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特集 21歳・熱海富士 ~快進撃を支えるものは~|推し相撲

相撲 2023年9月21日(木) 午後11:30

「悔しいっす」

こう言いながら支度部屋に戻ってきた21歳の熱海富士。ふだんは笑顔がトレードマークの力士だが、12日目は2敗目を喫し厳しい表情だった。ただ優勝争い単独トップは変わらない。もし優勝すれば初土俵から18場所目、年6場所制が定着した昭和33年以降で、幕下や三段目の付け出しの力士を除くと最速の記録となる。熱海富士の快進撃を支えているもの、それに今場所の表情を伝える。

 

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厳しい稽古の日々、そして...

伊勢ヶ濱部屋に入門した熱海富士は順調に番付を上げ、初土俵から2年となる去年の九州場所で新入幕を果たした。

 

新入幕会見で(2022年10月)

しかし、この場所で4勝11敗と跳ね返されて十両に戻る悔しい思いを経験。そこから4場所かけて今場所ふたたび幕内の土俵に戻った。

 

翠富士(左)と稽古する熱海富士

私はその間、何度も、伊勢ヶ濱部屋で熱海富士の稽古を見た。また幕内の土俵に戻れるのか何の保証もない中、何十番も相撲を取り、泥にまみれる姿があった。

 

横綱・照ノ富士(右)の指導を受ける

師匠の元横綱・旭富士の伊勢ヶ濱親方や横綱・照ノ富士からの指導に涙をにじませるような日もあった。そうした日々が少しずつ力となって表れ、得意とする右四つの相撲も洗練されてきた。

 

今場所の9日目、金峰山戦。立ち合い、素早く左の前まわしを引き、一気に前に出て寄り切り、勝ち越しを決めた。

 

今場所9日目 金峰山を破る

相手の懐に潜り込むような姿勢から左腕を伸ばして前まわしを引く、そのやり方は稽古場で横綱から指導を受けていたものだ。快勝のあとも、満足していなかった。

熱海富士

(まわしの取り方は)全然まだまだだと思うので、もっとうまくなりたいっすね。

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場所中にも成長は続く

翌10日目には1敗で並んでいた高安との直接対決。

 

高安との1敗同士の対戦を制す

馬力のある高安を吹き飛ばす相撲で破り、単独トップに立った。

 

続く11日目、初めての三役戦となる小結・翔猿との一番が組まれた。

 

翔猿を上手投げで破る

立ち合いで組み合う展開となり、左上手を取ると、そこから豪快な上手投げ。三役にも臆することはなく、ふた桁の白星に一番乗りとなった。

熱海富士

三役と当たるのも初めてだったが、勝ててよかった。緊張することもなく落ち着いていけたかなと思う。ふた桁、うれしいですね。

 

12日目、連日の三役戦。相手は関脇・大栄翔。

組めば熱海富士、突き放せば大栄翔が優位になるとにらんでいた。

 

大栄翔との一番

立ち合い、大栄翔が強烈な突き押しで攻め込み、一方的な展開になるかと思いきや、熱海富士も突きで応戦。一歩も引かなかった。

 

 

しかし、大栄翔がタイミングよく引き、熱海富士は土俵に手をついた。支度部屋の熱海富士からは何度も悔しいということばが出た。

熱海富士

負けたのが悔しい、切り替えて頑張りたいですね。

 

猛稽古を積んで実力をつけた若手に対する周囲の評価は高い。日本相撲協会の八角理事長は、2敗目を喫したものの、熱海富士の相撲をたたえた。

 

八角理事長

熱海富士は引かない、いい相撲で緊張感があった。場所中にも成長している。臆することがない。いつも横綱と稽古をやっているからか。この経験を大事にしてほしい。まだまだトップに立っているし、まだ行けると思う。きょうみたいな相撲を取れば開けてくる。

 

 

13日目は星1つの差で追う貴景勝戦。快進撃を見せてきた若手が大関を打ち破り、その先にあるものに届くのか。秋場所は残り3日となった。

 

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この記事を書いた人

舟木 卓也 記者

舟木 卓也 記者

平成25年NHK入局。令和2年秋からスポーツニュース部。

プロ野球(ロッテ)担当を経て、現在は大相撲や柔道など格闘技担当。

 

 

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