特集 里崎智也が力説!ダイヤの原石をつぶさないのではなく、石ころをダイヤに変えろ!

もし自分の子どもがキャッチャーになりたいと言ったら、もしくは指名されたら、どんなことをしてあげたらいいのでしょうか?
現在、野球解説やユーチューバーとしても活躍され、歯に衣着せぬ発言で人気の元キャッチャー・里崎智也さん。
ご自身も2人のお子さんを持つ里崎智也さんに取材しました!
<前半「生まれ変わってもキャッチャーはやらない!?
里崎智也が教えるキャッチャーに必要なこと」はこちら>
里崎智也(さとざき・ともや)
1976年5月20日生まれ、徳島県鳴門市出身。鳴門工業高校から帝京大学に進学し、4年時に正捕手として22年ぶりのリーグ優勝に貢献。1998年のドラフト会議で千葉ロッテマリーンズから2位指名を受けて入団。プロ通算1089試合出場、打率.256、108本塁打、458打点。2006年と2007年に2年連続でベストナインとゴールデングラブ賞を受賞。2014年に現役引退。現在、野球解説者、タレント、ユーチューバーとして活躍。千葉ロッテマリーンズスペシャルアドバイザー。
小学生キャッチャーに足りないのは圧倒的にピッチング練習!
椅子に座った状態から、子どもを相手にピッチングをしよう。
僕が子どものころもそうでしたが、特に小学生のチームでは、守備や打撃に比べて、ピッチングの練習をあまりやらないんですよね。ということは、キャッチャーも投球を受ける機会が少ない。これではうまくなるわけがない。親が投げてもいいからピッチング練習をするべきです。
親が野球経験者でなければ、別にマウンドからホームベースまでの距離を投げなくてもいい。少し近いところから、親は椅子に座ってキャッチャーの子どもに投げる。これならば、体の負担はそれほどかかりません。
では、なぜ椅子に座った方がいいのか。それはボールを投げるときの「角度」が重要だからです。大人が立って投げると、受ける側の子どもにとっては普段そんな高い角度からボールが来ないわけです。椅子に座って高さを低くし、実際の試合に近い状況でキャッチングさせるといいですね。
親がしっかりキャッチャーの勉強を!
親も子も、一流選手のマネから入った方がいい。
親は野球観戦や著書を読んで、子どもは楽しく、親は必死に研究すべし。
子どもはもとより、親も経験のあるなしに関わらず、キャッチャーを勉強した方がいいです。
たとえば、プロ野球を球場やテレビ中継で観る。どこに打ったとか、いいピッチングをしたとか、何点入ったとか結果を見るのではなく、状況によってどこを守っているのか、ボールを持っていないオフザボールのときにどんな動きをしているのか、選手同士でどんな声を掛け合っているのかなどを見て、聴くようにした方がいいです。子どもは楽しく観戦していればいいけれど、親は研究しなきゃ。
キャッチャー出身の方の著書や記事を読んで、参考にしてほしいですね。まずは、いろんな人の考えに触れて、その中から自分に合う野球観や指導法を見つける。「私はこの人の理論でいこう」と誰か対象を決めた方がいいです。そうじゃないと、いざ子どもに伝えるときに「谷繁さん(元中日ドラゴンズ捕手)がこう言っていた」とか「古田さん(元ヤクルトスワローズ捕手)はこう言っている」となって、教わる側の子どもが「昨日と今日で言うてることが違うやん」となりかねない。
最初から子どものプレースタイルやフォームを自己流、つまりオリジナルで形づくろうとしてもなかなか難しいです。もし子どもに好きな選手がいたら、その選手のものまねから入った方がいい。マネることは、学ぶこと。上達の秘訣です。
イヤイヤやらせても、だれのためにもならない!
子どもはうまくできないからやりたがらない。
親子で一緒に乗り越えましょう。
キャッチャーだからやらなきゃいけないことって、正直それほど多くないです。あえて言うならば、イヤイヤやらせないようにすること。無理やりやっても、だれのためにもならない。能力はあっても嫌というなら、やめた方がいい。でも、キャッチャーをやったことがない、またはできないから嫌だというならやめる理由にならない。練習して、できるようになることです。子どもがキャッチャーというポジションで困っているのなら、親も一緒に乗り越えていかなければ。
キャッチャーをやりたがらない子って普段、キャッチャーのみじめな姿しか見ていないからですよ。キャッチングが下手でパスボールしまくる、肩が弱くて盗塁されまくる。泥臭くて大変なうえに華やかなプレーシーンもない、みたいな。しっかり取って、止めて、投げることができないと、そう思ってしまう。ストライクを投げられない子がピッチャーをやっても楽しくない、足が遅い子が外野を守っても辛く感じてしまうのと同じです。だからこそ、練習してうまくなれば大きな自信になりますし、周りからも一目置かれる存在になれるはずです。
練習は質より量!世の中が間違っている!?
福島県営あづま球場で行われた野球教室で指導する里崎さん
ダイヤの原石をつぶさないやり方より、石ころがダイヤに変わる可能性を考えたい。
最近は、世の中が間違っているんですよ。練習は量より質や、みたいな風潮になってしまって。球数制限を設けることもそう。それって、自分を厳しく律して、みずから進んで限界ギリギリまで追い込めるような一部の天才しかうまくならない環境ですよ。つまり、ダイヤモンドの原石をつぶさないための論理です。野球界はいま、そういう考え方が主流です。
でも僕は、質より量やと思っています。大人もそうだし、子どもならなおさらのこと。自分でゴールを決めて、それでうまくなれたかどうかを判断するのは難しい。マー君はどうだったの?松坂は?ジャイアンツの坂本やソフトバンクの松田は何年レギュラーなの?勉強でもなんでもそう。頂点を目指そうと思ったら、生半可なことでは無理ですよ。それこそオリンピックやパラリンピックで金メダルを取るような選手だって、自分でやる以上に、周りからやらされながらめちゃくちゃ練習してきたはずです。
だからこそ、新たな発見や成長、そして達成感を得られる。なんで野球界だけ呑気なこと言うてるんやって感じています。人間は、限界ギリギリのレベルで取り組むから成長すると思う。何もしなければケガもしませんが、練習せずにレギュラーを取れなければ誰からも見向きされない。多くの練習量をこなすことで、多くの選手に光り輝くチャンスが生まれる。石ころをダイヤモンドに変えられる環境が必要だと思っています。
親が心から野球を好きになることが大事!
親自身が心から野球を好きになり、子どもが好奇心を刺激する環境を整えること。
まずは、親が野球を心の底から好きなって、キャッチャーというポジションに魅力を感じることです。親が関心を持ってないものに、子どもが興味を持つはずがないじゃないですか。とくに、これから野球をはじめる、初めてキャッチャーをやる子どもにとっては大事なことです。
例えば、親がガチの千葉ロッテファンで毎試合、球場やテレビで一緒に観戦すれば、そりゃ子どもも野球が好きになるでしょ。
子どもが自主的に興味を持っていればぜひ応援してあげてほしいし、子どもの後追いでもいいから一緒にのめり込んで日常の会話で話題にしてほしい。好奇心が倍増するはずです。
それから、1つのポジションに固執する必要はないと思います。本来ならばやりたいポジションをやらせてあげるのが一番いいわけですから。とくに小学生は2つ、3つのポジションを守った方がいい。もっと言うならば毎試合、違うポジションをやっていいくらい。僕は奇跡的に、監督の判断がきっかけでキャッチャーをここまでやってこられましたが、子どもによってはもっと他に適性があるかもしれない。
複数のポジションを経験して、やっぱりキャッチャーが一番いいとなれば、本人も大いに自信が沸いて好きになるでしょう。将来的なことを考えても、いろんなポジションを経験している方が、成功する確率も上がる。メジャーで投手と打者の二刀流で頑張っている大谷翔平選手がいい例です。
プロとして活躍したいならバッティング練習を
現役時代 先制打を打つ里崎選手
キャッチャーは、他のポジションよりプロ野球選手になれる。
守備だけじゃなく、バッティングもしっかり練習しよう。
キャッチャーって実は、ちょっと目立てばプロ野球選手になりやすいポジションなんですよ。だって、1チームに7、8人はいるんだから。内野でも外野でも、1つのポジションにそれだけの人数はいません。とはいえ、いくら守備がうまくても、打てなければプロになれません。逆に、「打てるキャッチャー」になれば、プロになれる可能性が3倍ぐらいに跳ね上がります。周りの評価も「キャッチャーだから仕方ない」と他の野手よりハードルが低くなります。
でも、プロになるのが目標ではなく、プロで活躍することを目指すのなら、もっと厳しい競争が待っています。バッティングの練習もぜひ、頑張って!
他のスポーツもやらせて子どもの可能性を広げて
野球以外の個人競技に、上達のヒントが隠されています。
キャッチャーに限らず、野球が本当にうまくなりたいのなら、他のスポーツもやるべきです。とくに都市部の野球チームは土・日曜日や祝日だけ練習するところがほとんど。もし余裕があれば、平日に水泳や体操など個人競技のスポーツクラブに通った方がいいと思います。体力や柔軟性を高める効果があり、野球にも通じます。泳いだあとに、家に帰って素振りをすれば十分です。
あまりこういうことを言うと関係者から怒られそうですが、僕はむしろ、子どもが小さいうちから野球や団体スポーツをやらせない方がいいんじゃないかと思っています。どうせちゃんと練習しないし、友達に会いに行っているだけだから。
団体競技ってうまくなっているかどうか分かりづらい。チーム成績=個人の実力みたいな評価のされ方をするし、上達したかどうかの判定は試合で好成績を残せるかどうかがすべて。そもそも低学年はなかなか試合に出させてもらえないし、なんとか出場しても高学年と同じステージで戦うのでかないっこない。そうなると、自分がどれだけ上達したのか分からず、つまらなくなってやめてしまう。
その一方で、個人競技にはクラスや級があって、努力をすればランクアップするので成果が見えやすい。早いうちから無理やりチームスポーツをやらせるよりは、まず個人競技で体の動かし方を覚えて、頑張れば上達するんだという喜びを味わうことの方が大切だと思うわけです。
僕の子どもは幼稚園の年長ですが、水泳と体操の教室に通っています。うちの子が野球をやるかどうか分かりませんけど、もしやるなら小学4年生ぐらいからでええんちゃうか、というスタンスです。いろいろやってみて、その中に一番大事なヒントが隠されていることもあるし、遠回りしたかのように見えて実は近道だったということもある。子どもの可能性を広げられるものを選択肢の中に入れてあげることが大事ですね。
それと、親が子どもより必死になりすぎないこと。親が子ども以上に熱を持つと、そこに誤差というか微妙なバランスが生まれますから(笑)。