ストーリーサッカー

長谷部誠は生き方を「整える」② サッカー人生の見極め

2019-09-06 午後 06:57

ドイツ1部リーグ・フランクフルトの長谷部誠選手。日本代表を引退して臨んだ昨シーズン、ドイツの有名サッカー専門誌が選ぶベストイレブンにも輝き、30代半ばにしてキャリアハイともいえる活躍を見せました。迎えた新シーズン、彼を支えるものは何なのか、大越健介キャスターが対談で迫ります。

自分を「明らかに 見極める」

2018年7月2日、ロシア・ロストフアリーナ。ワールドカップロシア大会の決勝トーナメント1回戦の試合終了間際、ベルギーが日本に対して繰り出したわずか14秒の速攻。

 

 

懸命に守備に走った長谷部誠の足をわずかにかすめたボールを、ベルギーがゴールに押し込み、日本はワールドカップの舞台を去った。
そしてこの試合で、長谷部誠の100試合以上に及ぶ日本代表人生は幕を下ろすことになった。試合後、長谷部は日本代表引退を表明した。

大会終了後、NHK取材班が代表選手たちにあの14秒を振り返ってもらうインタビューの中で、長谷部は次のように語った。

「諦める」という言葉があって、言いかえると「明らかに見極める」という意味もあると思う。あの試合は自分の中ではそれが非常に合う言葉で、長谷部誠という選手が最終的にここまでの選手だったんだと素直に受け入れている自分がいます。

 

言葉だけを見れば後ろ向きな印象なのに、そう語るキャプテンは真っ直ぐ前を向き、どこかポジティブさすら感じさせるインタビューだった。

自らを「見極める」という言葉の真意はどんなものなのだろうか。ワールドカップ3大会に出場したキャプテンが代表を去って1年。日本代表引退後の人生を聞きながら、その答えを探っていく。

 

 

長谷部 僕はロシア大会の時34歳で、4年後を考えたら38歳。どこかでしっかりと選手としての「見極め」をしなければいけないと思っていました。もちろん38歳でも実力があれば代表に選ばれるべきだと思いますが、世界のトップレベルのリーグでプレーしている身としては、次のワールドカップまでは考えられなかった。そこはしっかりと自分の中で見極めさせてもらいました。

 

大越 ロシア大会での引退はどのタイミングで心に決めたことだったのですか。

 

長谷部 正確にいつ、というのはあまり覚えていないですが、ワールドカップの1年か2年前、ワールドカップの予選のときから「これが最後だ」と自分の中で腹をくくっていたところはありました。世界のサッカーを見た時、これからの日本はどんどん若い選手が出てこなければいけないと感じていたので、その可能性にかけたいと。

新しい生き方を整える

大越 ワールドカップを終えてすぐ、チームに戻ってモチベーションを維持するのは難しかったのではと想像するのですが、その点はいかがでしたか?

 

長谷部 ワールドカップの後は「燃え尽き症候群」ではないですが、どちらかというと体より頭や心の部分で準備ができていなかったと思います。その影響で開幕してから数試合はベンチにも入れない状態が続きましたし。ただそこで一回メンバーから外されたことで、僕が持っている「負けず嫌いの魂」がまた蘇ったんです。

 

大越 割と早く蘇ったんですね。

 

長谷部 メンバーを外されていた時も監督とはよくディスカッションしていたんです。監督は言い方とかも僕にすごく気を使ってくれていたと思うんですけど、僕の捉え方としては単純に僕のことを評価していないと感じたのでね。これは見返さなければいけないと。沸々と自分の中から湧き上がってきました。それに日本代表を退く決断をした直後のシーズンは、もう一度自分の価値を示す上で本当に大事だと思っていました。「日本代表を退いたらダメになった」と言われるのは絶対に嫌だったので。

 

 

現在の日本サッカーを取り巻く環境では、話題の中心は日本代表にあることは否めない。代表から退いた長谷部のドイツでの活躍は、ともすれば熱心なサッカーファン以外には知られていないニュースだったかもしれない。しかし、彼自身にとっては「サッカー日本代表キャプテン・長谷部誠」から、ひとりのサッカー選手としての「長谷部誠」へ。まさに再出発を果たした大きな節目となるシーズンだったのだ。

 

長谷部 僕は、サッカー選手にとって日本代表が全てではないと思っています。日本代表は僕にとってすごく大きな場所だったし今もそう思っていますが、普段は代表じゃなくてクラブでの活動がほとんどなわけです。まして自分はヨーロッパのトップリーグでプレーできている。ならばひとりの日本人サッカー選手として、そこで活躍することで日本のファンのみなさんに自分のサッカー選手としての新たな価値を示せるのではないかと思っていました。

 

大越 日本代表のユニフォームを着ていなくても、ヨーロッパサッカーを見る人に「長谷部誠」という人物を通して日本のサッカーを見てほしいと。その気持ちは前からあったものですか?

 

 

長谷部 そうですね。僕がいるドイツ含め世界各国を見ると、やはり代表よりもクラブ・リーグの注目度の方が明らかに高いんです。そのギャップは僕もドイツに来て12年、もちろん感じてきました。それぞれ一長一短があると思いますが、僕はひとりのサッカー選手として代表という場所を退き、クラブに専念にすると決めました。

 

大越 日本代表を離れたことで、クラブに専念できることはポジティブな変化でしたか?

 

長谷部 もちろん代表に召集されて日本に帰国してプレーすることは、自分にとって誇りでした。でも、代表から退いたおかげで今はいろいろなことができています。代表の試合がある週はクラブの試合もないので、家族と一緒に今まで行ったことのない国、行きたかった国に行ったりして、すごくリフレッシュできてますよ。代表の活動をしていた時間を有効に使って、また頑張ろうと思える。このサイクルが今はすごくフィットしている感じなので、これはこれで今は楽しいですね。

 

大越 つまり今、「生き方が整っている」と。

 

長谷部 まあ「整える」のは得意なのでね(笑)。

 

日本サッカー、そして長谷部誠のこれから

30代中盤で新しく整えた生き方。
これからの日本代表に何を思うか。そして長谷部自身のこれからは…。

 

 

大越 ロシアでの苦い敗戦を経て、これからの日本代表にはどう戦ってほしいですか。

 

長谷部 ワールドカップでもう少しでベスト8に手が届くところまでいったのは事実ですが、この「16」から「8」の壁は高いと思います。もちろんまず予選を勝たなければいけないですし、本当に簡単なことはひとつもない。やはりこれから日本サッカーが世界で戦っていくためには、もっと若い選手に出てきてほしいという思いがあります。今、ヨーロッパの本当のトップクラブでプレーしている日本選手は残念ながらひとりもいない。その現状に僕は危機感を抱いていて、これから日本サッカーが本当に世界でベスト8、ベスト4に行くためには流れを途切れさせるわけにいかないんです。もちろん久保(健英)選手など、いい選手はたくさんいます。彼らが「緩やかな成長」ではなくて「すごい成長」を遂げてほしいなというのは切に願っています。

 

大越 今ドイツでフランクフルトを引っ張る姿を、これからの日本を背負っていく選手にも見てほしいですね。

 

長谷部 うーん、自分を見て何か感じてくれたらもちろん嬉しいですが、それを見せたいから頑張っているかといわれると、そういう感じでもないんですよね。逆に言えば、僕なんかじゃなくて世界には18歳19歳でチャンピオンズリーグの決勝とか、そういうレベルで戦っている選手がいるわけですよ。日本の若い選手にはそういうレベルを見てほしいと思うし、そこまでたどり着いてほしいです。

 

 

長谷部 あくまで僕はひとりの日本人サッカー選手として、多くの人に「こういうサッカー人生もあるんだ」という姿を見てもらえたら、それが僕のモチベーションになるかなと。「引退後はどうしますか」とか聞かれることも増えましたけど、僕はまず選手として、まだまだ頑張りたいという気持ちが一番です。

 

 

 

20代中盤でドイツ1部リーグ優勝を経験し、日本代表でもキャプテンとしてワールドカップで決勝トーナメント進出を果たした長谷部誠。アスリートとして肉体的にも充実し、もしかしたらこの時、選手としてひとつのピークを迎えたのかもしれない。

しかし、その先に実はまたひとつ違うピークがあった。

酸いも甘いも噛み締めて、長い選手生活を走り続けていくと、そんなケースもあるのだという事を、長谷部誠というサッカー選手はまさに体現している。

 

年明けには36歳となる彼は、新たなシーズンもチームの「リベロ」としてピッチを駆けている。


(終)

 

長谷部誠は生き方を「整える」①

 

この記事を書いた人

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大越 健介 キャスター

昭和60年NHK入局、初任地は岡山局。政治部の記者、NW9キャスターなどを経てサンデースポーツ2020キャスター。
"スポーツをこよなく愛する親父"の代表として自ら楽しみながら伝える。

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