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特集 北の富士勝昭が斬る 正代は横綱に一番近いのではないか

相撲 2020年11月6日(金) 午後5:50

正代が新大関に昇進し、白鵬と鶴竜の2横綱に、正代と貴景勝、朝乃山の3大関という番付で迎える11月場所(8日初日)。NHK大相撲中継でおなじみ52代横綱北の富士勝昭さんに、場所の見どころや大相撲の課題などを語ってもらいました。

正代は文句なしの大関昇進

 

 正代の大関昇進は文句なしだろう。秋場所の相撲内容はすばらしかった。10番勝てば上出来だと思っていたが、初優勝して秋場所で決めるとは驚いた。もともといいものは持っていたが、こうも短期間で変われるものなのか。やはり気持ちの問題なのだろう。

 

あんなに前に出る力士だったかな。朝乃山を押し倒した相撲は本当にびっくりした。現状の力の差が表れたような一番だった。これは正代のほうが綱にいちばん近いのではないか。そんな気すらしてきた。

 

陸奥嵐(元関脇 つりを得意に昭和40年代に活躍)みたいに顔が天井を向く立ち合いは、幾分あごを引くようになり当たりも強くなったし悪くはないと思うが、腰がちゃんと決まってもう少し低く立てるようになると、さらにいいのではないか。

 

足腰はいいし右四つがっぷりでも取れるし、相撲の幅が広いところもある。大関に上がるのは期待していたよりもちょっと遅かったが、体も柔らかいしケガをしない力士だけにこれからも楽しみだ。

休場者が多い ぶつかり稽古が少ないのも原因だ

 

秋場所は休場者が多かったが、7月場所との間隔が通常より短かったことが影響しているのかは何とも言えない。翔猿、若隆景、隆の勝あたりの活躍がなければ、散々な場所になるところであった。

 

今の力士は体のケアはかなり気を使っているようだが、かえって気の使いすぎというのはないだろうか。昔は捻挫だったらこう薬を貼っておしまいだったが、ぶつかり稽古をおろそかにしていることも少なからず原因としてあると思う。見ていて何であの程度でケガをするんだろうという場面が少なくない。

 

新弟子に言うみたいで私も嫌なのだが、ぶつかり稽古が少なすぎる。親方衆も分かっているはずだが指導しない。ぶつかりで転ぶ稽古をしない。怖いからやらないのだろう。体重が多い者が転ぶとドタッとなる。あれはコロンコロンと転がらないといけない。私らは体がよく動いたから何の苦もなくできたものだ。親方衆はもっと口うるさく言うべきだろう。

 

昔のことを言ったら笑われるかもしれないが、ぶつかる方は今は間隔をかなり空けて助走をつけてぶつかるが、本来は転んだら立ち上がってその場からぶつかるものだ。胸を出すほうも簡単に俵を割るのではなく土俵際に足が掛かったら、むしろ前に圧力をかけて残さないと。昔はきちんとした方法でやったから、私みたいな非力でも力がついたのだ。

正代と朝乃山は20代の元気なうちに横綱に

11月場所は休場となった白鵬と新大関 正代の稽古

 

11月場所は両横綱が休場となったが、朝乃山や正代あたりが中心になって土俵の上できっちりと引導を渡さないと、状況は変わらないに違いない。私も全盛期の大鵬さんには敵わなかったが、晩年になってからは負ける気がしなかった。そうは言ってもなかなか勝てなかったが、チャンスは出てきた。取ってみて大横綱でも弱ってきたのが分かっていたから怖さはなかった。正代も場所前に29歳になるし、朝乃山も26歳だ。20代の元気なうちに上に上がらないと。30代で上がったらそんなに長くは取れないからだ。

 

10/12 新大関 正代が稽古再開

 

ことしもあっという間に1年納めの11月場所を残すばかりだが、コロナのせいかどこかピンとこない。東京開催だから福岡の中洲に行けないのも残念だ。一体、いつになったら通常開催に戻れるのか。だからと言って力士たちは稽古が十分にできない、で済ますわけにはいかない。休場者続出は粗雑品を店頭に並べているようなもの。これだけ幕尻優勝や、あわや新入幕優勝かという場所が続けば、ファンとすれば、今は面白いと感じているが、こんな状況がいつまでも続いたら、そのうちそっぽを向かれるだろう。1年か2年に1回くらいは大波乱の場所があってもいいが、やはり勝つ者が勝ってしっかり場所を締めてもらいたい。

この記事を書いた人

古橋 明尊

古橋 明尊

元NHK記者。大阪放送局スポーツ専任部長、報道局スポーツニュース部長等を務める。現在は相撲専門雑誌「NHK G-Media大相撲中継」の編集担当。曙、若貴の横綱時代に大相撲取材。

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