2023カーリング男子世界選手権 大会の展望

NHK
2024年3月8日 午前10:36 公開

(※2023年3月29日スポーツオンライン掲載)

日本時間の2023年4月2日(現地カナダは1日)にカーリング男子の世界選手権が開幕します。日本代表には日本選手権で優勝したSC軽井沢クラブのメンバーが名を連ね、リザーブとして北見協会の臼井慎吾選手が加わりました。大会の見どころや展望を、ピョンチャンオリンピック日本代表で今大会NHKのテレビ中継で解説を担当する両角友佑さんに聞きました。

分析!男子日本代表


【今大会の日本代表】

リード:小泉聡選手(SC軽井沢)

セカンド:山本遵選手(SC軽井沢)

サード:山口剛史選手(SC軽井沢)

スキップ:栁澤李空選手(SC軽井沢)

リザーブ:臼井慎吾選手(北見協会)

ーー日本選手権を優勝したSC軽井沢クラブってどんなチームですか?

<両角友佑さん>
今の日本を引っ張る代表的なチームでいいチームだと思います。今回の日本選手権は実力があるチームがしっかり勝ったなという印象があるので、強いチームが代表になったと思います。

(写真左から)栁沢選手、山口選手、山本選手、小泉選手

ーー両角さん自身は日本選手権ではSC軽井沢クラブに接戦で敗れた。ライバルとしてはどう見ていますか?

<両角友佑さん>スキップの栁沢選手の最後2投を決める能力はかなり高いものがあります。僕のチームのスタイルを考えると、SC軽井沢クラブに勝つためにかなり無理をして攻めていかないといけない状況ですごく戦いにくいチームだったと思っています。世界の中で非常に結果を残しやすいチームだと思います。

ーーそのスキップの栁沢選手について詳しく教えてください。

(写真)2022年11月 パンコンチネンタル選手権

<両角友佑さん>本人は「ドローが得意だ」とよく言っているんですが、僕はすごく「テイクがうまいな」と感じていました。ガードから速いショットで2つ出すとか、ハウスの中の石を出すっていうショットもうまいですし、短い距離で少し弱めのウエイトで前の石からハウスの中にしっかり自分の石を残すショットもうまいイメージがあります。テイクの精度の高さは世界レベルのものがあると思います。

ーーサードの山口選手はいかがですか?

(写真)2022年11月 パンコンチネンタル選手権

<両角友佑さん>栁沢選手の前はスキップをやっていました。僕がSC軽井沢にまだいた頃はずっとスイーパーだったんです。その力がすごく生きていると思う場面が多いです。スイープに関しては日本でもトップレベルの選手だと思うので、チームに対するプラスの影響はかなり大きいと見ています。

ーー最年少のセカンド山本選手は?

(写真)2022年11月 パンコンチネンタル選手権

<両角友佑さん>去年の日本選手権の時に初めてSC軽井沢クラブとして出場して、その時から本当にいいショットが多かったです。今シーズン1年間、SC軽井沢の4人で海外に行ったりする中で、また一回り大きくなったなと感じました。日本選手権のちょっと前から本当にいいショットを決めていました。(12月の)国際カーリングで僕たちとの対戦になったんですけど、そのときも山本選手がキーポイントになるショットが多かったです。(スキップの)栁沢選手が難しいショットを選ぶことが多いんですけど、しっかりと決めてくるなという印象がありますね。

ーーリードの小泉選手は。

(写真)2022年11月 パンコンチネンタル選手権

<両角友佑さん>リードとしてすごく安定していると思います。2シーズン前、3シーズン前は投げることが多かったですけど、そこからリードになりました。リードはかなり専門性が高いポジションでほとんどが置くショットになるんですが、2月に行われた日本のミックスダブルスの選手権でも、ドロー系のショットがすごくうまくてセットアップでいい形を作ってくる印象が強いです。

ーーチーム全体としてポジションを変更した?

<両角友佑さん>北京五輪のレースが終わって、昨シーズンからポジションを見直して今のポジションになっていると思うんです。今がSC軽井沢クラブにとっては一番いいポジションなんじゃないかなと思いますね。具体的には若い2人が一番うまく機能するところに入っていると思います。セカンド、サード、スキップと、何のプレッシャーもない状態であれば求められるショットのクオリティーはほとんど変わらないんです。ただ最後の2投は「これで試合が決まる」というところになるので、純粋な技術だけじゃなくてメンタルが上乗せされてくる。栁沢選手はそういうところが強いと思います。

(写真)2022年11月 パンコンチネンタル選手権

<両角友佑さん>
セカンドの山本選手は勝負どころでの難しいショット、特に速いテイクアウトがうまいと思うんですけど、その辺をしっかり決めてくるのが大きいです。その間をつなぐ山口選手のベテランとしての安定感。サードのポジションって、ある程度高いレベルで安定してくれている選手の方がチームとしては戦いやすいんです。リードもドローが安定していますので、チームとしては1、2、3、4といい流れのゲームが作りやすい布陣になっていると思います。

カギを握る選手は 最年少16歳のセカンド


ーー両角さんがカギを握ると考える選手は?

<両角友佑さん>
これは山本選手になるのかなと僕は思っています。今の布陣での日本代表としての戦いは、パンコンチネンタル選手権があって、2大会目になるんですが、パンコンチネンタルの時には途中から山本選手は下がってしまったんです。そのときは緊張していたと聞いたので、2回目の日本代表としての戦いの中でどれだけできるか。もともと実力はあると思うんです。今回の日本選手権で一番うまいセカンドだったんじゃないかと思いますし。その実力を緊張せずに出せるかどうか。そこが思いどおりにいけば、かなり日本有利な形で前半を終えることになるので、順位もかなりいいところまでいけるんじゃないかと思っています。

(写真)両角さんが注目するセカンドの山本選手

<両角友佑さん>
カーリングは特に、ほかのスポーツよりもほかの人の影響が少ないというか、要は敵にだまされないスポーツです。例えば野球は、ピッチャーが変化球を投げればそれだけ難しくなります。(対してカーリングは)緊張が生まれる中で、ミスが出やすいスポーツだと感じています。若い選手にとっては余計につらい場面も出てくると思いますけど、2回目になったことによって経験がうまく働けばいいなと思って見ています。
 
ーー女子の解説の小穴桃里さんも、ロコ・ソラーレでカギを握るのはセカンドの鈴木夕湖選手だと話していました。セカンドの山本選手がカギだと考えた意図は。

<両角友佑さん>
ピョンチャンオリンピックのあとファイブロックルール(先攻チームのセカンドの1投目まで、フリーガードゾーンのストーンをテイクできない)に変わって、ほとんどの試合がノーティックルール(フリーガードゾーン内でセンターラインにかかっているストーンを5投目までセンターライン上から動かせない)に変わりました。それで圧倒的に投げるショットの幅が増えたのがセカンドだと思うんです。リードは逆にウィック(アウトにならない程度に石を動かすこと)がないということは、やることがもう決まっちゃったようなものなので、リードの人たちは「もう仕事がない」って嘆いていたんです。そのぐらいカーリングが変わった中で、ルールの変更がセカンドの重要さを間違いなくこの1~2年で強めました。

(写真)2022年11月 パンコンチネンタル選手権

<両角友佑さん>
安定して速いショットから本当に繊細なちょっと押すみたいなショットまで幅広いショットを要求されることが多くなったのがセカンドです。より細かいショットを要求されるようになったセカンドがどれだけショットを100%に近い形で決めて、エースと呼ばれるサード、スキップにつなげるかが現代のカーリングですごく重要だと思うので、やはりセカンドは肝かなと思います。

世界の中の日本 その位置は


【今大会の出場国・地域】

ーー日本代表の世界での位置は。

<両角友佑さん>
世界選手権には1つの国で1チームしか出られないので比較は難しいと思いますけど、SC軽井沢クラブは、現状の世界チームランキングで16位(3月14日現在)にいると思います。今までの日本の最高順位にかなり近い位置にいるんです。僕がまだSC軽井沢クラブにいたときも、20位の中に入るのは厳しいなと思っていたので、日本の歴代の中でトップクラスのチームだといえます。

(写真)2022年11月 パンコンチネンタル選手権

<両角友佑さん>
ただ世界選手権出場チームの中では中盤です。13チームいて、メダル候補といわれるのがカナダ、スウェーデン、スコットランド。今回だとイタリアもそこに入ってくるかな。スイスもいつも安定して強いと思うんですけど、そのあたりが上位チーム。それに比べて、初めて出るトルコとかヨーロッパのドイツとか、ニュージーランドあたりは、出ている回数が少なくて、経験も少ない選手が出てくるので下位グループだとしたら、日本は真ん中を構成するチームの1つだと思います。そこからどう抜け出して、上の5つ、強豪と呼ばれるところに食らいつくかが重要になると思います。
 
ーーピョンチャンオリンピックでは日本は8位だが。

<両角友佑さん>
オリンピックは10チームしか出られないので1桁の順位にはなりやすいですが、出ることが大変という感じです。長野オリンピックで日本が出場権を持った以外で、男子自体はまだ1大会、ピョンチャンしかオリンピックに出られていないんです。女子はそれ以降全部、要は世界で10チームの中に入ることができているんですけど、男子にとっては厚い壁があるのかなと思っています。

決勝トーナメント進出のカギは


ーー強豪が5チーム。残り1枠に入り、プレーオフに行くためにカギになるところは。

<両角友佑さん>
まずスコットランド、スイス、イタリア、スウェーデン、カナダ。その5つは今回の代表の顔ぶれを見ても、間違いなくトップチームが出てきます。そこから1つでも多く勝ち星を取るというのは上位6位に入るための大きな1歩になると思います。そして次はアメリカですね。中盤で並んで来るのがアメリカ、ノルウェー、あとは調子が良くなると韓国。このあたりは要注意。その3つにしっかり勝つのが6位以内の最低条件になってくるのかなと思います。

ーー予選リーグでアメリカ、ノルウェー、韓国に勝つことが大事になるということですね?

<両角友佑さん>
上の5チームが今シーズンの調子のとおりだとすると、その3チームには確実に勝たないと6枠に入れないので。同じぐらいの実力だと思われるところにしっかりと全部勝つのが6位以内に残るには大事なのかなと思います。それと、ニュージーランド、トルコ、チェコ、ドイツの4チーム。チームランキングで見ると90位とか、一番良くてチェコの70位台ぐらいになると思うんですけど、世界選手権の予選の1発勝負の中で、調子のいい悪いで変わります。国際大会の予選ではニュージーランドに負けたりもしていますし。そこにも確実に勝たなければいけないという条件はありますけど、やっぱり肝になるのはアメリカ、ノルウェー、韓国の試合かなと思います。
 
ーー上位チームで相性のいいところに勝つことも大事になりそうだが。

<両角友佑さん>
そうですね、上の5つもいつでも調子がいいわけではないと思います。カナダとスウェーデン、それにスコットランドの3つはかなり安定していると思いますが、チームが大幅に変わったスイスは不安定な部分もあるので、そういうところから1勝を取るとトップ6に入る1歩になると思います。

両角さん注目の相手はアメリカ


ーー注目の対戦相手は。

(写真)2022年11月 パンコンチネンタル選手権ではカナダが優勝

<両角友佑さん>
SC軽井沢は一番強いカナダだと言いたいと思います。カナダはパンパシフィック選手権でもアメリカに1敗した以外は負ける気配のない試合をして優勝しているんですけど、そのチームとの再戦ということで、今度はどれぐらい食らいつけるか気になるところだと思います。僕としてはアメリカ、韓国、ノルウェーあたりが勝負どころかと思うし、中でも特にアメリカ。ピョンチャンの金メダルを取った、シュスター選手のチームが代表になっていますので、アメリカとの試合が大事になると思っています。

(写真)ピョンチャンオリンピック決勝でプレーするアメリカのシュスター選手

ーーアメリカ戦はどんな試合が予想されるか。

<両角友佑さん>
今シーズンは、12月に軽井沢国際大会で戦っているんですけど、そのときは準決勝でSC軽井沢が勝ってそのまま優勝している。イメージはいい相手かなと思います。ただピョンチャンオリンピックのあと1人入れ替わって6年目くらいで、チームの経験がかなり上がっています。シュスター選手の安定感というのはかなり高いものがあるので、うまくマッチしてくるとかなり手ごわいです。石の置き方とかもうまいので、そのあたりをどういうふうにSC軽井沢がカバーするかがポイントになると思います。

優勝候補は? 日本の順位は?


ーーやはり優勝候補はカナダか。

<両角友佑さん>
難しいところですけどそうですね。あとスウェーデン、スコットランドの2つはもう本当にトップチーム。北京オリンピックからほぼメンバーも変わっていない。やっぱりカナダは今のところ一番強いのかなと思います。3月のカナダ選手権でも本当に強いカーリングをしていますし、本当に隙のないチームという感じがするので久しぶりにカナダが優勝するのかなという気がしています。

ーー日本の順位は。

<両角友佑さん>
まずトップ6に残るというところが第1関門。そこをくぐってしまえば、そこからはトーナメントになって1勝ごとに順位をどんどん上げていけるので、そこに残れるか残れないかが肝だと思うんですけど。希望も含めれば予選6位。そのあと1勝して…ブロンズメダルの決定戦に出られていれば最高かなと。

(写真)2022年11月 パンコンチネンタル選手権 カナダ戦

ーーやはり上位3チームは強い。

<両角友佑さん>
カナダ、スウェーデン、スコットランドの技術の高さは確実に一歩抜けているなと思いますし、あとは今シーズン、本当に調子のいいイタリアがいるので、そこを崩すのはかなり大変かなと思います。ここまでの今シーズンの各チームの雰囲気からいうとチャンスはなくはないかなという感じがします。

ーーその壁を越えると男子のカーリングの歴史が変わることにもなりそうですよね。

<両角友佑さん>
そうですね。ロコ・ソラーレは2016年に初めての世界選手権でいきなり銀メダルを取ったところから世界的な強さが始まっていると思います。やっぱりそういうのがきっかけになって強いチームができてくるというのは間違いないと思います。

選手へ  そして視聴者の皆さんへ


ーー選手へのメッセージを。

<両角友佑さん>
何よりも一番はSC軽井沢クラブらしい試合ができるかどうかだと思います。まずはカーリング自体、世界選手権という舞台自体を楽しんでもらって、自分たちらしいカーリングをしてもらいたいなと思っています。
 
ーー両角さんの解説への意気込みを。

<両角友佑さん>
僕はあんまり準備をしないで入るタイプなので、その時々でおもしろい試合を見せてもらいながら、特に強豪との試合ではそのチームにどうやって食らいつくか。チャンス1つ掴めれば勝てるのがカーリングなので、見ている方と一緒に楽しみながら僕もしゃべれたらなと思っています。

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