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特集 三笘薫と天皇杯 ~インタビュー後編~

サッカー 2023年9月26日(火) 午前11:00

熱戦続く天皇杯はJ1リーグ、Jリーグカップと並ぶ国内3大タイトルの一つです。プロチームだけでなく、社会人チームから大学のサッカー部まで年齢制限のない幅広いチームに参加権が与えられる、まさに“日本一”を決める大会です。今回、第103回天皇杯のアンバサダーに就任したのが三笘薫選手です。天皇杯を経験して日本を代表する選手となった三笘選手に天皇杯への思いを聞きました。インタビューの後編です。

 

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フロンターレでの優勝 第100回大会

 

Q.フロンターレ時代には節目の第100回大会で、ご自身のゴールで優勝という経験をされました。

A.僕自身プロ1年目の大会でした。リーグ優勝して、カップ戦ではJリーグ杯が獲れなかったので、天皇杯は絶対とりたいという気持ちが強かったです。そして中村憲剛選手が引退される年だったので、そういった面でも最後にいい形で送り出したいという気持ちを全員持っていました。元日までサッカーをやって最後に負けるっていうのもなかなか締めとして悪いなという気持ちもあったので、絶対勝ちたいと思っていました。

 

Q.それで勝った。すごいと思いますけど、元日の国立の雰囲気っていうのはどうでしたか。

A.その時初めて新しい国立でプレーしました。(コロナ禍で)そこまで声援はなかったんですが、やっぱり大きいなって、スタジアムが大きいなと感じました。まあ国立でプレーしているという実感を、当時はそんなには持てませんでしたが。

 

 

Q.大晦日に試合前日の準備をしている。独特な経験だと思いますが、三笘さんはどうでしたか?

A.そうですね。まあいつもは休んでいる時期なので。ここまでサッカーの準備をしているのはやっぱり2チームだけなので、日本の中で。ここまでサッカーができる幸せっていうのを感じていました。まあ元日でいろんな方々が見られると感じていたので、すごくチャンスだなとも思っていました。

 

Q.チャンスというのは?

A.まあいろんな方に僕のプレーを見てもらえるっていうのと、勝つことだったり、いいプレーをすることで、いろんな方を喜ばせることができるなと思っていました。

 

Q.子どもの頃に見ていたとおっしゃっていた天皇杯のタイトルをとった時の気持ちはどうでした?

A.天皇杯は自分の大会なんじゃないかっていうくらい、いつもより点を取れるイメージはありました。そこにすごく縁を感じていました。準決勝、決勝と自分のゴールで勝ち進んで行けたので、チームの中で貢献できたっていうのをすごく感じていたので、優勝という結果は自分の中でも手ごたえがありました。

 

2021年天皇杯決勝

Q.「自分の大会なんじゃないか」と思われたんですね?

A.優勝した後に思いましたね。まあどちらも簡単な試合ではなかったんですけど、チャンスがくるというか。チームメイトのおかげではあるんですけど、なぜかチャンスがくるシーンが多かったので。そういった面では「ついてるな」と思っていました。

 

Q.決勝のゴールシーンは、抜け出してきっちり角度作って流し込んだように見えましたけど、あのゴールを振り返るといかがですか。

A.すごく冷静に入れたっていうのが良かったです。ダミアン選手のボールがほんとに素晴らしくて、もう抜け出してキーパーと1対1で相手を見る余裕が生まれるようなパスでした。それまでに至るチームのビルドアップと、最後のラストパスによるものかなと思っています。

 

 

Q.中村憲剛さんのラストゲームを自分のゴールで優勝を決めて送り出せたということに関しては?

A.自分のゴールというよりかは、やっぱり優勝で送り出したい気持ちは強かったです。でももっと欲を言えば、一緒にプレーをして終わりたかったです。そこは悔しいですけど、しっかりとチームに星を付けることができて、自分たち後輩がいいプレーを、優勝させて送り出せたのは良かったなと思います。

 

 

Q.やっぱり愛するクラブに星を付けるというのは、どんな気持ちですか?

A.僕自身在籍した1年半で、星をつけたのは2個ですけど、それがチームの強さを表しますよね。過去を振り返った時に、チームが強かったって言われる、あるいは一時代を築いたって言われるところだと思います。結局いいサッカーをしても、過去を振り返った時に優勝していなかったら、思い出されないこともあると思うので、そういった面では優勝するのは、ほんとに価値があることだと思います。

 

振り返る天皇杯の名シーン

Q.前編で印象に残っている天皇杯で播戸さんのゴールを挙げていただきましたけども、他にも名シーンでよく流れるのはストイコビッチ選手がキックフェイントで3、4人を倒してゴールした試合もありました。

 

ディフェンスをかわしゴールを決めるストイコビッチ選手 (2000年の天皇杯決勝)

A.ありましたね。サンフレッチェ戦ですかね。あれは子どもながらに、なんであんなに人が倒れていくのか、シュートフェイントで転んでいくのかなと思っていました。あれが天皇杯の決勝だと思って見てなかったんですが、決勝の舞台でああいうプレーをしてるというのは、ほんとにクオリティーが高いというか、メンタルもそうですし、素晴らしい選手がああいう形で優勝しているのを見るとやっぱり歴史のある大会だなと思います。

 

Q.1-0で勝っていた試合で、最終盤にとどめを刺すゴールだったんですよね。

A.一番気持ちいいゴールだと思いますね。1-0で緊迫している状況で、最後追加点をとるっていうのは、試合を決めきる意味でもそうですし、お客さんが喜ぶプレーというか、ああいうプレーを見に来ていると思うので、自分もそういうプレーをしていきたいなと思います。

 

 

Q.今の三笘薫選手だったら、あのストイコビッチ選手がなんであんなに倒せたか、通じるところもあるんじゃないかと思うんですが。

A.そうですね、まあキックフェイントというかシュートのリアリティーがあることだと思うので、あとはやっぱり顔を上げているとか、よりタッチが細かいとか、そういうところだと思います。技術はすごく入ってるんじゃないかと思いますね。

 

大学チームの活躍について

Q.大学時代のお話も伺いましたが、今回も学生チームが出場しました。アンバサダーとして学生チームにどんな期待をしていますか。

A.そうですね、僕自身ほんとに人生が変わったといってもいいぐらいの大会ですし、それだけいつも見てくれない人たちが見てくれて、それがスカウトにつながってプロに行ける選手もいれば、ワンプレーで人生が変わる人もいる。ほんとにいろんなチャンスがある大会だと思います。ケガなく、自分をアピールする場でもあるので、いろんな大学があると思いますが、そういった価値というか、サッカーを広めていくというところでも、素晴らしい大会だと思うので、頑張ってほしいなと思います。

 

競り合う関西大学の吉永選手(左)と浦和レッズの小泉選手

Q.ことし関西大学がレッズと試合をしました。アジアチャンピオン相手に延長まで戦ったんですけど、学生のプレーや表情などをご覧になってどんな印象を持たれましたか。

A.僕も筑波大時代を思い出しましたし、まあやっぱりアジアチャンピオンにこれだけできるっていうのは、すごく日本サッカーもレベルが上がってきたなと。特に、下の突き上げっていうのがあって、それはすごくいいことだと思うので、これからそういった選手がプロになって、また日本を強くしていくっていうのを考えると、すごくいい循環ができているんじゃないかと思います。臆せずプレーしている姿を見て、やっぱり姿勢っていうか、強い相手にもそういった姿勢を見せるっていうのは、勝つ確率を上げるなという風に思うので、ワールドカップなどでも、自分たちも見習っていきたいと思いますね。

 

延長の末に関西大学は浦和レッズに敗れた

Q.やはり学生サッカーが盛り上がって欲しいという思いはアンバサダーとしてありますか。

A.そうですね、やっぱり筑波大学出身として。大学生が天皇杯で勝ち上がって行けば注目されますけど、やっぱり日常の大学リーグのお客さんというのはまだまだ少ないと感じてますし、そういったところも増えていけばより日本サッカーも強くなっていけると思います。いい選手がいるのは確かなので、そういったところから注目してもらえるとうれしいですね。

 

去年の天皇杯はJ2のヴァンフォーレ甲府が初優勝

Q. 学生ではありませんが去年は、準決勝でアントラーズに勝ったヴァンフォーレ甲府が優勝しました。

A. 甲府はJ2で、当時順位的にもそこまで高くなかったと思うんですけど、やっぱり一発勝負の強さっていうのはあるんだなと思いました。やっぱり、サッカーを見ていて、どこにでも勝てるようなサッカーをしていましたし、まあ僕の奥さんが山梨出身なのですごく喜んでいましたけど・・・(笑)

 

甲府市内で行われた天皇杯優勝パレード

どこのカテゴリーにもチャンスがあるっていうところと、やっぱりJ2の甲府が優勝した時に、すごく甲府が盛り上がっているところを見て、地域にどれだけの影響を与えられるかというのを感じてたので、やっぱりそれだけ勝つことに意味があると思いますし、うーん、そういった人たちを喜ばせるために頑張ってほしいなと思います。

 

天皇杯の魅力を語る

Q.いろんな角度から天皇杯について伺いました。ジャイアントキリングも、優勝も経験した三笘さんにとって天皇杯の魅力というのはどんなところですか。

 

 

A.下のカテゴリーとしても戦いましたし、J1の当時リーグ優勝して上のカテゴリーとしても戦いました。サッカーの難しさだったり、弱者が強者に戦っていく楽しさだったり、子どもの頃やっていた試合や大人になってきて難しくなっていくようなサッカーなど、そういったところを味わえた大会だったと思います。ほんとに自分が所属するチームによっても考え方や戦い方が変わるという面白い大会でした。それでも、どのカテゴリーでも全員が勝ちを目指して、勝つか負けるかの勝負なので、試合が始まったらそのカテゴリーも関係ないですし、そういった面では楽しめる大会でしたし、僕自身も人生を変えてくれた大会だったと思っています。

 

 

Q.一発勝負というところはどんな風に感じてましたか、その魅力や怖さは。

A.例えば、試合開始30秒で得点して、それを守り切って勝ち上がるってサッカーでは全然ある話です。何が起こるか分からない、やっぱりリーグ戦の緊張感と一発勝負の緊張感は少し変わってくるので、戦い方もそうですし、より慎重に入らないといけなかったり、戦術的にも変えないといけなかったりというのがあります。その緊張感が楽しさというか、見てる側もやってる側も楽しいというのは感じていると思います。シーズン中に、一発勝負の試合っていうのはなかなかないので、そういった面で緊張感を味わいながら試合をできるっていうのはいいことですし、ワールドカップなどの大会はそういったところも入ってくるので、いい経験になると思います。

 

ワールドカップ 決勝トーナメント1回戦のクロアチア戦 (2022年) 

Q.ご自身、ワールドカップカタール大会で、天皇杯の経験が生きたところは。

A.いやー、難しいですね。天皇杯に限らずやっぱり一発勝負の怖さっていうのは、何度も試合をしてきて分かっていましたけど、やっぱり少しいつもより緊張している雰囲気っていうのはチームにもあったかもしれないですし、慎重になってしまうところが出てしまったなっていうのも感じていました。どの大会でもスタジアムの雰囲気だったり、チームメイトの感情だったり、そういった姿勢とか全てが関わってきてチームの勝敗につながっていきます。天皇杯で優勝したからといってワールドカップに全てつながるという風には思わないですし、いろんな一発勝負の場を経験して、いろんな対戦相手を経験していくことで養われていくことかなと思います。

 

歴史のあるカップ戦の重み

Q.一発勝負でいうと、今シーズンはFAカップを経験されました。FAカップの雰囲気っていうのはどうでした?

A.準決勝は9万人ぐらい入ってウェンブリーで試合をしたっていうのは、振り返ってみても、今後振り返ってもなかなか経験できることではないので、すごくいい経験にはなりました。試合をしてみて、うーん、自分に足りないところをすごく感じた試合でした。やっぱりマンチェスターユナイテッドの選手の場慣れしてる感じっていうのは僕たちから見ても、あるなと思ってましたし、やっぱりそういう経験をしていかないと、結局は勝負強さだったり、判断だったりっていうのが養われていかないと思いました。まあいい経験にはなりましたけど、やっぱああいう場で勝っていくっていうのが自分には必要だなと思います。

 

FAカップのリヴァプール戦で決勝点を決め喜ぶ三笘選手

Q.ただリヴァプール戦ではスーパーゴールも決まって、天皇杯は自分の大会だっておっしゃってましたけど、FA杯もこれから三笘さんの大会に・・・

A.いいですね(笑)FAカップとカラバオカップ、どっちも自分の試合って言いたいですね(笑)。頑張ります(笑)カップ戦に強いタイプって言えるようにしていきたいなとは思います。やっぱりそれはメンタルのところが影響してると思いますし、そこで結果を出せる選手っていうのがやっぱりいい選手だと思います。まあ僕も日によってやっぱりメンタルのばらつきがあったりするので、どんな試合でもどんな緊張感でも、どんなにたくさん観客がいても、常にいいプレーができるようにしていきたいです。それが日本代表の試合もそうですし、クラブの試合もそうですし、ワールドカップもそうですし、そいうったところで100%以上のプレーができるようにしていきたいなと思っています。

 

Q.FAカップのウェンブリーの雰囲気なども感じられて、日本の天皇杯はどんな風により成長していってほしいと感じますか。

 

 

A.日本で一番歴史のある大会だと思うので、それだけサポーターの人もそうですし、関わっている選手やスタッフの人もそうですし、より注目度もそうですし、大会の重みを感じてプレーしていくっていうのは必要かなと思います。そういった光栄なところを目指してプレーしていく、いろんな方々にサッカーの楽しさを見せていく、広めていくっていうところでもそうですし、それだけ大きな大会っていうのは全員が自覚していなければいけないと思います。

 

Q.まあもともとFAからカップを協会がもらって、それで(日本サッカー)協会ができて天皇杯につながったんですよね。

A.そうですよね。まあやっぱりイングランドは母国なので、そこからインスピレーションを受けて天皇杯ができたというのは、すごくいいなと思います。僕自身イングランドでプレーしてFAカップの大きさっていうのも感じて、天皇杯の大きさも感じて、すごくこのアンバサダーの話をもらって縁を感じていたので、それだけいろんな方々に注目をしてもらえたら嬉しい大会ですね。

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