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特集 岡林勇希「引きずらないこと!」から生まれた最多安打

野球 2022年12月22日(木) 午後7:34

立浪和義新監督の就任で注目を浴びながら最下位に終わった中日。もがき苦しんだシーズンのなかで、希望の光となったのが3年目の外野手・岡林勇希だ。最多安打、ゴールデン・グラブ賞、ベストナインをいずれも初受賞し飛躍のシーズンとなった。その背景に迫る。

すべてがキャリアハイの1年

契約更改交渉を終えた後の会見で笑顔(2022年11月27日)

岡林選手

ことし1年間通してできたことをしっかりと評価してもらった。ことしここまでできるとは思っていなかった・・・

11月の契約更改、5倍以上アップの推定年俸4000万円で契約を更改した岡林の表情は充実感に満ちていた。今シーズンの岡林は開幕戦の先発メンバーに抜擢され、打順は60試合で1番、69試合で2番と、いわゆるリードオフマンを託された。142試合に出場し積み上げたヒットは161本、最多安打のタイトルを獲得した。さらに三塁打は10本でリーグトップ、2割9分1厘の打率はリーグ7位と抜群の成績を残した。

 

この試合4本目のヒットで最多安打争いトップに(2022年9月30日)

打つだけではない。俊足を生かした守備範囲の広さと強肩も見せた。補殺の数はリーグトップの実に7回。納得のゴールデン・グラブ賞受賞だった。今シーズン、中日といわずリーグでもっとも伸びた若手といっていい成績だった。

キラリと輝くダイヤの原石

岡林選手

本当に監督がかわればレギュラーもすごくかわってくると思っていたし、キャンプから負けないというか絶対レギュラーを取るという気持ちで取り組んできた。

岡林の才能の開花には立浪監督が深く関わっていた。それはさかのぼること1年半以上前、去年春のキャンプだった。与田剛前監督は当時、バッティング向上のため野球解説者だった立浪氏を臨時の打撃コーチとして招へいしていた。立浪氏が目をつけ「近い将来レギュラーを取れる」と言わせた選手が岡林だった。

 

去年春のキャンプで練習に取り組む岡林選手(2021年2月12日)

名打者であり名リーダーでもあった立浪氏がそう感じた理由は、岡林の真摯に取り組む姿勢なのか、素直な性格なのか、そこは明らかにしていないが、ダイヤの原石をしっかりと見抜いていた。監督の交代は、まさに岡林にとってターニングポイントとなったのだ。

開幕直前にまさかのけが

春のキャンプとオープン戦で結果を残した岡林だったが、開幕が迫ったオープン戦で右手の指をけがした。その影響でオープン戦の最終戦は出場できなかった。開幕は厳しいかと思われたなか、岡林は開幕戦のオーダーに名を連ねた。しかし指は包帯などでぐるぐる巻き。言葉にはしなかったが、その表情からは“ここでレギュラーをつかまないとだめだ”という本人の強い意志が伝わってきた。

 

巨人との開幕戦で3回に同点タイムリー(2022年3月25日)

この巨人との開幕3連戦で岡林は14打数6安打と打ちまくった。勝負所は逃さない。岡林のど根性、立浪監督が将来のレギュラーを予感した理由が、かいま見えた開幕戦だった。

目の前で見た厳しさ

シーズン中に岡林がプロの厳しさを突きつけられた試合があった。5月4日、横浜スタジアムでのDeNA戦だ。不動のショートとして活躍していた京田陽太が消極的な守備のミス。立浪監督は試合中にもかかわらず、その場で2軍行きを告げたのだ。ベンチにいた岡林は背筋が凍ったという。

岡林選手

あれだけずっと1軍で活躍していたチームの中心選手がファームに落とされるということもあるんだなと。すごく危機感を持ったし、らしくないプレーをしたら、そういうことになるんだなと。もっともっと自分もやらないといけないなと思った。1試合どころか1球1球を無駄にしてはいけないなということを本当に身に染みて感じた。

落ちていく打率 それでも「引きずらない」

京田の2軍行きがあった5月、岡林自身バッティングに苦しんでいた。徐々に成績も落ちていった。5月13日時点で打率は2割2分3厘にまで落ち込んだ。小さい頃から性格として気持ちの切り替えがうまくできないという岡林だが、今シーズンはある信念をもって挑んでいた。

岡林選手

プロになれば143試合という長い試合がある。1打席凡退しても、くよくよして引きずってしまうと本当にチームにも迷惑をかける。しっかりと切り替えて凡打しても次に生かしたい。

シーズン中のインタビューで立浪監督も岡林についてこう話していた。

 

先制のホームを踏んだ岡林選手を迎える立浪監督(2022年6月2日)

立浪監督

143試合という長いシーズン、いいときもあれば悪いときもある。打てないときもある。そこをどう乗り越えていくか。

監督は岡林にどう声をかけたかまでは語らなかったが、2人の間に確かな信頼関係があったことは疑いがない。監督が起用を続けるなか、岡林は6月中旬から息を吹き返したように打ち始めた。打率はぐんぐん上昇、そのあとは高い打率を維持してシーズンを終えた。

"3年続けてようやくレギュラー" チームへの思い

冒頭の契約更改。岡林の言葉からは、ことしの活躍に満足していないという強い気持ちが見えていた。

岡林選手

3年間続けて出てレギュラーと言われる。まずはそれを目指す。

続けて新たなタイトルにも意欲を見せた。

岡林選手

盗塁は増やさないといけない数字。盗塁王をとってみたいし、目指すところは目指していきたい。

しかし来シーズンに向けて具体的な数字は口にしなかった。それは“まだ挑戦者、がむしゃらに前に進みたい”という岡林らしさの表れにも感じられた。

岡林選手

目の前のことを必死にやっていきたい。数字はあとからついてくるので。その数字を決めればそこで終わっちゃう。

そしてこう続けた。

岡林選手

ことし最下位だったので登るしかない。自分はチームのために何ができるのか、チーム全員で優勝を目指してそのピースになれるようにしたい。

 

20歳の若き竜のさらなる飛躍でチームはどうなるのか、今から開幕が待ち遠しい。

 

この記事を書いた人

竹内 啓貴 記者

竹内 啓貴 記者

平成27年NHK入局 愛知県出身
中京大中京高時代は野球部で甲子園出場 慶応大でも野球部に所属
ドラゴンズを担当して3年目

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