ストーリーサッカー

岡田武史 今こそ、夢を語ろう 後編

2020-05-29 午後 03:09

今年、サッカーJ3に参入するFC今治の会長、岡田武史さん。

新型コロナウイルス感染拡大の影響でJ3の開幕は未定。FC今治のJデビューはお預けのまま2か月余りが経っています。サンデースポーツ2020では2月上旬に岡田さんにロングインタビューを実施。先の見えない暗闇の中にいるスポーツ界において、今あえて岡田さんが語った「夢」。「岡田メソッド」と呼ばれる独自の指導論で、若者に伝えたいこととは。放送に入りきらなかった未公開トークを含め、全2回に再構成しお伝えします。

人を育てる「岡田メソッド」の夢

今シーズンからJ3を戦うFC今治を「経営者」として導く岡田武史。かつてJリーグを制しワールドカップでも2大会で指揮をした指導者としての経歴を持ちながら、トップチームの強化は現場にできるだけ委ねてきた。その一方で力を入れてきたのが、世界に通用する子どもたちの育成だ。

去年、岡田は自身の経験と知識をもとに、今治で実践している指導体系を記した1冊の本を出版した。その名も「岡田メソッド」。300ページ近い本の中には、単なるハウツーではなく、ひとつのプレーにいくつものアプローチがある事を選手たちに理解させる育成法がまとめられている。その真髄と何か。そこに至る経緯と共に岡田に尋ねた。

 

岡田は若年層の育成の現場に自ら立つことも

 

*****

 

大越 順を追って聞かせてください。まず岡田メソッドを世に発表された経緯を教えてもらえますか。

 

岡田 要はサッカーの「原則」みたいなものをまとめようということなんです。最初は1年ぐらいでできるかなと思ったんですけど、3年半もかかりました。いろんな事を中国や今治のアカデミーでテストしてきて、世に出しても恥ずかしくないものになったなと思ったから、ちゃんと著作権取っといた方がいいだろうという事でね。売るためというより、権利をとるために出版したんですよ。僕のやり方が絶対正しいなんて言うつもりもないし、結果がでるのは10年後のチャレンジですよ。いいものだったら自然と広まっていくだろうし、よくない物だったらそのまま消えていくだろう。それぐらいの感覚です。

 

大越 その原則をまとめようと思ったのは、どうして。

 

岡田 日本のサッカーは、子どもの時は遊ばせておいて16歳ぐらいからチーム戦術を教えてきました。そうじゃなくて原則をまず教えて、あとは自分で判断させようと。そうすると、自分から主体的にプレーするような選手が育つんじゃないか。それが育たないと、日本がワールドカップベスト16の壁を越えていくのは、なかなか難しいんじゃないかっていう感覚があってね。今まで日本代表はどれだけいいチームだって言われていても、ワールドカップの初戦で負けたらガタガタと崩れてきた。ジーコもザッケローニもすばらしいチームを作ったけど、初戦で負けた瞬間にガタガタになって自分たちで盛り返せなかった。これは何故なんだと考えてみると、やっぱり主体的で自立したプレーヤーが必要なんだと思ったんです。今でも何人かはいるけど、もっとそういう選手を育てなきゃいけないなと思ってね。

岡田が重視する“プレーモデル”とは

大越 その岡田メソッドを描く上で、具体的にどこに一番力を入れたのでしょう。

岡田 一番は「プレーモデル」という原則集を作ったことですね。例えばボールを持っている味方を助ける動き、「サポート」を例に挙げて言うとね、うちは3つの原則を作りました。

 

 

①緊急のサポート→味方がボールを奪われそうになっている時。必ず近くに顔を出す。

②継続のサポート→味方がフリーの時。あまり近寄らずにサポートを継続する。

③突破のサポート→味方はフリーだがポジションが悪いとき。自分がパスをもらって突破を狙う。

 

岡田 これを原則として教えとくわけです。そして練習の中で、自分が今どのサポートをしているのか全員に声を出させる。「1!3!2!」ってね。そうするとうまく回らなかったパスがぽんぽん回り出した。選手たちは周りを見ないと番号が言えないから、わざわざ「周りを見ろ!」と指導者が言わなくても動くようになる。結果いいサポートができてパスが通る。あくまで原則だから違う事をしても全然問題ない。ただ原則を統一しておく事によって、意識の共有ができるようになって、選手が自分で判断するようになっていきました。

 

大越 サッカーの世界だけじゃないかもしれませんが、何でも対症療法のように対応していると、場当たり的で人間忘れちゃうものですもんね。それでまず原則を教えてあとは自由に、と逆転させたと。

 

岡田 単純なことから教えて徐々に複雑にした方が分かりやすいんだけど、そうすると選手は次に何が来るか「待つ」ようになるんですね。それより選手が自分で「気付く」方が教えられることよりも深く落ちていくし、気付ける選手は「監督はこういう事も言おうとしているんじゃ?」って、自ら考えるんですよ。これまで指導者をやってきてこういう「方法論」は見つけられたわけです。でも根本的解決はできなかった。そんな時にスペインの話を聞いたんですよ。スペインには「プレーモデル」、いわばサッカーの「形」のようなものがあって、それを16歳まで落とし込むって。これを聞いた瞬間に、根本的解決になるかもしれないってひらめいた。正しいかどうかわからないけどやってみよう。日本人に合った、日本人が世界で勝つための原則を作ろうって。

 

 

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日本のトップレベルを率いてきたサッカー人生を通して感じた、「主体的な選手を育てたい」という思い。それを後々まで理論的に残すために、FC今治での「岡田メソッド」の具現化は始まった。理想としたのはスペインの強豪チーム・バルセロナのメソッド。個々の高い技術をベースに、ショートパスを繰り返しながら連携しゴールを狙う。そこで岡田は現地のコーチと提携し、本場バルセロナの原則を「パクる」ことにした。ところが…。

「全然ストンと落ちてこなかった。これは違うなって」。
その理由を分析することが、次のステップにつながっていった。

文化、歴史、地域が育むサッカー

岡田 例えば、エスキモーには「白」を意味する言葉が10以上あるそうです。これは雪の白さで明日の天気を把握しなきゃいけないから。日本では必要ないことだから、なかなか理解できないですよね。同じように、スペインのサッカーでは「縦方向に入れるパス」でも状況ごとに固有名詞が違うんです。要はそれが必要だから名前が分かれている。日本ではみんな「縦パス」です。サッカーはその国の文化や歴史、国民性を反映するから、同じサッカーをやろうとしたって全てが同じにはならない。日本人がスペインの真似事をしたって、理解できないのは当たり前なんですね。そしたら僕らは日本人に合ったサッカーを自分たちで作んなきゃいけない。最初にカッコつけてパクりを作っちゃって、これじゃダメだろうっていう事になったので、結局1回できたものを潰してまた作り直しました。

 

大越 プレーモデルというのは、サッカーの世界では日本でももっと早くから共有されているものと思っていました。でも岡田さんの目から見ると、それは全然できていなかった。日本のサッカー文化には欠落していたと。

 

岡田 なかったですね。というか世界でもそんなにきっちり作っているところはないと思いますよ。だからまず日本では、監督じゃなくて選手が考えて選手が判断していく、自立した主体的な選手になる事が必要だと思いました。特に日本人というのは、サッカーに限らずもともと主体的に自分の人生を生きるのが苦手な国民だと思うんですよ。自分の人生を生きられるのに、どこか人や周りのせいにしていないか。それを、スポーツから何か変えていけないかなと思ったんです。僕たちがしているのは、そういうチャレンジなんです。

 

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全国高校サッカー選手権に出場した今治東高校

 

苦労の末に形になり始めた「岡田メソッド」。岡田はそれを自分たちの手で独占しなかった。今治にある少年団・中学・高校へメソッドを無償公開したのだ。岡田自らが指導者に会い、講演の壇上に立ってその意義を伝え、FC今治から指導者も派遣。「今治モデル」として、地域のサッカー人が同じ方向を向いて育成に取り組む風土を作り上げていった。そして去年の全国高校サッカー選手権。岡田メソッドを取り入れた今治東高校が、今治のチームとして初出場を果たす。取り組みの成果が徐々に見えるようになってきた証となる出来事だった。
この先に岡田が見ているもの。それは単なるサッカーだけの盛り上がりではなく、人口減少が進む新しい時代にたくましく生きる地域の姿だと言う。そのアイデアを語ってくれた。


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岡田 今治の現状を見ていると、たとえFC今治が成功したとしても、人口が減って見に来てくれるお客さんが将来いなくなるかもしれないと思うんです。だから「一緒になって元気になりましょう。まずはサッカーで」っていう事で、「今治モデル」を考えた。僕らは今治の全員で強くなる。規模は小さいけれど日本一質の高いピラミッドを作る。その頂点のFC今治がおもしろいサッカーして強くなったら全国から、もしかしたらアジアから今治でサッカーをやりたい若者や、岡田メソッドを勉強したい指導者が来るかもしれない。そういう人たちを高齢者の家にホームステイさせたら、おじいちゃんおばあちゃんがアスリートのための料理や英会話の勉強を始めるかもしれない。そうしたら、人口15万の町が妙にコスモポリタンで活気に満ちた町にならないだろうか。そんなことを考えて取り組んでいますね。

利益を追い求めるだけではいけない

今治に来て5年半余り。岡田たちの取り組みは、今治という町に広く根を張ろうとしている。

 

子どもたちの無人島生活体験も企画

 

岡田メソッドを通じた人材育成に加えて、サッカーというフィールドを離れた社会活動も積極的に展開。全国の一流ビジネスマンを講師にした学生向けのワークショップに、子どもたちが自然とふれあえる、禁止事項を極力減らした自然公園の管理。無人島生活を体験できる野外学校など、今治の子どもたち若者たちが日常では味わえない経験を提供している。

それぞれは決して大きな利益になるようなものではない。それでも、クラブ経営というビジネスを成功させながら、社会の理想を青く追い続ける、トップである岡田に迷いは見えない。

 

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大越 一口で言うと「社会貢献」という言葉になるのかもしれないですけど、その一方でビジネスを成功させなければいけない。両立のために腐心をされる事も多いんじゃないでしょうか。

 

 

岡田 うちのミッションステートメントには「社員に始まり、より多くの人を笑顔にする、幸せにする」ってあるので、そういうことはきちっとやっていかなきゃいけないよね。でも会社の利益にならないことを何もかもはやれないです。潰れちゃいますから。だから本当に大事なものを超えない範囲でやらなきゃいけない。これは京セラの稲盛和夫さんに教わったんだけど、「自我があってもいいが、神我・宇宙の法則を超えてはいけない」と。利益をあげていかなければいけないが、利益さえあげればいいんじゃない。僕らも企業の理念や使命を絶対超えない、その範囲内で利益を上げる活動をしよう。そういう風に自分の中では割り切っていますね。

 

大越 中期長期の経営戦略の中でそれが生かされているわけですね。でも僕は岡田さんの視点はそれだけじゃないと思っていて、ご自身がワクワクして人生を歩んでいるから、目の前の人たちにも生き生きと暮らしてほしいというか。何かそういう思いを感じるんですよね。

 

 

 

岡田 やっぱり僕も60歳過ぎて、次世代に対する責任があると思うんですよ。全ての生物は命をつなぐために生きているはずなんです。自分の子供、そして孫。この子らにどういう社会を残すのかという思い、そこが全てのスタートです。人生を捧げているなんて偉そうなことじゃなくて、自分がワクワクしてやりたくてやってるだけですよ。そりゃ緊張感もストレスもあるけど、どんどん「夢」を追わせてもらって幸せだと思っている。それは監督として「次はこんなサッカーをやって勝つぞ」とか、「絶対ワールドカップ出ようぜ」とか思っていた時と全然変わらない。僕の同期たちは定年退職して「暇だ」とか言っていますからね、僕は幸せだなと思いますよ。

2020、コロナの時代の先に

インタビューの最後、話はこれからの時代をどう生きるかというテーマへと移っていった。変わりゆく国際関係の中で、中国のクラブで指揮をした岡田が感じること。AI技術の発展とともに生きる現代人にとって大切なもの。そしてインタビューした2月上旬時点、すでに不安が広がり始めていた新型コロナウイルスのパンデミックとその先にある社会。
岡田武史が考えるこれからの時代への提言とは。


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岡田 人間の本質的な幸せって何だろう。今AIスピーカーに問いかけたら、AIが自分の事を自分よりも知っているわけですよね。これから人間はカーナビに従って車を運転するのと同じように、自分の人生をAIに聞いてAIの言うとおり生きるようになるかもしれない。でもそうやって失敗をしない便利さだけじゃないもの、例えば人と人の絆、困難を乗り越えた繋がりは必ず必要だと思うんです。スポーツの力はそういうところにある気がする。だからここ今治がその幸せを提供する拠点になるんだという思いはあります。

 

大越 僕は岡田さんに会うといつも、「スポーツの社会における役割って何でしょうね?」という質問をしています。今、世界で「分断」という言葉が象徴的に言われるようになりました。でも岡田さんはスポーツを起爆剤にして、いろんな社会の壁を突破してつながりを作っていこうとされています。その哲学には、どのようにして行きついたんでしょう。

 

岡田 どうだろうね。哲学っていうほどじゃないんだけど、やっぱり一番根本にあるのは「戦争」だね。僕は戦争を経験してないけど、もし戦争が起きたら悲惨な目に遭うのは自分の子どもたちかもしれない。自分の子供を絶対戦場に行かせたくない。そういう思いがある。僕が中国に行ったのは、国境というボーダーじゃなくてサッカー仲間というボーダーが、何か役に立たないかな、そういう思いで行ったんですよね。確かに中国人は反日教育もあって日本人のことを総体としては嫌いかもしれない。でも個人は別でした。今でも当時のチームの選手たちが結婚式の招待状を送ってくれるし、僕が北京に行ったら何人も集まってくれますからね。スポーツって、こういう国境や壁を簡単に乗り越えられると思うんだよね。

 

大越 もうひとつお聞きしたいのが、新型コロナウイルスの問題です。この出来事ひとつで世の中がものすごく動いています。岡田さんの仕事にも影響していますよね。こういう負のインパクトは変えられるものでしょうか、それとも受け入れざるをえないものでしょうか?

 

岡田 僕はね、「起こる事というのは必要な事なんだ」と思っている。ちょうど新スタジアムのために資金調達をしなきゃいけない今の時期に、コロナで企業の株価がみんな下がってしまった。これは大変な逆風ですよ。でもこれは今の俺に必要なことなんだなと。相当の覚悟がないと「逆風の中でお金なんて集められないぞ」って言われてるんじゃないかってね。同じようなことは過去にもあって、例えば2018年は最終戦の結果でJ3に上がれなかった。これも逆風でした。ところがおかげでみんなが「自分事」と考えたわけですよ。最終戦で昇格できないという悔しさで、「来年は絶対上がるぞ!スポンサー料上げるよ!寄付するよ!」って、今治のみんなの自分事になった。あれはクラブにとって必要なことだったことだと思います。あのままJリーグに上がっていたら、「岡田がまたやってくれるだろう」と思われていたかもしれない。

 

 

岡田 例えば、去年はユニフォームの胸スポンサーが決まらないって大問題になった。そしたら11月くらいかな、今まで「岡田がなんとかするだろう」と思っていた社員が、「このまま岡田に任せといたら会社がやばいぞ」と動きだした。営業じゃないやつまでみんなが提案して、社員がものすごく成長して一致団結していった。僕は起こる事にマイナスの事は無いと思っているからね。今はコロナで厳しいです。でも「よし、この中でどうやろうか!」って、ファイトが湧いてくる。

 

大越 厳しい状況もありますが、今治での取り組みが5年を経て軌道に乗り始めて、岡田さん輝いていますね。

 

岡田 もう、ボロボロになりかけているけどね(笑)。いやぁ、ありがたいですよ。一番は子どもたちにどういう時代を残すか。まずは戦争がない社会、そしてAIだけじゃない幸せをしっかり見つけられる社会を残したい。その思いです。もうそんな長く生きないだろうから早くやっていかないと(笑)!と思っています。

 

大越 いやぁ、とても面白うございました。ありがとうございました。


*****

 

緊急事態宣言が解除され、サッカー界は再び動き出している。J1リーグ戦再開は7月4日、J2の再開とJ3開幕は6月27日に決定した。今治のクラブ事務所では、予定より約4か月遅れのJデビュー戦を前に奮闘するスタッフたちの傍ら、事務所の壁に岡田が大切にしているという言葉が掲げてある。

 

 

次世代のため 
物の豊かさより心の豊かさを
大切にする社会創りに貢献する


岡田武史とFC今治は、この時代の先にある未来のために、「夢」を追いかけ続けている。


(終)

 

この記事を書いた人

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大越 健介 キャスター

昭和60年NHK入局、初任地は岡山局。政治部の記者、NW9キャスターなどを経てサンデースポーツ2020キャスター。
"スポーツをこよなく愛する親父"の代表として自ら楽しみながら伝える。

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