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特集 新解説者・井口資仁 初キャンプ取材を終えて~グラウンドの外からはどう見えた?

野球 2023年3月7日(火) 午後2:30

“新” NHKプロ野球解説者・井口資仁さん

昨シーズンまで5シーズンにわたりロッテの監督を務めた井口資仁さん。今シーズンから新たにNHKプロ野球解説者に加わって頂きました。井口さんは日本ではダイエーとロッテで、大リーグではホワイトソックス、フィリーズ、パドレスで計21シーズンにわたってプレー。日米通算2254安打、458二塁打、295本塁打、224盗塁と輝かしい成績を残しました。日本一3回、大リーグでも2回のワールドシリーズ制覇と、日米で頂点を経験した井口さん。2017年シーズン限りで現役を引退し、すぐにロッテの監督に就任したためキャンプ取材は今回が初めてでした。各球団のキャンプはどのように見えたのでしょうか?

初めてのキャンプ取材で見えたもの

井口さんは今シーズンから新たにNHKプロ野球解説者に加わった

井口さん

これまで自分達以外のキャンプは見たことがなかったので、どういう練習をやっているのか色々なチームカラーが見えて興味深かったですね。例えば走塁に関して言うと、シーズンそのままの走塁をキャンプからちゃんとできているチームもあれば、元々できていないんだな、順位なりの練習をしているんだなと感じるチームもありました。その点、ソフトバンクはやはりしっかり行われていましたし、ロッテに関しても私が監督の頃からずっとやってきたので、継続してできているなと感じました。

練習に取り組む“雰囲気”に注目

巨人那覇キャンプ ノックを受ける松田宣浩選手(2023年3月3日)

井口さん

勝っているチームは、1プレー1プレーに全員が集中して声を出していて、悪いことも全員で指摘しあえていて、“意味のある声出し”ができていました。やはり毎年上位に来るソフトバンクやオリックスは、そのような声が出ていましたね。また、巨人はソフトバンクにいた松田宣浩選手が加入したことで、彼の声1つでチームの雰囲気が明るくなっていました。そういう選手はなかなかいないんですよね、探しても。昔で言えば川﨑宗則選手、今は松田選手、そしてヤクルトでは奥村展征選手が物凄く声を出していて、目に留まりました。また、各チームの練習をする際の服装やユニフォームの着こなしも見ていました。各チームの伝統的な雰囲気はあると思いますが、そういう服装1つでチームが“緩く”なってしまうし、誰がどのように引き締めているのかなと感じながら見ていました。私のロッテ監督時は、ロッカーの整理整頓含めて、そういうことはチーム全体でやろうっていう雰囲気がありました。

各チームの監督とはどんな話を!?

ソフトバンクの藤本博史監督(左)と話す井口さん

井口さん

各チームの監督と話をさせてもらいましたが、私から伺ったのは、“ことしはどんな戦い方をするのか”“選手をどう構想にはめ込んでいくのか”といった話でした。日本ハムの新庄剛志監督とは、ことしはある程度メンバーを固定するという方針の中で、どのように固定していくのかという話だったり、阪神の岡田彰布監督でしたら、新人の森下翔太選手の起用法だったり。パ・リーグの監督は、私がロッテの前監督ということで、ロッテのことを知りたがっていて、逆に私の方に質問してきましたね。あの作戦はどうなの?とか、あの選手はどうなの?とか。ロッテから自分たちのチームはどう見えていたの?とか。

キャンプでノックする西武の松井稼頭央監督(2023年2月8日)

井口さん

西武の松井稼頭央監督は新監督ですが、ベテラン選手の起用法について私に聞いてきました。栗山巧選手と中村剛也選手という2人の実績のあるベテランがいるので、うまく1年間万全な状態で調子をキープしながらどう起用するかについて話しました。私から松井監督には、『自分の思うように采配をしてね!』と伝えました。やはり新監督で、“松井野球”とか言われるわけじゃないですか。あまり周りの声とか気にしないで、自分のやりたい野球を出してほしいと思いまして。

監督にとってのキャンプとは?

昨年まで5シーズンにわたってロッテの指揮をとった井口さん。監督時代、この時期にどんなことを考えていたのでしょうか。選手の起用法や指導する上で大事にしていたことなど、井口さんの“監督論”も伺いました。

井口さん

キャンプは開幕に向けての準備期間ですし、ことしこういう野球をやりたいというのをキャンプでやらないと、オープン戦含めてシーズンに入っていけません。だからチームとしてことしどんな野球をやるかを根付かせる期間だと思います。その中で自分の想像以上に良いものが出てくる選手や想像以上に悪い選手も出てくる。けが人も出る。それを開幕までの1か月でどうやってベストな状態に持っていくかというところですね。私は開幕に向けて逆算していく方でした。消去法ではないですが、1軍のメンバーをどんどん絞っていかなくてはいけません。1軍に登録できるメンバーの人数は決まっていますから。そこで少しずつどう削っていくかっていうことですね。削っていく中で厚みを増さないといけないので。

去年のキャンプでブルペンでの投球練習を見守るロッテ監督時代の井口さん

井口さん

開幕スタメンに関しては、オープン戦含めて調子の良い人や成績を残しアピールした人を優先的に選びます。1年を通して活躍が期待できる選手、まだ1年過ごしたことがない選手、逆に何年もプロ野球の世界で過ごしてきて1年間持たない選手もいるので、その辺りのピースをどのように当てはめていくかというところですね。1年間は無理だから休ませながら使おうとか、そこはコーチと共有して、1年間シーズンを通して、どうやっていくかという話をしながら、この時期に1年間のプランニングはすでに考えています。

選手のどこを見ていたのか!?

井口さん

同じ失敗を繰り返さないかという点ですね。やはり失敗の繰り返しはプロとしてやってはいけないことなので。良い点は継続すれば良いし、悪い点があったら去年の反省をことしはどう補っていくか、どんな新たな試みをして準備をしているのか、という点を見ていました。やはり同じことを繰り返している選手は成長していかない。現状に満足していく選手も成長していかないと思います。同じ失敗を繰り返せば、『またか』ということになってしまいます。

井口さん

シーズンが終わって秋の段階でコーチを交えて選手と話をするんです。春のキャンプインまでに、オフはどんな過ごし方をして、どう成長につなげていこうかと。やはりシーズンが終わった時が一番振り返ることができますし、体が動く時期なので一番修正しやすい。そういった意味で秋のキャンプは大事だと思います。そこで伝えなくてはいけない事はちゃんと伝えます。選手によって伝え方、アプローチも変えます。放っておいても成長する選手もいれば、同じ失敗を繰り返してしまう選手もいます。ただ、決して一方的に強めに伝えるようなことはしません。選手と会話しながら、相手の意見を聞きながら、こちらの意見とコーチの意見も伝えて、後は裏付けるデータなどを出しながら伝えました。

情報があふれる時代 指導者に求められるもの

今は打球の速度や角度、スイングのスピード・軌道など様々なデータを得られる時代になりました。動画サイトからも多くのプロ野球OBの理論も得られます。“そんな時代だからこそ指導者に求められるものがある”と井口さんは言います。

井口さん

今の選手たちの環境は我々の時とは全く違います。様々な情報があふれ、そのデータや練習方法を簡単に自分で取り入れることができますが、結果的にフォームが崩れてしまう選手もいます。データや情報を取り入れる意味や目的を指導者も含めて考えていかないといけないと思います。情報があふれているからこそ、それを理解してピックアップできるといいのでは。自分に足りないものは何で、どんな練習方法がいいのかを理解していくことが必要です。とりあえずやってみるのもいいですが、プロはそれだけではダメです。秋にやっていたことを春にアップデートしていくのはいいでしょう。しかし“キャンプ中にコロコロ変えたりするような選手はシーズンに入ってもなかなか固まらない”ので、そういう事は本人に伝えます。

データではわからない、“現場での気付き”

ロッテの福浦和也ヘッドコーチ(右)と並んで練習を見守る

井口さん

数字やデータでは分からない、我々指導者の感覚とか気付きというのは、今も昔も変わらず大切だと思っています。例えば、カーブを投げる時に手が緩んでいるとか、クセも含めて指導者が気付いたら選手に伝えます。選手たちは、敵のクセは見るのに、自分のクセは見過ごしがちなんですよね。キャンプでも我々(監督やコーチ)がブルペンでキャッチャーの後ろからピッチャーを見ていますよね。あれは、ピッチャーのクセも見たりしているんです。打者目線から、どう見えているかとか。投げる前に握りが体から出て見えちゃうよとか。基本的に打者で成功している選手は、みんな投手のシルエットの違いやグラブの角度、手首の角度、手の回し方、腕の筋の見え方などといったクセを見ています。それで球種が分かれば、打てる確率が上がりますからね。いろんなことを自分で見ていかないと生き残れない世界です。ただ、そういうことを指摘されても直せないピッチャーもいるんです。ピッチャーは自分のフォームで精一杯になってしまいますからね。口で伝えても分からない時には映像を撮って見せてあげる。納得してもらうために、逆に、映像をうまく利用しています。佐々木朗希選手は、毎回指摘されれば、そのクセを直せる選手です。入団時の最初はバリバリ出ていたクセがありましたが、そういうものがそぎ落とされて今に至っています。

今シーズン期待の選手は!?

最後に今シーズン期待の選手や将来楽しみな選手は?そして、今シーズンのプロ野球はどうなりそうか?井口さんに展望して頂きました。

井口さん

今シーズン期待できそうなのは日本ハムの清宮幸太郎選手とロッテの山口航輝選手ですね。2人ともホームラン30本くらい打てるんじゃないかなと思っています。

日本ハム・清宮選手

井口さん

まず、清宮選手はようやく脱皮しつつあると思います。去年の後半に打てたのが自信になっていると思いますし、元々タイミングを取るのが上手い選手です。そのタイミングがこれまではズレてきたりしていたのですが、そのタイミングの取り方がことしは一定になってきているのが大きいですね。おそらくベンチの中でも、『自分が打ちたい』と思いながら相手の投手を見ているのだと思います。打席に入る前からしっかり準備ができている。だからこそ一発でとらえられる。

 

ロッテ・山口選手

井口さん

山口選手は、去年よりもトップがしっかり決まって、ピッチャーの動きに対してシンプルに動けています。ことしはやると思います。これからオープン戦ではインコースで攻められると思います。去年はインコースを攻められて体が開いてしまいましたが、ことしのここまでは、インコースをさばける自信がついたのか、しっかりと踏み込めています。インコースはキレイに仕留めようとすると崩れてくるので、あまりインコースを強引に打ちにいかないことがポイントだと思います。

将来が楽しみな選手は!?

日本ハム・矢澤宏太選手

井口さん

将来性という点では、日本ハムのドラフト1位ルーキーの矢澤宏太選手。想像以上にバッティングが良いですね。最初見たときは身体が細いかなと思ったのですが、スイングの力があるし、強く振れるのに軸もぶれない。足も速くて、二刀流もできるというんですから、物凄い選手になるだろうなと思います。めちゃくちゃ器用なんでしょうね。ただこれからいろんな所を攻められてくるでしょうから、そこで崩されないようにしてほしいですよね。

今シーズンの展望は?

井口さん

投高打低は変わらないと思います。全体的に得点が少ない傾向がある中で、どのように点を取る野球ができるかが勝敗を分けると思います。近年は、オリックスやソフトバンクなど細かい作戦で動くチームが勝っています。例えば、2塁にランナーがいて、ただフライを打つにしても、センターから右方向に打って、タッチアップから進塁できるかどうか。最低限ランナーを進められるバッティングができるか。そこはソフトバンクは絶対徹底していますね。今宮健太選手や柳田悠岐選手もそれができる。ソフトバンクは外国人選手も含めていい競争ができていますし、やはり1チームだけ抜けているなという印象があります。

DeNA佐野恵太選手(左)がキャンプの全体練習後に手締め(2023年2月23日)

井口さん

セ・リーグはDeNAに注目しています。ピッチャーが良くて打線も良いので、私は優勝候補に挙げています。ただ勢いに乗っている時はいいのですが、流れが悪くなった時にどう対応できるかですね。それとこのキャンプ取材でイメージが変わったのが巨人です。バットを振っている量が違うのでベテランの仕上がりがめちゃめちゃ早かったです。毎日早出の練習で2000スイングしているという話もしていましたし、各選手がしっかり振れているとベテランも含めて思ったので、巨人も楽しみです。

目指す解説者像は・・

井口さんは監督時代、試合後にプロ野球中継をよく見返していたそうです。初めて解説者として迎える2023年シーズンに向けて、抱負を語ってもらいました。

 

井口さん

監督を経験させてもらっているので、『こういう場面でこういう作戦になりそう』とか、『この監督はこういう場面で仕掛けてくるよ』とか、結果論ではなく、起こるプレーを予測しながら伝えていきたいです。それが当たる当たらないではなくて。基本的に、野球をご覧になっている方は監督になった気持ちで見ている方も多いと思うんですよね。ですから事が起こる前に予測しながらお伝えしていきたい。例えば、サインが出たらランナーの動きが変わることがあります。スクイズのサインが出た時にもランナーの動きは変わってくる。そうしたランナーの変化を見て『明らかに(スタートの)姿勢や動きが変わりましたね』と伝えたい。そうした場面を見逃さずに、テレビモニターだけではなくて、グラウンドを見てお伝えできたらいいなと思います。僕は、去年までそれを一番近いところ(ベンチの中)で見ていたので。放送席から見えるかどうか分かりませんが、しっかりそういう点を放送でお伝えできたらなと思っています。

井口さんの解説にもぜひ注目しながら、今シーズンもNHKのプロ野球中継でお楽しみください!

 

この記事を書いた人

筒井 亮太郎 アナウンサー

筒井 亮太郎 アナウンサー

平成15年入局 札幌放送局
4年前から2回目の札幌勤務

プロ野球の他に、ウィンタースポーツ、ラグビー、柔道などの中継も担当

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