけがを克服するため周りの筋肉を鍛え上げ続けてきた。これは師匠千代の富士の教えだ。
「諦めたくない。やっぱり相撲が好きだから」
この言葉とともに肩のけがは、1日1000回の腕立て伏せで、左ひざのけがは、しこやスクワットで周りの筋肉を鍛え乗り越えてきた。
11月場所に向け稽古する千代の国
6回目の入幕となった11月場所。場所前の取材では、同じくけがを乗り越えて番付をあげてきた照ノ富士や宇良の名前をあげ、「共通しているのは気持ち。折れない心」と話した。
けがのリスクを心配し、取り口を変えるよう指摘する声があっても、思い切り攻める。何度けがに見舞われても美学を貫く姿勢が幕内前半の土俵を盛り上げている。
この記事を書いた人

鎌田 崇央 記者
平成14年NHK入局
さいたま局を経て、スポーツ部に。プロ野球、水泳などを担当し、格闘技担当は通算5年目