ストーリーサッカー

長谷部誠は生き方を「整える」① 新境地リベロで輝く

2019-09-05 午後 06:21

ドイツ1部リーグ・フランクフルトの長谷部誠選手。日本代表を引退して臨んだ昨シーズン、ドイツの有名サッカー専門誌が選ぶベストイレブンにも輝き、30代半ばにしてキャリアハイともいえる活躍を見せました。迎えた新シーズン、彼を支えるものは何なのか、大越健介キャスターが対談で迫ります。

ヨーロッパの頂点に迫った男

今年5月9日、ロンドン。ヨーロッパ各国の上位チームが集まる大会、「UEFAヨーロッパリーグ」の準決勝第2戦。ドイツのフランクフルトは延長、PK戦の末、イングランドを代表するビッグクラブ、チェルシーに敗れ大会を去った。

そのピッチに、35歳の長谷部誠は立っていた。

 

 

フランクフルトは決してビッグクラブではなかったが、イタリアのインテルやポルトガルのベンフィカなど、各国の強豪を次々と撃破する快進撃。そのチームを最年長選手として引っ張ったのが長谷部だった。そのプレーが評価され、ヨーロッパサッカー連盟が選ぶ大会の優秀選手18人にも選ばれた。フランクフルトを率いる監督のアディ・ヒュッターは、シーズン終了後のインタビューで彼をこう讃えた。

 

「誠はチームにとってとても重要な選手。我々の誇りです。」

 

24歳でドイツに渡って11年半。ヨーロッパのカップ戦決勝まであと一歩というところまで迫り、35歳にしてやってきた「キャリアハイ」。

ある意味驚きともいえるシーズンを終え帰国した彼に、その活躍の裏には何があったのか語ってもらうインタビュー。まず率直に、昨シーズンのプレーをどう捉えているのか振り返ってもらった。

 

 

大越 18-19シーズンはキャリアハイではないかというくらいの活躍をされましたね。ご自身の長いサッカー人生で、最も充実したシーズンのひとつだと言えるのではないですか?

 

長谷部 最高のシーズンを過ごせたと自信をもって言えると思います。僕は今年35歳になったんですが、ブンデスリーガでも上から数えて5番とか6番目に年齢が高いんですよ。でもその年齢になってもまだ成長できる、こんなにサッカーが楽しくなるんだと実感できたシーズンでした。もちろんパフォーマンスに関しても満足しているのですが、それよりも「ワクワク」とか「楽しさ」を、この年齢で感じられていることにすごく喜びを感じています。

 


とはいえ振り返るのもここまで。彼はすでに先を見ていた。彼によれば長谷部誠の「キャリアハイ」は、まだまだ先にあるようだ。

 

 

長谷部 ヨーロッパリーグでは準決勝で敗れて決勝に行けませんでしたが、もっとヨーロッパの舞台で戦いたいという気持ちが強くなりました。この年齢でももっと成長できる感覚があります。僕は僕のやり方で、日本のサッカー選手が海外のトップレベルで戦っているんだということを、日本のファンの方に見せたいという気持ちが強いんです。

新境地「リベロ」

昨シーズン、長谷部には新たに切り開いた境地がある。それはスリーバックの真ん中のポジション「リベロ」。主に中盤の選手としてキャリアを重ねてきた彼にとって、ディフェンダーとしての新たな挑戦だった。「自由な」という意味のリベロ。これまで日本代表やドイツ1部リーグで様々なポジションを担ってきた長谷部の経験を生かそうと、昨シーズンから本格的に起用されるようになったポジションだ。

 

 

大越 リベロというポジションは、日本でサッカーを見ていてもなかなか出てこないですよね。どういうポジションなのか、長谷部選手なりにどう理解しているのか教えていただきたいんですが。

 

長谷部 ここ数年、世界でスリーバックを取り入れるチームがすごく増えています。いわば現代サッカーの流れですね。リベロは基本的にスリーバックの真ん中。その位置で守備も攻撃も全てをコントロールする、司令塔のような立場のポジションだと考えています。監督からも「攻守の全てをオーガナイズしてくれ」と言われています。ただ当然センターバックでもあるわけで、海外では190センチ未満なら「小さい」と言われるのに、僕は身長が180センチしかなくて明らかに小さい。それで190センチとか2メートルある相手のフォワードと競り合いますから、「せーの!」で競ったらなかなか勝てません。だから僕はとにかく「頭」を使いました。自分の経験を生かした「一歩先を読むプレー」での勝負ですね。それが守備でも攻撃でもすごく機能したと自分でも感じていますし、小さい選手でもディフェンスのポジションで活躍できる、新しいモデルをブンデスリーガで作れたのではないかと思います。

 

 

長谷部が口にした「身長が低いハンデ」。それをカバーできたのは、彼の言う通り経験に裏打ちされた「頭を使うプレー」だった。一見何気なくボールをインターセプトしたように見えても、相手の目線や体の向き、味方のポジションを見ながら相手のパスコースを瞬時に予測しているという。時にはセオリーから外れた大胆な判断もしながら、長谷部は何度となくゴール前で味方のピンチを救っていた。


長谷部 スリーバックで僕の両脇にいる2人はフィジカルが強いので、彼らがまず相手に当たってくれます。その分僕はその後のプレーを読んで「だいたいここにボールがこぼれてくるな」と予想しながらプレーします。だからあまり試合中走っていないんですよ。中盤で試合に出ていた時はだいたい1試合で12kmくらい走っていたんですけど、今リベロでは10km程度ですから。今は試合が終わったあとに一番疲れているのは「頭」なんですよ。本当にリベロは頭を使わなければプレーできない場所なんだと思います。なかなか伝えるのは難しいんですけどね。頭を使うとか、感覚とか、フィーリングとか。それこそ、おそらく「経験」からくるものなんでしょうね。

経験を積んできたから輝ける

 

大越 リベロは今の長谷部選手にとって、最適なポジションだということですか?

 

長谷部 今この年齢だからこそ「リベロ」が自分に最適だと思っていますし、逆にこれを25歳の時にやれと言われたら、おそらく今のようなプレーはできないと思います。経験を積んできたからこそできるポジションですから。その巡り合わせというか、タイミングは僕にとってはありがたいことですね。

 

大越 選手は年齢を重ねれば経験値が増える、でもその分だけ肉体的に衰えるということも否定できないと思います。どこでその釣り合いをとるのか、とても大事な事ですよね。

長谷部 間違いなく20代の時よりもフィジカル的な部分は落ちていると思います。その分できることとできないことをはっきり見極めているところがあって、できないことはある意味「捨てて」います。そこを自分のなかで受け入れられているから、今もサッカーがやれているのかなと思います。

 

チームに生かされる感覚

年齢を重ねたからこそ輝ける場所で、キャリアハイのパフォーマンスを見せたシーズン。しかし、フランクフルトの成績を見ると、シーズンの最終盤に勝ち点をあげられず、失速したことも事実だった。その苦しい時間の中で、長谷部には改めて気付かされた「ある感覚」があった。

長谷部 シーズン最後にチームがなかなか勝てなくなった時期は、周りの選手たちが疲れてきてパフォーマンスが落ちていました。その時、自分のプレーも比例して落ちていく感覚があったんです。それで「ああ、自分は周りに生かされている選手なんだな」と感じました。自分がリベロでいいパフォーマンスができたのは、自分一人の力ではないんだと。

「司令塔」としてチームを動かすリベロの役割を果たしてきた彼が、むしろチームに生かされている。その意味を彼は続ける。

 

 

長谷部 もちろん自分がこれまで経験してきて積み重ねてきたものがあってのプレーですけど、それに加えて「チームとのフィット感」みたいなものですかね。ぐっと成長した若い選手たち、そして監督とのフィーリングが自分にフィットした。だから活躍できた。そんな感覚がありました。


チームのフィット感。その意味を深く知るために、取材班は昨シーズン終了後に長谷部のチームメイトにインタビューを行った。答えてくれたのは、共に26歳のディフェンダーのヒンターエッガーとダコスタ。2人のインタビュー映像を長谷部にも見てもらう。

 

ヒンターエッガー選手

「マコトは完ぺきなプロの選手で僕たちの『手本』になる選手です。マコト!マーティンだよ!次のシーズンも一緒にプレーしたいね!」

 

ダコスタ選手

「マコトは僕のレジェンド。35歳でも常にチームに貢献しています。マコト、日本にいるときも僕のこと忘れないでくれよ!僕が日本のアニメ好きなのを知ってるだろ。お土産忘れないでくれよ!」

 

10歳ほど年の離れた若い選手たちからのメッセージを、長谷部は時に苦笑いしながら、楽しそうに見ていた。

 

 

長谷部 ヒンターエッガーはチームに途中から移籍してきたんですが、スリーバックで僕の隣でプレーしています。だから彼とは一緒に食事に行ったり声をかけたり、色々と助けになれればと思っていました。ダコスタは日本が大好きで、いつもバスで僕の隣の席なんです。いつもどこかで覚えた日本語で話しかけてきますよ。お土産ねだられましたけど(笑)。でも2人とも僕のことを褒めてくれて、僕はチームメイトに恵まれていますね。

 

大越 非常にフレンドリーな感じですね。

 

長谷部 彼ら2人とも非常にパーソナリティーも素晴らしいですし、年齢は10歳くらい違っても平気で冗談言ってきますからね。その辺はあまり日本ではないことので、逆にそれは楽しいですよ。

チームの “Vorbild”

大越 話を聞いていて、長谷部選手がチームの「精神的な柱」になっているように感じたのですが、チームに対してはどのような振る舞いを心がけているんですか?

 

 

長谷部 さっきヒンターエッガーも言ってくれましたけど、「Vorbild(フォービルト・手本)」になる選手だと、そういう役割が僕にはあるんじゃないかと感じます。僕ももうベテランで12年ドイツにいますから、若い選手たちに対する「お手本」でなければいけない。それはチームからも言われています。「ブンデスリーガで優勝した経験、様々な経験をしてきた君の一挙手一投足を若い選手は見ているから」と。もちろん若い選手たちにアドバイスをするときもありますが、僕はどちらかという言葉で言うより姿勢で見せるタイプですね。練習前にどういう準備をするか、練習後にどういうケアをしているか、そういうところを若い選手たちに見せたいと思っています。

 

大越 そういうチーム内での役割を実践されていることが、ご自身の好プレーにも影響しているんでしょうね。

 

長谷部 それは間違いなくあると思います。「手本」であるべき選手はリーダーシップを持たなければいけないし、ピッチ上でのプレーで示さなければいけない。その責任感が、プレーに対してすごくいい影響を及ぼしていると思います。


後編では引退した日本代表への思い、そして今後のキャリアについて話を聞きます。

(続く)

 

長谷部誠は生き方を「整える」②

 

この記事を書いた人

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大越 健介 キャスター

昭和60年NHK入局、初任地は岡山局。政治部の記者、NW9キャスターなどを経てサンデースポーツ2020キャスター。
"スポーツをこよなく愛する親父"の代表として自ら楽しみながら伝える。

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