ストーリーサッカー

奮闘!水戸ホーリーホック 初昇格への挑戦

2019-11-22 午後 06:54

11月24日に最終節を迎えるサッカー・J2。今年もJ1昇格争いは大混戦。3位から6位に与えられるJ1参入プレーオフの枠を巡り、各チーム負けられない最終戦を迎えます。その中のひとつ、現在8位の水戸ホーリーホック。決して資金力に恵まれない中でもいい戦いを見せるチームは、なぜ強くなれたのか。その秘密は彼らの「家」、クラブハウスにありました。

クラブハウスは中学校?

水戸市の中心部から、山あいへ車で40分。クラブハウスはホームタウンのひとつ、城里町にあります。シーズン最終盤、J1昇格に向け練習に熱が入る選手たちを、地元のファン100人以上が見守っていました。その傍らにあるのは、「校訓」と書かれた石碑。

「自立・勤勉・健康・和協」

 

さすがにサッカークラブのスローガンではなさそう。それもそのはず。ホーリーホックのクラブハウスと練習場は、少子化で廃校になった旧城里町立七会中学校の校舎とグラウンドを再利用したものなのです。

 

 

去年、創設25年目にして初めて手に入れたクラブハウスの愛称は「アツマーレ」。中に入ると、かつては教室で使っていた机や下駄箱など懐かしい雰囲気が漂います。クラブハウスは町役場の支所としての機能を兼ね備えていて、チームだけでなく地元の人たちも出入りする場所です。かつてホールだったトレーニングルームは、城里町民も無料で使うことができます。筋力アップに励む選手の隣では、地元のおじさんたちもトレーニング。自然と選手とファンの間で交流が生まれています。

 

 

地元住民

「今までは見るのは野球一筋だったんだけど、若い選手と毎日顔合わせて話してるうちに、これはなんとしても応援しなきゃいけないと。地元だしね。」
「ディフェンスの選手だから、絶対に止めろよな、とか言ってます。」

 

DF 瀧澤選手

「この間のあのプレー良かったね、と言ってもらえて、ありがとうございます、って感じです。」

 

 

小さなクラブならではの、選手とファンの距離の近さ。一方でそれをチームの力に結びつけることは、これまでなかなかできませんでした。

「最貧」クラブの厳しい現実

 

今年7月に発表された、昨シーズンのJ1とJ2各クラブの営業収益。1位のヴィッセル神戸をはじめ浦和レッズ、鹿島アントラーズといったビッグクラブが上位に並ぶ中、ホーリーホックは40チーム中40番目。収益額はトップのヴィッセル神戸と比べるとなんと16分の1です。J2に参入して20年、J1昇格争いに絡んだ事はこれまでありませんでした。

資金面での苦しさは、チーム作りにダイレクトに影響していました。専用の練習場もクラブハウスもなかったため、毎日の練習では公園の空き地や河川敷のグラウンドなどを転々とする日々。そして練習が終わると選手たちはすぐに解散。食事や筋力トレーニングは個々で行うしかありませんでした。J2で500試合以上の出場歴を誇るチーム在籍21年目のベテラン、42歳のゴールキーパー本間幸司選手は、当時を知る数少ない選手です。かつてのチームは、選手同士のコミュニケーションもあまりなかったと振り返ります。

 

 

GK 本間選手

「練習後にご飯を食べ行くとしても何人かで、全員が集まってサッカー以外の事をする事は少なかったです。(チームが)バラバラだったのかもしれないですね、やっぱり。はっきり言って、メディアや友人に向かって『昇格したい』と口に出すのも恥ずかしいぐらいのクラブでした。」

「家」ができてチームは変わった!

クラブの長年の悲願だったクラブハウスを手に入れたことで、チームの毎日は大きく変わりました。練習後には全員で食事。場所はかつて図書室だった部屋です。本棚に囲まれて食事をするちょっと見慣れない光景ですが、選手たちは毎日コミュニケーションをはかれるようになりました。

 

 

食事の後には、選手を一堂に集めて研修が行われます。研修のテーマは栄養学やキャリア形成など幅広く、時にはクラブの社長自らが講師となって、チームの理念を直接選手たちに伝えます。ほぼ毎週実施される研修は、Jリーグの中でも異例の多さだといいます。グラウンド外でのチーム作りを激変させたクラブハウスによる効果を、本間選手は「家」に例えてこう話します。

 

本間選手

「これまでは自分たちの『家』と呼べるところがなかったんです。『家』ができることがこんなに大きいんだなと実感します。僕にとっては本当に夢見ていた、すごく神聖な場所。クラブとしてもコミュニケーションもとりやすくなって、一体感も生まれました。」

クラブへの思いが強まる選手たち

こうした取り組みを経て、チームへの向き合い方が大きく変わった選手がいます、2年前に大宮アルディージャから期限付き移籍してきた黒川淳史選手、21歳です。今シーズンここまで7ゴールをあげ、チーム躍進の原動力になっています。

 

 

「レンタル移籍」とも呼ばれる期限付き移籍には移籍金がかからないため、資金力に乏しいチームは頻繁に活用しています。過去には元日本代表の田中マルクス闘莉王選手(現・京都)や、今年日本代表に選出された鈴木武蔵選手(現・札幌)もホーリーホックに在籍しました。しかしレンタル元から完全移籍してもらうためには、多額の移籍金に加え選手が在籍したいと思えるようなよりよい環境が必要。そのため多くの選手が1年でチームを去り、長期的なスパンでのチーム作りができませんでした。

黒川選手も当初は1年でアルディージャに戻る予定でした。しかし昨シーズン終了後、黒川選手は自らの意志で期限付き契約の延長を決めました。決め手になったのは、チームの一体感だったと言います。

 

 

黒川選手

「去年1年プレーしてチームの良さも知りましたし、また1年ここでチャレンジしたいなっていう思いが、より一層強くなりました。このチームのために戦いたいという気持ちは、移籍当初より今の方が間違いなく強くなっています。」

 

黒川選手の決意が伝わる言葉が書かれたパネルが、ロッカールームに置かれていました。

「どうせやるなら100%」
様々なテーマの研修を受けて、黒川選手が自ら見出した「キーワード」だと言います。

 

 

黒川選手

「チームの歴史を変えられるのは今しかない。僕の手で歴史を変えたいという思いがあります。」

 

かつてはアマチュアレベルだったチームが、昇格争いをして最終節を迎えられる今シーズン。ベテランの本間選手は、若手にポジションを譲り今シーズンは出場機会に恵まれていません。それでも長年支えてきたチームの躍進を感慨深く見つめ、自らも闘志を新たにしています。

 

 

本間選手

「お金じゃない。クラブの大きさじゃない。サッカーはサッカーなんだ。こうやってクラブは成長していくのかなということを、今実感しています。」

 


2019年シーズン、J2の最終節を終え水戸ホーリーホックは6位の山形と勝ち点で並んだものの、総得点で及ばず7位に。惜しくも参入プレーオフ進出を逃しました。それでもこの経験が新たな糧になるはず。クラブの歴史に大きな足跡を残した1年を終え、新たなシーズンに臨みます。

 

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