特集 宮森智志 年収100万円生活からプロ野球記録に届くまで プロ野球・楽天

6月以降の大失速からパ・リーグ4位に終わったプロ野球・楽天の2022年。後半戦の希望の光となったのがルーキー宮森智志投手(24歳)。四国の独立リーグから育成ドラフト1位で楽天に入団した。7月末に支配下契約を勝ち取るとリリーフの一角を担い、デビューから22試合連続無失点を達成してプロ野球の新人記録に並んだ。去年まで年収100万円以下だったという若者が一気に階段を駆け上がった道のりを追う。
実力以上の何かが…
宮森投手
実力以上の何かが後ろについてるんじゃないかと思うくらい、内容の詰まったいいシーズンになった。さい先いいスタートを切れたことが流れに乗れた一番の理由なのかなと思う。
宮森投手は人柄をうかがわせるようなまっすぐな口調で今シーズンを振り返った。1メートル93センチの長身から投げ下ろす150キロ超のストレートと落差のある変化球が持ち味だ。1軍デビューは8月2日のロッテ戦。チームが2点リードされた9回だった。三振2つを奪うなど3人を11球で抑えてここから波に乗った。
プロ初登板のロッテ戦は三者凡退で抑えた(2022年8月2日)
なかでも本人が「ベストピッチ」と胸を張るマウンドが登板22試合目、9月19日の西武戦だ。延長戦となったこの試合、11回表に味方が2点を取って勝ち越し、その直後のイニングを宮森投手が任された。源田壮亮選手、森友哉選手と西武の上位打線を打ち取り、4番・山川穂高選手を迎えた。
宮森投手
“決めたい”と思って腕を振り切った中で、自分が思ったとおりに三振が取れた。
デビューから22試合連続無失点のプロ野球新人記録に並ぶ(2022年9月19日)
フルカウントからの6球目、鋭く曲がるスライダーで球界を代表するホームランバッターを空振り三振に封じ、マウンド上で思わずこぶしを握った。この瞬間、プロ初セーブをマークするとともに、デビューから22試合連続無失点のプロ野球新人記録に並んだ(※2021年に広島・栗林良吏投手が達成)。
年収100万円以下 ”週7で親子丼”
独立リーグ時代の宮森投手
これまではスポットライトとは無縁の野球人生だった。広島県出身で高校は呉商業に進んだが甲子園経験はない。流通経済大学では4年の時にプロ野球志望届を提出したが12球団から指名はなく、卒業後の去年春、四国の独立リーグ・高知ファイティングドッグスに入団した。宮森投手は独立リーグで過ごしたつい1年前の生活を「苦しかったですね」と率直な言葉で回想する。
宮森投手
寮があったので家賃はないけど、年間通しても100万円もらえない。本当に生活するので精いっぱい。一番大変だったのは食事ですね。
暮らしに余裕はなくても野球選手にとって体は資本だ。自炊が苦手な宮森投手が何とか覚えたのが親子丼だった。
宮森投手
スーパーに行ったらとりあえず鶏肉と卵を買って週7で食べていた。安価だしタンパク質もとれるし調理が簡単なので。
新たな変化球を我流で習得
慣れない手料理に挑戦しながら独立リーグを生き抜き、プロの扉を開いた宮森投手。もちろんこの間、プロで戦うための技術面のレベルアップも忘れなかった。チェンジアップとフォークボール、いずれも沈むように落ちる変化球の習得だ。その握りや投げ方はほかのピッチャーを参考にしたり教えてもらったりせず我流で身につけたという。
宮森投手
チェンジアップは独立リーグで、フォークは楽天に来てからチャレンジした。自分は身長もあるので落差が使える。そこを十分に使っていこうと思った。
高い身長から投げ下ろす変化球と速球のコンビネーションはパ・リーグの強打者たちを翻弄した。今シーズンは23回1/3イニングで奪った三振が23個。アウト3つのうち1つは三振だった計算になる。ランナーを背負った場面やわずかな失点も許されない展開での起用が多いリリーフにとって奪三振は重要な要素だ。
崖っぷちに立たされていたからこそ
飛躍の1年を経た宮森投手は来シーズンの年俸が今シーズン(420万円)の倍増以上の1000万円にアップした(※金額はいずれも推定)。苦しい経験をしたからこそプロ野球の舞台で腕を振れる喜びを感じている。
契約更改交渉を終えた後の会見で笑顔を見せる(2022年11月10日)
宮森投手
本当に崖っぷちに立たされていたからこそ、いま経験できていることが本当に貴重なんだと、かみしめながらひとつひとつ大切に取り組めているのかなと思う。来年は1年を通して1軍のステージに立ち中継ぎで50試合登板を達成したい。
練習中、球場に流れる音楽に合わせてダンスをする宮森投手の姿をよく見かける。そのレパートリーは「三代目 J Soul Brothers」の「R.Y.U.S.E.I」から、かつての人気ドラマの主題歌「マル・マル・モリ・モリ!」まで実に幅広い。来シーズンはヒーローインタビューのお立ち台で見事なダンスも多くのファンに披露してほしい。