特集 AMI ブレイキン世界女王 “カッコいい”を軸に

「AMI」のダンサーネームで活躍するブレイキンの湯浅亜実選手。24歳にして世界のブレイキンのシーンのトップを走るBGIRLが最も大切にしているのが「カッコよさ」。そのスタイルで初めてのオリンピックでも存分に「カッコいいダンス」を見せたいと、ぶれずに進もうとしている。
「トラブルに動じない」精神面の進化
2022年10月、韓国で開催されたブレイキンの3回目の世界選手権。2019年に初開催となった世界選手権で初代女王に輝いていたAMIは、キレのあるダンスで世界の強豪を次々と破って決勝に進んだ。
世界選手権 決勝での演技(2022年10月)
実はその1か月ほど前に右手首を練習中に痛めていた。これまでであれば、けがをしたあとは「気持ちがズドーンと落ちていた」というが、最近はけがに対する向き合い方に変化が出てきたという。
AMI
大会前はよくけがをしていて、痛みと向き合う機会が多くなって。その中でここ1、2年はけがをするのには理由がある、今は休みが必要なんだとポジティブに捉えるようになった。それでだんだんけがやトラブルに動じなくなった。
世界選手権決勝 中国の選手とのバトルで多彩な技を見せた(2022年10月)
中国の選手とのバトルとなった決勝。精神面の進化を見せたAMIは、緩急をつけた表現力豊かなダンスに加え、スピード感のある回転技など多彩な技を見せて2対1で勝利。世界女王の座に返り咲いた。
AMI
いつも決勝まで行くと『もう満足、ここまで来たらあとは楽しもう』というマインドになるが、この時は決勝も勝ちたいっていう気持ちがすごく強かった。その中でちゃんと自分の戦い方ができて勝てたのは、すごく大きかった。
世界選手権で優勝 金メダルを手に笑顔(2022年10月)
“自分らしいスタイル”を求めて
ダンサーネーム「AYU」の姉の湯浅亜優選手の影響で小学1年生の時にダンスを始めたAMIは、小学5年生でブレイキンに出会った。背中や肩で回る「ウインドミル」という技を見たのがきっかけだった。その後、さまざまなダンサーと一緒に練習をしたり、バトルの経験を重ねたりして、実力を身につけていったAMIは2018年には世界最高峰の国際大会「BC One」で初優勝。続く2019年の世界選手権でもチャンピオンに輝き、瞬く間にトップダンサーの階段を駆け上がっていく。
AMIはいわゆる「オールラウンダー」タイプのダンサーだ。「パワームーブ」や立って踊る「トップロック」などすべての要素をハイレベルでこなすことができる。その中で意識しているのが「自分らしいスタイル」だという。
AMI
カッコいいって思ってもらいたいというのが一番の軸。本当に、存在としてカッコいいよねって思ってもらうのが目標。
AMIが考える“カッコよさ”をひもとくと「クリーンな流れ」=1つ1つの動きが区切られない流れるようなダンスだという。
AMI
パワームーブとフットワークとトップロックと、全部を1つの流れにする。いつどんな動きが来るか分からないというネタを作っている。つながりのきれいさや、大きい動きへの入り方・抜け方、そういうところでほかの人と違いをつけたい。
作り上げてきた“自分らしいスタイル”を試す場として捉えているのが、ブレイキンが新競技として採用される2024年のパリオリンピックだ。
ブレイキンがオリンピックの新競技になると決まったとき、AMIが心に抱いたのは「ブレイキンがスポーツになるんだ」という驚きだった。元々カルチャーとして発展してきたブレイキンがスポーツになることで、当初は、大きくルールが変わらないかなど、不安もあったという。それでもAMIは「自分らしいダンスを見せることに変わりはない」と、ぶれることはなかった。
JDSFブレイキン春合宿の公開練習(2022年3月)
AMI
オリンピック競技になったことで自分のスタイルを見直す人もいるけど、どんなステージになってもやりたいのは自分のダンス。そう思うようになってから、このスタイルでどこまでいけるのかを見てみたいと思い、オリンピックも真剣に目指したいものの1つになった。オリンピックで自分のダンスを見せつけられたらベストだし、それが無理でも自分の好きなことをやっているから後悔はない。
そして今は、「ブレイキンの可能性が広がった」とも感じている。
AMI
いろいろな人に出会わせてくれたのがブレイキンなので、オリンピックを通していろいろな人に知ってもらえたらうれしい。ブレイキンの良さをより多くの人に知ってもらえるぐらいオリンピックってすごい大きいものだと思うから、それはすごい楽しみ。
全日本選手権「全員に勝ちたい」
AMIにとって2023年最初の大会となる2月の全日本選手権。世界屈指の実力者がそろう日本の代表となり、オリンピックに出場するためには、国際大会に派遣される強化選手が選ばれるこの大会はとても重要な意味を持つ。
2022年の全日本選手権決勝 AYUMI(左)とのバトル
去年はダンサーネーム「AYUMI」の福島あゆみ選手との決勝で敗れた。この大会は、ミスもあって不完全燃焼のバトルだったという。世界女王に返り咲いて臨む今大会では、目の前の1つ1つのバトルでベストを出していきたいと考えている。
AMI
出るからには1番を目指すって感じですかね。AYUMIさんに去年負けたから今年は勝ちたいとかは別に考えていなくて、対戦する全員を全力で倒していきたいっていう気持ち。誰かに勝ちたいというよりは、大会であたる全員に勝ちたいと思っています。
最後にブレイキンを見たことがない人に向けて、全日本選手権でどんな楽しみ方をしてほしいか聞いた。
AMI
ほかのスポーツと違う面白いところは、服装も踊りのスタイルもいろいろな見せ方の人がいるところ。1人も同じスタイルの人はいないので、そこを見てもらえたら。細かいことを考えずに、自分の好きなBBOYやBGIRLを見つけて、それを応援するのが面白いと思う。それがAMIだったらすごく嬉しいです。