特集 有馬記念 独特のコース形態 中山競馬場巧者を探せ!

ことしの中央競馬を彩ったサラブレッドが集結。競馬界のビッグイベント有馬記念が12月25日に迫ってきました。ファン投票の上位馬に優先出走権が与えられることからドリームレースとも呼ばれる年末の風物詩。出走する顔ぶれが固まりました。
独特なコース設定が波乱の結果を生む
有馬記念の舞台となるのは中山競馬場の芝2500m。3コーナーの奥からスタートしてコースを約1周半周回しますが、GⅠレースの舞台としては独特の設計となっています。まずは通過するコーナーの数が多い点です。1周目の3コーナーから2周目の4コーナーまで全部で6回通過。直線部分を走る割合が少ないのが有馬記念の特徴です。
有馬記念はコーナーがよりタイトになる内回りのコースで行われる
さらに中山競馬場のコースそのものが他の競馬場より小さく、各コーナーがタイトな設計となっています。そのため馬群の外側をずっと走行することになれば、内側の馬よりかなり長い距離を走らされることになります。また4コーナ―からゴールまでの直線の長さが310m。GⅠレースが実施される競馬場の中で最も短いため、直線に入ってから加速したのでは先頭になかなか届きません。3コーナーから4コーナーにかけてカーブを回りながら加速できるような器用なタイプが理想とされています。こうした独特のコース形態を前に過去有力馬がレースを上手く運ぶことができず、たびたび波乱の結果が生まれてきました。有馬記念を展望する上で、コースへの適性をどう検討するかが興味深くも難解な要素です。
元調教師の鈴木康弘さん
NHKの有馬記念の中継で解説をする元調教師の鈴木康弘さんに中山コースへの適性を分析してもらいながら有力馬を紹介します。まずはファン投票の上位3頭です。
中山向きの安定した先行力 タイトルホルダー(ファン投票1位)
宝塚記念を制したタイトルホルダー(2022年6月26日)
GⅠ通算3勝はことしのメンバーで最多。10月には世界最高峰のレースの1つ、フランスの凱旋門賞にも挑んだタイトルホルダーです。ことしは2つのGⅠレースを勝ちましたが、6月の宝塚記念ではハイペースの中、前から2頭目につけて最後も突き放す強い内容でした。この宝塚記念の優勝馬は有馬記念とも好相性。過去に11頭が同じ年に両レースを制しています。中山競馬場では過去7戦3勝、2着1回。経験数は出走メンバー随一。先行力を生かして好位置を取れるのが魅力です。去年の有馬記念は5着でしたが、鈴木さんは一番外の16番枠からのスタートだったことが結果に影響したと振り返ります。
鈴木さん解説
有馬記念のコースはスタート後にすぐにコーナーを回る。その分、タイトルホルダーのように先行したい馬にとって外枠からのスタートはスタミナをロスしやすい。それが着順に影響したと思う。ことしはまず枠順に注目。そしてスタートして1周目の直線に入るまでにいかにスムーズに先行ポジションを取れるかが注目です。
去年の優勝馬 中山実績は筆頭 エフフォーリア(ファン投票2位)
去年の有馬記念はエフフォーリアが優勝 年度代表馬に選出(2021年12月26日)
去年の有馬記念の優勝馬で年度代表馬にも選出されたエフフォーリア。ことしの競馬界はこの馬を中心に展開されると期待されていましたが2戦して未勝利。足の状態の不安から長い休養を取り今回の有馬記念が半年ぶりのレースになります。状態がどこまで戻っているのかに注目が集まりますが、中山での実績はメンバートップと言っていいでしょう。2戦2勝でいずれもGⅠレースの皐月賞と有馬記念です。得意の中山で再び輝きを取り戻すのか。ファン投票2位。復活を信じるファンの期待を背負い連覇に挑みます。
鈴木さん解説
ことしのレースを見ていると、エフフォーリアがみずから進んでいこうという気が少し足りないように映りました。有馬記念では途中で後方に置かれると追い上げるのは困難。騎手が手綱を動かさなくても先行グループで追走できるくらいの前向きな姿勢が戻っていれば、復活の勝利も見えてくるのではないでしょうか。
器用な立ち回りの再現なるか イクイノックス(ファン投票3位)
天皇賞(秋)でGⅠ初勝利をあげたイクイノックス(2022年10月30日)
3歳馬として臨んだ10月の天皇賞(秋)で、イクイノックスが4歳以上の古馬を相手にGⅠ初勝利をあげました。デビューから5戦3勝、2着2回の安定感。中山競馬場も4月の皐月賞(2着)で一度経験済みです。優勝した天皇賞で素晴らしい追い込みを決めたように、後方からレースを進めることが多いイクイノックスですが、皐月賞では先行グループでレースを進めて器用に立ち回れるところも示しました。
鈴木さん解説
騎手の意のままに操縦できるタイプ。最近2レースは追い込みの印象が強いですが、中山競馬場で先行して結果を残していることは大きなプラス材料と言っていいでしょう。コーナーがきつくてトリッキーな有馬記念でも安心してレースに臨めると思います。コーナーをロスなく回って最後の直線で抜け出す、そつのない競馬ができそうです。
そのほかにも、ことし注目を集めるGⅠ優勝馬の2頭を紹介しましょう。
極上の瞬発力 中山でも発揮できるか ヴェラアズール
GⅠ初出走でジャパンカップを制したヴェラアズール(2022年11月27日)
11月のジャパンカップをGⅠ初出走で勝利したヴェラアズールです。最大の強みは直線での瞬発力。ことしの春にダートから芝に転向。そこから前走のジャパンカップまで6戦連続で瞬発力の目安となるラスト600mのタイムは出走馬の中で最速をマークしました。中山競馬場での出走は過去に重賞で活躍する以前の1回だけ。直線の短い中山でも先頭に立てるだけの瞬発力を発揮できるのかどうか。この見極めがヴェラアズールのレースを展望する上では焦点となりそうです。
鈴木さん解説
ポイントは2周目の4コーナーでの位置取りです。前走ジャパンカップでは東京競馬場の長い直線で馬群の中を抜け出してこられたが、中山競馬場の短い直線で進路を他馬にふさがれると、再加速して差し切るのは困難。そのリスクを避けてコースロス覚悟で馬群の外を回し、直線で差し切るイメージを描くのか。ジョッキーの判断に注目です。
有馬記念ゆかりの血統 ジェラルディーナ
ジェラルディーナはエリザベス女王杯でGⅠ初勝利(2022年11月13日)
11月のエリザベス女王杯でGⅠ初勝利をあげたジェラルディーナ。デビュー前から血統面で注目されていた1頭です。父モーリスは国内外のGⅠで6勝。母ジェンティルドンナは国内外のGⅠで7勝し、引退レースとなった2014年の有馬記念も勝利しています。過去66回の有馬記念の歴史の中で牝馬の勝利は7頭だけ。勝てば史上初の母と子による有馬記念の親子勝利となります。また母の父には2006年に有馬記念を制したディープインパクト。さらに父の父の父(曾祖父)には1998年と1999年の有馬記念で連覇したグラスワンダーが名を連ねます。有馬記念ゆかりの血統として興味深い存在となっているジェラルディーナ。中山競馬場での出走経験は1回だけですが、ことし9月のオールカマー(GⅡ・芝2200m)ではジョッキーの指示にしっかり反応。狭いところを臆せず抜け出す勝負根性を見せて快勝しました。
鈴木さん解説
オールカマーのように好位で追走して直線で内からすっと抜け出す競馬が理想と思います。その上で有馬記念は出走メンバーが大幅に強化され頭数も増える中で、同様のレースができるかどうか。またタイトなコーナーで各馬がどうしても内側に殺到しやすいので、他馬と接触した時に前向きなメンタルで走れるかどうかがポイントだと思います。
騎手人生最後の有馬記念に挑む
ここまで紹介した以外に去年の有馬記念2着のディープボンド、ことしのGⅠで好走したポタジェ(大阪杯優勝)やボルドグフーシュ(菊花賞2着)など有力馬が目白押しです。このうちボルドグフーシュと初めてコンビを組む福永祐一騎手は先日、2023年2月で騎手を引退し調教師となることを発表しました。今回が最後の有馬記念での騎乗です。
調教師免許試験の合格者発表で自身の名前を指さす福永騎手(2022年12月8日)
トップジョッキーとして活躍してきた福永騎手はこれまで2020年にコントレイルとのコンビで無敗のクラシック3冠を達成するなどGⅠレースは歴代3位の通算34勝をマーク。しかし有馬記念は過去13回騎乗してまだ勝利がありません。先日、NHKのインタビューで最後の有馬記念に挑む思いを語りました。
福永騎手
盛り上がりという面では1年で1番盛り上がり、騎乗馬がいないと本当に寂しい気持ちになるレース。1度は勝ってみたいという思いはデビュー当初からずっと持ち続けていました。最後にチャンスのある馬に騎乗依頼を頂きましたので、何とか最後は勝ってお客さんの大声援を一身に受けたいなという気持ちです。
今回の有馬記念では史上最多を更新する約413万の投票が寄せられました。ファンの夢を背負った16頭が中山競馬場に集います。クリスマスの午後、NHKの放送で2分30秒のドリームレースをぜひお楽しみください。
この記事を書いた人

高木 修平 アナウンサー
平成15年入局。広島放送局(2回目の勤務)。
前回勤務した4年間は、カープ25年ぶりのリーグ優勝や連覇達成、黒田博樹投手の日本復帰初登板の試合など歓喜の場面に数多く立ち会えた。