特集 朝乃山 大相撲初場所で関取復帰 "三役復帰を目指し勝ち続けたい"

朝乃山は幕下東4枚目で臨んだ去年11月の九州場所で6勝を挙げ、初場所での関取復帰を決めました。大関の立場でのコロナ禍のコンプライアンス違反などを問われて6場所の出場停止と50%の減給6か月の懲戒処分を受けたため、三段目から土俵に戻りました。初場所の再十両昇進で関取復帰を果たした思いを吉田賢アナウンサーが聞きました。
父が亡くなり辞めようと… 母からかけられた言葉は?
吉田(以下、吉) 関取復帰の気持ちはどうですか。
朝乃山(以下、朝)まだ通過点ですし、ここから新しいスタートだなという気持ちです。
吉 これから先、何を見据えていますか。
朝 もといた番付に戻りたいですし、もう1つ上の番付を目指してやっていきたいです。
朝乃山と聞き手の吉田アナウンサー(撮影時のみマスクを外しています)
吉 それは1つの恩返しですね。振り返って出場停止期間は長かったですか。
朝 この1年間、今思ったら早かったです。当時は長いと思っていました。父を亡くしたり祖父を亡くしたりしたので、いろいろあって早かったのかもしれません。
吉 今振り返ってみて、あの時のことをどう思っていますか。
朝 私が自覚のない行動をしてしまったので、処分が下されたのだと思います。
吉 今は気持ちが違いますか。
朝 本当は引退になってもおかしくないことでした。理事長が引退届を預かってくれていますが、もう一度チャンスを頂きましたので、しっかり稽古をして相撲協会や応援をして下さる皆さんに恩返しをしていきたいです。
吉 けがでも病気でもなく1年間土俵に上がれないというのはどうでしたか。
朝 私自身、相撲人生の中で1年間も相撲を取らないというのは初めてでした。7月から出場しましたが違和感はありました。ずっと稽古場でしか相撲を取っていなかったので、稽古場と本土俵は違うのだと感じました。大関だったので勝って当たり前という重圧がありました。
吉 三段目の土俵に帰ってきた時は大きな拍手が起きました。
朝 うれしかったです。花道に入っていく時に拍手を頂いたことがうれしかったです。
三段目で復帰した朝乃山に拍手を送る観客(2022年7月)
吉 1年間土俵に上がれず、稽古場でこつこつと稽古をしたのですが、辞めようと思ったことはなかったですか。
朝 正直ありました。いちばんは父を亡くした時に辞めようかなと思いました。しかし母に「お父さんがいちばん復帰を望んでいたので、お父さんのためにもう1回頑張ろう」と言われたことで相撲から逃げないと決めました。
吉 部屋付きの若松親方(元幕内朝乃若)が令和4年になって朝乃山は変わったと言っていますがどうですか。
朝 心を入れ替えてやろうという気持ちになりました。父の葬儀が終わって富山から戻った時に、師匠の高砂親方(元関脇朝赤龍)にも「もう1回、お父さんのためにも、上を目指して一緒に頑張ろう」と言われました。この師匠の言葉で救われたと思っています。地元富山の皆さんの応援があったからこそ、ここまでこられたと思っています。自分が変わらないと上を目指せないと思いました。
吉 上というのは横綱という上のことですか。
朝 そのときは三段目だったので「とりあえず十両に復帰したい。関取に復帰しないと意味がない」と思っていました。謹慎中はずっと十両、幕内の取組をテレビで見ていました。早く上に上にという気持ちがありました。
気合の入った表情で仕切る朝乃山(2022年11月の九州場所5日目)
三段目の土俵で足が震え 幕下では負けて頭が真っ白に
吉 三段目の土俵に復帰する時はプレッシャーはかなりありましたか。
朝 かなりありました。
吉 三段目で優勝しました。どう思いましたか。
朝 初日から振り返ると緊張で足が震えていました。緊張しやすいほうなのです。15日間の相撲でも緊張していました。今回は7番相撲で1回負けると優勝できないので、なおさら緊張しました。それでも勝ち負けを気にすることなく、本場所の土俵で相撲を取らせて頂けることに感謝の気持ちを忘れずに土俵に立ちました。引退と言われてもおかしくなかったと思っていました。自分には相撲しかないと感じました。
吉 三段目優勝で関取復帰の手応えを感じたのではないですか。
朝 三段目と幕下上位は違うと思いますので手応えはまだなかったです。阿炎関と竜電関の前例があったので優勝は当たり前と思われていたと思います。
吉 幕下で勇磨に負けたときは、相撲は何が起こるかわからないと思いました。
朝 負けた時は頭の中が真っ白になりました。目の前に師匠が審判で座っていました。
吉 私はちょうど実況放送していましたが、まさか負けるとは思わなかったです。
朝 相撲に絶対はないのだと思いました。
吉 7戦全勝優勝というのは強い人が勝つのではなく、勝った人が強いということです(笑)。朝乃山関があそこで負けたことによって相撲の難しさを感じました。「何をやっているんだ」と思ったのですか。
朝 「あ、負けた。負けたんだ」と思いました。相撲が終わって礼をして支度部屋に帰ってくるまでぼう然としていました。幕下15枚目だったので、規定で十両に昇進できるチャンスをものにしたかったです。それも悔しかったです。9月は母の還暦の誕生日があったので余計に悔しく思いました。
吉 九州場所でも6番相撲で玉正鳳に負けてしまいましたね。
朝 秋場所で負けた勇磨と同じようなタイプの力士で意識はしなかったのですが、攻め込んでいながら負けたので前と一緒だと感じました。立ち合いから焦ってしまいました。
玉正鳳にはたき込みで敗れた(2022年11月の九州場所11日目)
吉 玉正鳳は考えた立ち合いで先手を取って攻めました。部屋の関取の玉鷲関と当たってから動く相撲をずっと練習していたのです。
朝 それでしっかりと玉正鳳にやられましたね。
吉 いい経験、勉強にはなったのではないですか。
朝 そうですね。いい薬になりましたね。
吉 秋場所一気に戻るよりは、苦労したほうがよかったのかなと思います。
朝 将来、そう言えるようにしたいですね。
十両の土俵が楽しみ 若い子にどこまで通用するのか
吉 6勝1敗で十両復帰を決めてどう思いましたか。
朝 やはり優勝でなければ意味がないです。阿炎関と竜電関の前例があるので九州場所前は優勝して上がることを目標にしていました。目標を達成できなかったことは悔しかったです。初場所は15日間相撲を取りますので、そのほうが私の体に合うかもしれません。また相手の関取衆も体が大きくなりますので、取りやすいかもしれませんね。
上戸を寄り切って6勝目をあげた(2022年11月九州場所13日目)
吉 まだ誰も成し遂げてはいない。十両からずっと優勝を続けて幕内でも優勝するのはどうですか(笑)。
朝 横綱の照ノ富士関はどうだったのですか。
吉 十両3場所のうち2場所は優勝していますが、3場所目は優勝していません。そして幕内に戻った場所では優勝していますね。朝乃山関が十両で全勝優勝したら、1場所で幕内に戻れるかもしれません。そこで優勝ですよ(笑)。
朝 初場所が大事だと思っています。ここでいかに自分の力が通用するかです。通用しなかったら力が落ちていることになります。稽古が足りないということです。
吉 これまで地元富山の皆さんの応援を実感していますか。
朝 そうですね。不祥事を起こした時は後援会の皆さんに怒られました。後援会は解散してもおかしくなかったです。しかし後援会は関取に復帰するまで見守ってくれていました。関取に戻ってまた一緒に活動していきたいと思っていました。後援会の会員の人数もそれほど減っていないと聞きましたので、応援されていると感じています。皆さんの期待に応えていきたいです。
吉 九州場所で大銀杏(おおいちょう)を結って、十両の土俵で相撲を取りましたね。
朝 はい。大銀杏を結って久しぶりに塩もまきました。これだなと感じました。黒まわしだったので、色付きの締め込みがかっこいいなと思いました。
大銀杏を結って土俵に上がった(2022年11月九州場所6日目)
吉 遠回りしたかもしれませんが、非常にいい経験をしたのかなと思います。初場所で十両の土俵に上がるのは、謹慎中の場所を除いて幕下3場所で十両に駆け上がった平成29年春場所以来ですね。
朝 非常に楽しみにしています。新十両の時と今の十両は関取衆の顔ぶれが違います。若い子が多いので今の力がどこまで通用するのか楽しみです。
豊山がいたからここまで頑張れた
吉 新十両の時は優勝決定戦までいったのですね。
朝 そうです。千秋楽に阿武咲関に勝って豊響関も加わった3人の優勝決定ともえ戦になって負けました。
吉 まず十両優勝ですね。
朝 十両優勝しないと、周りの方々も納得しないと思います。
吉 それがプレッシャーになることはないですか。
朝 もうプレッシャーだらけですね。でも、もう1回チャンスを頂いたので、しっかり結果を残すことが相撲協会にも恩返しになると思っています。優勝という結果を残したいです。あわよくば十両は1場所で通過したいです。
吉 話は変わりますが、平成28年春場所三段目100枚目格付出しで共に初土俵を踏んだ豊山関が引退しましたが、どう思いますか。
朝 場所中にうわさで聞いていました。九州場所が終わって引退届を出したニュースを見て寂しいと思いました。巡業中に何回も食事に行ったりしていました。高校の時から一緒に合宿をして稽古してきた仲ですし、付出しのデビュー戦が小柳(豊山の本名)で私が負けました。彼はどんどん出世していきましたが、彼がいたからここまで頑張れました。感謝しています。
オンラインで引退会見を行った豊山(2022年11月)
吉 令和5年をどういう年にしたいですか。
朝 令和4年は半年間謹慎中でした。あとの半年は三段目、幕下で出場しました。令和5年は関取から新たなスタートですので、しっかり稽古をして上を目指していきたいです。
吉 これから1年の具体的な目標は立てていますか。
朝 28歳は若いほうではないと思いますので、いつまでもダラダラしてはいられないです。幕内にすぐ上がりたいです。九州のお客さんと話したのですが「帰ってくる時は三役で」と言われました。「はい」と返事をしましたので三役に戻りたいです。三役にならないと大関復帰も目指せないです。三役復帰を目指して三役からも落ちないようにして勝ち続けていきたいです。
一気にいかないとダメ、令和6年ごろに横綱を目指す
吉 その意味でも十両に復帰する初場所、勝つことが大事ですね。
朝 ここで一気にいかないとダメです。早く上にいきたいです。
吉 その先の綱とりはどう思っていますか。
朝 令和5年は難しいかもしれません。地元富山の横綱太刀山さんが30歳を過ぎてから横綱になったと聞いています。30歳を過ぎてから力が出る人もいます。横綱になることは大変厳しいことだと思っています。もし横綱に上がることができるとしたら令和6年ごろですか。
吉 そうですか。結婚についてはどうですか。
朝 結婚よりも早く番付を上に戻したいです。今はまだ結婚する時期ではないと思います。いつかはします。
相撲専門雑誌「NHKG-Media大相撲中継」から