ストーリーパラスポーツ

頭脳スポーツ「ボッチャ」に女流棋士・香川愛生が挑戦!

2019-06-26 午前 09:59

 

パラリンピックの競技の中で急速に注目度が高まっている「ボッチャ」。的になる白いボールの周りに次々とボールを投げて得点を競う競技。シンプルなゲームを想像しますが、相手との駆け引き、戦略性など、頭脳派スポーツの一つです。

そこで、女流棋士・香川愛生(かがわ・まなお)さんにボチャの“頭脳派”ぶりを探ってもらうことにしました。香川さんはその強気な攻め将棋の棋風から「番長」とも呼ばれる気鋭のプロ棋士です。あらゆる戦法を頭に叩き込み、相手の出方によって打つ手を変える香川さんの将棋のセオリーが、ボッチャでどこまで通用するのでしょうか。

ボッチャは将棋より“一手”にかかる比重が大きい

香川愛生さん

持ち球は6球ですか。将棋は長ければ100手、200手と指せるので、待つことも大事だったりするんですが、6球だと攻める勇気が必要です。将棋より“一手”(1投)にかかる比重が大きいですね。

 

ボールを投げる前にボッチャのルールを簡単におさらい。レクチャーしてくれるのは日本ボッチャ協会事務局の新井大基さんです。

新井大基さん

ボッチャの基本ルールはシンプルで、大きく2つあります。①持ち球は1エンドにつき6球ずつです。 ②白い的球(ジャックボール)に味方のボールをどれだけ近づけられるかを競います。まずはこれを覚えておきましょう。

CHECK!!

■試合は6球ずつを投げ合うエンド制

ボッチャには「個人戦」(1対1)、「ペア戦」(2対2)、「団体戦」(3対3)の3種目があり、男女混合で行われる。持ち玉6球を使って得点を競う一連の流れを「1エンド」とし、個人戦とペア戦は4エンド、団体戦は6エンドで勝敗を決める。

CHECK!!

■得点の計算方法

6投ずつを投げ終えたエンド終了時、的球にもっとも近いボールを投げた側にのみ得点が入る。

的球に近いボール1個につき1点。

下の得点例の場合は、青が赤よりも3球、的球に近いため、青に3点が入る。

 

新井大基さん

ボッチャには、基本的な投げ技が3つあります。1つ目は持ち球を的球に近づける「アプローチ」という技。2つ目は邪魔な球に持ち球を思いきりぶつけて弾き飛ばす「ヒット」。3つ目は止まっている自分の球を押すことによって的球に近づける「プッシュ」です。では、実際にコートでボールを投げてみましょう。

 

CHECK!!

■コートとスローイングボックス

コートの大きさは、バドミントンとほぼ同じ12.5m×6m。投球はコート手前の6つに区切られたスローイングボックス内(2.5m×1m)から行う。

個人戦では、ボックスの③④(③が赤、④が青)、ペア戦ではボックスの②~⑤(②④が赤、③⑤が青)、団体戦ではボックスの①~⑥(①③⑤が赤、②④⑥が青)を使用。

的玉(ジャックボール)は、Vラインより奥のコート内に必ず投球しなければならない。

 

ポイントは思考×投球技術

さあ、試合の始まりです。赤いボールの新井さんが先攻、青いボールの香川さんが後攻です。ボッチャでは先攻がまず白色の的球(ジャックボール)を投げ、続けて1投目を投球します。先攻の新井さんは、自身に近い位置、つまり香川さんからは遠い位置に的球を投球。そして1投目は、香川さんと的球との最短コースをブロックするように、香川さんの手前に置きました。

 

▲香川さんの最短コースをあらかじめブロックした新井さんの1投目

新井大基さん

すでに駆け引きが始まっていますよ。相手の投げたい場所をあらかじめつぶしておくことで、相手が失敗する確率が高まります。相手にやりたいことをさせない状況を作って心理的にプレッシャーをかけていくわけです。この心理戦がボッチャの面白いところなんですよ。

香川愛生さん

なるほど。将棋でも序盤は自分の準備してきた作戦、好きな形にどう持っていくかを考えるので、基本的な考え方は同じですね。さて、新井さんに的球の手前をふさがれてしまったので、私は別の角度から攻めたいと思います。

 

 

  • ▲香川さんのボール(青)よりも、新井さんのボール(赤)が 的球に近いので、香川さんの投球が続く
 

ボッチャでは、全てのボールを投げ切らない限り、的球(ジャックボール)から遠いボールを投げたサイドの投球となります。香川さんの青いボールは二つとも赤いボールよりも遠い位置にありますので、次も香川さんが投げます。香川さんは的球の後方から攻める作戦のようですが、ボールコントロールが定まらず的球の近くに寄せることができません。ボッチャでは、戦術に加えてボールを思った位置に投げる投球技術も必要なのです。

 

▲香川さんは、すこしずつ慣れてきたが、なかなか的球に寄せきれない

 

香川さんは、立て続けに5つのボールを投げましたが、的球に寄せることができません。残りのボールは1つ。最後のボールは、表面がしっとりしていて滑りにくい人工皮革のボールです。

CHECK!!

■ボールの特徴

ボッチャで使用するボールは3種類。重さや大きさは同じだが、表面の材質が異なり、弾み方や転がり方が変わる。凹凸が少なくまっすぐ転がりやすい「天然皮革」、表面が毛羽立っているので滑りやすい「フェルト」、表面がしっとりとしていて滑りにくい「人工皮革」がある。

 

いよいよ最後の投球。香川さんは、的球のすぐ横に狙いを定めました。作戦通りにコントロールされたボールは落下点にストップ、的球にピタリと寄せる見事なアプローチショットになりました。滑りにくい人工皮革のボールの特性を生かしたスーパーショットです。

 

  •  
  • ▲香川さんの6投目(青)は、的球にもっとも近い位置に
  • 香川愛生さん

    ボッチャは、どのボールをどう生かそうかなって考えるのが楽しいですね。滑りにくい人工皮革のボールは、攻めにも受けにも活用できるので、将棋の駒でいうと「銀将」だと感じました。勝負のカギを握る“勝負ボール”ですね。

新井大基さん

その通りです。相手がどの種類のボールをいくつ手元に残しているかも勝敗を決めるポイントになります。

 

形勢逆転。香川さんの青いボールより新井さんの赤いボールの方が的球から遠い位置にありますので、今度は、新井さんが投げます。新井さんの腕の見せどころ、長考の末に新井さんが選択した投げ技は自分の球を後ろから押すようにして的球に近づける「プッシュ」です。


新井さんは、2投目を使って自分の赤いボールを後ろから押し白い的球にくっつけました。さらにそのまま的球を動かして、的球と香川さんの青いボールの距離を広げたのです。難易度の高いミラクルショット。香川さんはすでに6投球を終えていますので、新井さんの勝利が決まりました。

 

  • ▲新井さんのミラクルショット、まずは的球の手前にある自分の赤いボールを押し出して的球にくっつける
  •  
  • ▲そのまま、香川さんの青いボールを的球から引き離す

香川愛生さん

悔しいなぁ……。でも、すごいテクニックを目の前で見られて感動しました。ボッチャという競技は、すごく奥が深いですね。局面ごとに次の展開をシミュレーションして、的確な作戦を立てるところまでは将棋と似ていますが、ボッチャではさらに、立てた作戦通りに正確に投球するテクニックがモノを言います。思考だけでなく、投球技術が伴わないとダメなスポーツなんですね。

「三手の読み」で局面を乗り切る

―ボッチャを体験してみて、どう感じましたか?

香川愛生さん

将棋でよく言われる「三手の読み」という考え方が応用できると思いました。将棋では、先の先まで読もうとしても状況は刻々と変化するので「自分がこうやる、相手がこうくる、そこでこうやる」という、三手先の局面を確実に考えることが基本で大切なんです。将棋はある程度強くなると、相手の指す手がだいたい分かってくるので、ボッチャでも経験を積めばできるようになるのではないかなと。でも、投球テクニックの方は、自信ありませんけど(笑)。

 

―ボッチャの世界から見て、棋士である香川さんの作戦はどうでしたか?

新井大基さん

戦術を考えるテンポがとても速くて驚きました。ボッチャの場合は次に相手がどのような投球をしてくるのか、相手の投球後に自分はどうするか、先の展開を何パターンも考えるのですが、香川さんも相手のミスを誘うような配置をいくつも考えながら投球していましたね。

 

―2020年に向けて、ボッチャの人気がさらに高まると良いですね。

香川愛生さん

ボッチャは、お年寄りから子どもまでみんなで楽しめる素晴らしいスポーツです。頭脳と技能の両方が必要な奥の深い競技ですので、将棋と同じで、攻め方を考えながら試合の模様を見ることもできます。これから競技人口もファンも増えていくのではないでしょうか。2020年の東京パラリンピックでは、世界のトッププレーヤーが東京に集結します。競技場に出かけて行って洗練されたプレーを観戦して、応援したいと思います。

CHECK!!

■東京2020の見どころは?

日本代表チームの愛称は「火ノ玉JAPAN」。ここぞという時に決める技術と精神力が強み。日本代表はリオパラリンピックと2018年8月の世界選手権の団体戦で共に銀メダルを獲得。決勝で破れたのはいずれもタイだが、2017年のバンコク・ワールドオープンやジャパンパラボッチャ競技大会では、タイから勝利を収めており、東京2020で史上初の金メダルに輝くチャンスは十分にある。

 

日本のキープレーヤー 廣瀬隆喜選手
©アフロスポーツ



※こちらは、2019年6月26日に公開された記事です。内容は公開時のものとなります。

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