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特集 2人の「二刀流」"仲間がいたから頑張れた" ~最後の夏~

バレーボール その他のスポーツ 2023年7月18日(火) 午前11:00

「また今日も?!」毎日のようにお茶の間をにぎわせている大リーグ・エンジェルスの大谷翔平選手。打ってよし、投げてよしの「二刀流」は多くの人を魅了している。

 

すっかり定着した「二刀流」だが、宮城県大崎市の中学校の女子バレーボール部に、バレーとほかの競技の両方で活躍する「二刀流」の選手がチームに2人もいる。ことし5月、そんな情報がNHKに寄せられた。自分の中学時代を振り返ると、勉強と部活動を両立するだけでも忙しかったのに、2つの競技で活躍しているとは。バレー部で中学最後の大会に挑む姿を通じて、2人が「二刀流」を貫いてきた原動力を追った。

バレー部にいる2人の二刀流


5月、大崎市の古川黎明中学校女子バレー部を訪れると、鋭いスパイクを決めるなど体育館でひときわ目立つ2人がいた。コート上のまとめ役を担うゲームキャプテンの高村美羽さんと、エースアタッカーの吉田咲紀さん。噂の二刀流の選手たちだ。

 

 

トランポリンで空中に跳ぶ高村さん

ゲームキャプテンの高村さんは、トランポリンとの二刀流だ。トランポリンは、小学3年生の時、先に始めていた水泳のトレーニングとして始めた。高く跳んで回転できた時の爽快感に魅了されたという。めきめきと力をつけ、東北大会や全国大会、ジュニアオリンピックに出場するほどに成長した。

 

高村美羽さん

体を動かすことが好きなので『2つあってもいけるっしょ!』みたいな感覚でやっています。小学生の時からトランポリンで体幹が鍛えられてきたので、バレーボールではネット際で真上に跳ぶことに生きたと思います。

 

 

吉田さんの鋭い空手の"突き"

エースアタッカーの吉田さんは、小学4年生から取り組む空手との二刀流だ。ことし4月の宮城県大会では組手で初優勝を果たした実力者で、得意技は、鋭い「突き」。地元の道場で男子相手にも臆することなく稽古に取り組んでいる。

 

吉田咲紀さん

空手もバレーもフェイントを多く使うので、駆け引きの部分でどちらにも生きていると思います。空手もバレーも好きなことをやっているのでとても充実しています。

 

“美羽がいたから” “咲紀がいたから”

 

高村さんと吉田さんは、小学校の時に通っていた同じ塾で知り合った。中学に入学した時、空手の吉田さんが部活動見学をきっかけにバレーボールもやってみたいと入部。その後、トランポリンの高村さんをバレー部に誘い、2人の「二刀流」が始まった。

 

中学校では、学外で元々取り組んでいた競技を優先しながら学校の部活動にも所属するという生徒は少なくない。2人が少し違うのは、「両方、全力」の目標を掲げたことだ。

高村さん

バレーも、もう一つの競技も、とにかく好きで、好きなら全力でやりたい。どちらかをおろそかにするということはしたくないと思って2人でやってきました。クラスメイトからも「両方頑張っていてすごいね」と言われることが多くて、それが大きな励みです。

 

バレー部の練習は、放課後の夕方4時半から6時まで。その後、夜7時からそれぞれトランポリンや空手の練習が続くというスケジュールを週2、3日ほどこなしている。

 

多忙な日々、2人はお互いの大会予定などをSNSで共有して励まし合ってきたという。離れているそれぞれの時間も、同じ境遇だから、わかり合える。ことし4月には、高村さんはトランポリンで、吉田さんは空手で、いずれも県大会で優勝した。目標にしていた「2人そろっての優勝」を初めてかなえた。

 

それぞれの競技で優勝

吉田さん

両方1位というのがすごくうれしかった。美羽も頑張っているから自分も頑張ろうと思えた。二刀流が一人だったらここまでできなかったと思う。

 

高村さん

学校中の先生に「両方1位!」と言って自慢しました。咲紀がいるから頑張ることができたと思います。

 

チームメイトと切磋琢磨

 

チームメイトに教える高村さん

2人がそろうバレーボール部は5月下旬、中学総体の地区大会を控えていた。取材したこの日、ゲームキャプテンの高村さんが同級生のセッターに対し、ボールを上げる位置やタイミングについて厳しく要求する姿があった。次第に言い合いになり、その激しさは取材していた私も見ていて驚くほどだった。ほかの生徒に聞くと、それは「いつものこと」なのだという。


練習後、体育館の隅にセッターの生徒をこっそり呼び出して聞いてみた。「あんなにものすごい勢いで言われて、嫌な気持ちにはなったりしないの?」

 

3年生セッター 佐藤悠さん

なりません。チームをもっと良くしようと思って言ってくれているのがわかるので。美羽(高村さん)も咲紀(吉田さん)も、ほかの人より努力家です。その日にできないことがあっても次の練習ではできるようにしてくるので、陰で頑張っている。すごいなと思います。

高村さんも「仲間を怒ってしまい申し訳ないですけど、上手なのを知っていて信じているから言っています。みんなで一丸となって頑張りたい」と話し、個人競技のトランポリンでは得られない、チームで成長することのやりがいや難しさを実感している。


同じ「二刀流」の仲間、さらにバレーボール部の仲間との出会いが、高村さんと吉田さんを大きく成長させてきた。

 

 

中学総体の地区大会は、取材日の3日後に迫っていた。3年生にとっては集大成となる舞台だ。目標は、この3年で最高成績となる3位以内に入って県大会出場を果たすこと。高村さんと吉田さんは、練習の合間やプレー中、気合を入れるための「ハイタッチ」をするのがルーティンだ。この日の練習の最後も、高村さんが「キャプテンとして引っ張るので頑張りましょう!」と吉田さんに声をかけ、力強いハイタッチを交わした。

 

集大成の舞台 力を引き出したのは

試合に臨む古川黎明中

5月28日、2人が所属する古川黎明中は県大会出場をかけたトーナメントに臨んだ。まずは1回戦だ。しかし、いつも明るく強気にチームを鼓舞してきたゲームキャプテンの高村さんに元気がなかった。第1セット、一歩目が出遅れてボールを拾えなかったりボールをつなげなかったりとミスも相次いだ。高村さんは、中学最後の大会に大きなプレッシャーを感じていた。

 

高村さん

ボールを触っていなくても、ボールが上がっているだけでも、緊張しているみたいな、これまでの大会とは違う感覚でした。

吉田さん(右)が高村さん(左)を励ます

その異変に気付いたのは、エースアタッカーの吉田さんだった。

 

第1セットを落とし、あとがない第2セットに入る前。吉田さんは高村さんに寄り添い、背中をさするなどして緊張を和らげようとしていた。そして、いつもの「ハイタッチ」で高村さんに気合いを入れた。

吉田さん

1セット目、美羽はすごく静かだなと思っていました。いつもやっているハイタッチをしているうちに明るくなっていつものプレーができました。

サーブを打つ吉田さん

第2セット序盤、吉田さんのサービスエースが決まり、高村さんもスパイクを決めるなど連続得点をマークしてチームは勢いづいた。高村さんにも元気と笑顔が戻り、徐々に本来の力を取り戻していった。


古川黎明中は最後まで粘り強く戦ったが、第2セットも失ってストレート負け。

2人のバレー部での活動が終わった。

 

試合後に高村さんが吉田さんに寄りかかる

試合後、高村さんと吉田さんは、目に涙を浮かべて肩を寄せ合っていた。悔しさをにじませながらも、やりきったという達成感に満ちあふれた表情だった。

高村さん

また一緒に頑張っていこうというのと、今までついてきてくれてありがとう。

 

吉田さん

トランポリン頑張ってね、そしてこれからもよろしく。

 

「二刀流」で駆け抜けてきた中学生活。バレーボールは一区切りだが、高村さんはトランポリン、吉田さんは空手で、それぞれの全国大会を目指す夏が続く。バレー部のユニフォーム姿での締めくくりは、これまでの感謝と、これからの飛躍への期待を込めた、力強い「ハイタッチ」だった。

この記事を書いた人

佐々木 成美 キャスター

佐々木 成美 キャスター

2016年からNHK盛岡局でスポーツキャスターとして、
野球、サッカー、ラグビー、アマチュアスポーツなど多岐にわたり取材。
2021年からNHK仙台局「てれまさ」でフィールドキャスターを務める。

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