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特集 新大関 正代 目指すのは横綱「憧れもある」

相撲 2020年11月5日(木) 午後4:40

正代は秋場所の千秋楽、初顔の新入幕翔猿に攻め込まれながら、突き落としを決め、悲願の初優勝を果たしました。地元熊本で初の優勝力士となり、災害に苦しめられた郷里は歓喜に沸きました。大関昇進の伝達式では「至誠一貫」の言葉に覚悟を込めました。新大関としての決意を聞きました。 

熊本出身で初の優勝 暗いニュースを払拭できた

 父親 巌さん、母親 理恵さんと写真に納まる

 

――優勝、大関昇進おめでとうございます。いろいろな初がありますが、例えば東京農業大学出身者で初めての優勝や、熊本出身としては初めての優勝です。またいろいろな記録もあります。熊本出身では五八年ぶりの大関、時津風部屋からは五七年ぶりの大関。その中で何がいちばん心に残りましたか。

 

やはり熊本初の優勝がいちばん心に残りました。

 

――おばあさんの正代正代(しょうだい まさよ)さんは、今回の優勝と大関昇進をとても喜ばれたのではないですか。

 

はい。喜んでもらいました。熊本の暗いニュースを払拭できてよかった。

 

――地元の人は本当に喜んでいますね。

 

ありがたいことだと思っています。災害で被災された方が元気になったと言っていただくとうれしいです。地元の方々に楽しみになることを届けられたらと思っていました。熊本は、最近暗いニュースが多かったので払拭することができてよかったと思います。

場所前は想像できず 勝ち越して次と考えていた

 初日 正代(押し出し)隆の勝

 

――秋場所前には、かなり手応えを感じていましたね。

 

手応えと言いますか、自信ではないのですが、自分の立ち合いができたらそれなりの本場所の内容になるような気がしていました。

 

――優勝はやはり、まさかという感じですか。

 

そうですね。場所前はこういうことは全く想像できなかったです。まずこの場所を勝ち越して、次につながればいいと考えていました。

 

――初日からすごくいい相撲を取りましたね。あれだけ当たりが強い隆の勝関を一方的に持っていきました。

 

初日の隆の勝関戦、二日目の玉鷲関戦がいい手応えになったのだと思います。

 

――四日目に照ノ富士関に負けた相撲はどうでしたか。

 

相手にまわしを取られるのが嫌で腰が引けてしまった気がします。本来だったら前に出なければいけなかったです。まわしばかりを気にしすぎました。

 

――惜しかったのは七日目の隠岐の海関戦でしたね。

 

少しもまわしを取れなくて勢いも止められて慌てて前に出ようとして突き落としで敗れました。

 

――黒星に引きずられることなく、すぐに修正できましたね。

 

あの相撲は隠岐の海関にうまく取られただけなので、これは止まってしまってはいけないと思いました。

 

――最初に負けたときは、腰を引いてはいけない。そして二敗目のときには止まってはいけない。それぞれしっかりと修正ができていますね。

 

敗れた次の日によく体が動いてくれています。自分が負けた相撲の中でも、振り返って次に生かせたのがよかったのかなと思っています。

優勝争いが3回目 もう逃せない

14日目 正代(押し倒し)朝乃山 

 

――秋場所の後半に優勝争いをしていて貴景勝関戦といい、朝乃山関戦といい、すごく動きがよかったですね。

 

よく立ち合いも当たれていましたし、踏む込みもよかったと思います。

 

――特に朝乃山関戦はすごかったですね。

 

まわしを取られて捕まりたくないという気持ちで、何とか止まらないように気合いを入れていきました。

 

――優勝が決まったあとのインタビューを聞いていたら、千秋楽の前の晩、眠れなかったと言っていましたね。

 

緊張していました。優勝争いが三回目だという気持ちが大きかったです。

 

――今度こそはというプレッシャーでしたか。

 

これはもう逃せないという思いでした。

翔猿戦は頭の中が真っ白 無我夢中で覚えてない

千秋楽 正代(突き落とし)翔猿 

 

――翔猿関とはこれまで対戦はしていましたか。

 

やっていないですね。稽古で顔を合わせた程度でした。

 

――よりによってやりにくい相手でしたね。

 

そうですね。新入幕ということなのでやりにくいと思いました。

 

――動きが速いし、向こうは失うものがないですね。正代関は秋場所の対戦で最も動きが硬かったですね。仕切っているときはどうでしたか。

 

仕切っているときも思い切り当たろうと思っていました。時間いっぱいになったときは頭の中が真っ白でした。

 

――取組のことは覚えていますか。

 

相手に押し込まれたところまでは覚えています。

 

――そのあと押し返し、体を入れ替えて突き落としのところはどうですか。

 

無我夢中であまり覚えていません。私が土俵に残っているときに相手が落ちたことだけは分かりました。

弓取りの将豊竜の目が潤むのが見えた 

 4日目 時津風部屋の後輩将豊竜の弓取式

 

 千秋楽 付け人の肩を借りて涙を流す正代

 

――花道で思わずこみ上げてきましたが、どんな思いでしたか。

 

弓取りをする部屋の後輩の将豊竜が向正面に座っていて、目が潤んでいるのが見えたのです。何とかこらえて花道を引き揚げるときに、付け人を見てこみ上げてきました。緊張の糸が切れた感じでした。花道に戻って安心してしまったのですね。

 

――今回の優勝、そして大関昇進は地元の方々にとって大きなプレゼントになりましたね。

 

よかったと思っています。大関に定着したら横綱という気持ちになるかも。

 

――これからは横綱への昇進争いだと思います。白鵬関、鶴竜関がそんなに長くは君臨できないです。そうなったときに次の横綱は誰かということです。

 

大関に上がったばっかりで、そういう気持ちにならないです。大関に定着したら、横綱にという気持ちになるかもしれません。

 

――大関は駆け抜けてもいいのですよ。今までは朝乃山関が横綱昇進争いで一歩リードしていたのが、今回並びました。貴景勝関も当然狙ってきています。三人が横綱昇進争いで横一線ですね。先に大関に上がった人が横綱になるわけではないのですから。後から来た大関でも二つ優勝してしまえば横綱です。横綱になるしかないと思います。

 

正直、入門して目指すのは横綱だと思います。全力士が目指す頂点ですし、憧れもあります。

至誠一貫は入門時に聞いた 意味を調べ使った

伝達式で口上を述べる正代

 

――伝達式で、「至誠一貫」という言葉を使いましたね。時津風部屋の後援会の「木鶏会」の方と相談して決めたのですか。

 

大相撲に入門して「木鶏会」の方と食事をしたときに、そういう言葉を聞いていました。そのときは大関になるとは思っていなかったのですが、今回、伝達式に臨むことになって、改めて意味を調べていい言葉だと思い使いました。

 

――大関に上がったとたんにお見合いの話がいっぱい来たとかは、ないですか。

 

ないですね。あるのですかそういうのは。

 

――昔は大関に上がると、おかみさんはどうするのかと周りがいろいろと世話をしてくれました。

 

そういう話が来ても自分のことで精いっぱいです。まだ自分の中では横綱を目指す気持ちになっていません。

 

――大関をしっかりと務めたうえで横綱になるために、今何が必要だと思いますか。

 

今まで以上に立ち合いを磨いて、もし立ち合いに失敗してもそのあとの対応力が必要になると思います。千秋楽の一番でできたので、そうして勝利に結びつけることが大切だと思います。

この記事を書いた人

北出 幸一

北出 幸一

相撲雑誌「NHK G-Media大相撲中継」編集長。元NHK記者。昭和の時代に横綱千代の富士、北勝海、大乃国らを取材し、NHKを定年退職後に相撲雑誌編集長となる。

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