ストーリーラグビー

福岡堅樹の「決断」 ラグビーから、医師の道へと走り出す

2020-06-19 午後 07:50

6月14日、去年のラグビーワールドカップでも活躍した福岡堅樹選手が、7人制ラグビー日本代表候補から外れ、目指していた東京オリンピック出場を断念することを発表しました。かねてから語っていた、医師になるという夢のための決断。

記者会見当日夜のサンデースポーツ2020に福岡選手が生出演し、その真意を語りました。

W杯で輝いたウイングの決断

 

「決断した大きな理由というのは、自分自身の人生というものを後悔しないものにしたいという事。それが自分の中ですごく強いです。」


午後に行われた会見からおよそ7時間。NHKのスタジオで福岡選手はまっすぐ前を向いて語りました。

 

 

去年のラグビーワールドカップ。「ONE TEAM」として日本中を熱狂させた日本代表チームで、福岡選手は躍動しました。決勝トーナメント進出をかけたスコットランド戦で2つのトライを決め勝利に貢献。大会通算4トライをあげ世界を驚かせました。

ことし予定されていた東京オリンピックでは、7人制の代表として初のメダル獲得を目指していた福岡選手。しかし、その目標への道を新型コロナウイルスが大きく狂わせました。大会の1年延期。現在27歳とアスリートとして脂ののっている福岡選手にとって、1年という時間は許容される範囲のようにも思えます。しかし、福岡選手には譲れない人生のプランがありました。

医師の道に進むこと。
かねてから「東京オリンピックをもって選手から引退し、医学部進学を目指す」と語ってきた福岡選手にとって、今回の決断は自分の人生を考えると不可避の決断でした。


「オリンピックの延期が決まった時点で、自分の中で答えは決まっていました。もともと引退のタイミングを決めてやってきた競技人生でしたから、この選択が一番自分にとって受け入れられるものだと思いました。実際にコロナウイルスの影響で延期がささやかれ始めたころからどうするかは考えていて、もちろん悩む時間はありました。そこで考えたのは、自分の夢はラグビーだけで完結するものではないということ。ラグビーと医学、両方を為してこそ自分の夢だといえるものになるので、医学も優先しなければならない。その思いでこの決断に至りました。」

 

 

「1年遅らせるという判断も、もちろんゼロではありませんでした。でも、一度信念として掲げた事を簡単には曲げたくなかった。それに一度引退を遅らせてしまうと、そのタイミングを失いかねないと思ったので、自分の決めたことをやりきりたいなと。」

ふたつの道を追い続ける

選手としての全盛期に、あえて医師の道を目指す。それほどまでに医師に強い思いを持つのはなぜなのか。

 

「自分の育った環境が大きいですね。祖父と父が医師をしていて、幼いながらに医師というものにあこがれを持ってきました。」

福岡選手のラグビー人生は、医師の道とラグビーの道、両方をあきらめることなく追いかけ続けてきた日々でした。

 

高校時代の福岡選手(右から3人目)と森監督(当時)

 

地元福岡の進学校・県立福岡高校では、当時監督だった森重隆さん(現・日本ラグビー協会会長)の指導のもと、中心選手としてチームを引っ張ります。2度も前十字じん帯断裂という大けがに見舞われながら、母校を28年ぶりに全国大会に導きました。医学部を目指し浪人も経験しますが、この時合格はならず。それでも進学した筑波大では1年生からラグビー部の主力として活躍します。

 

 

そのスピードは当時の日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズさんに「ワールドクラス」と評され、2015年のワールドカップ日本代表にも抜てきされました。その後はプロ選手としてトップリーグのパナソニック、日本代表、スーパーラグビーのサンウルヴズでプレーする多忙な日々。そのかたわら、医学部受験のための勉強をやめることはありませんでした。「勉強においても、スポーツにおいても反復が大事」と、体力的に過酷な日々の中でも、わずかな時間の合間を縫って基礎から勉強をやり直したと言います。

 

「正直、最後のワールドカップの期間中は、なかなか勉強に割く時間はとれませんでした。でも普段のトップリーグのトレーニングの日は、午後の練習が終わって帰宅して夜7時ぐらいにはフリーの時間になるので、そこから勉強していましたね。疲れていたらちょっと仮眠を取ってからやったり、自分なりに工夫しました。自分としても『文武両道』はひとつ意識する部分ではありますけど、そこに特別な思いはなくて、自分としてやれる事を当たり前にやっている。それが今の道につながっているのだと思います。」

7人制で得たもの

前回リオ大会で4位に入った7人制ラグビー日本代表のメンバーとして、初のメダル獲得を目指していた東京オリンピックへの挑戦。福岡選手にとって道半ばで終えることになりましたが、7人制を経験したことで、ラグビー人生にとって大きなものを得たと言います。

 

 

「やはり15人制と7人制では競技性が全く違いました。スピーディーな試合展開の中、とにかくボールをつないでつないで、ビッグプレーが生まれる。7人制を経験できたおかげで自分自身プレーの幅も広がりましたし、フィットネスの部分でも苦手だったスプリントを繰り返す力を培う事ができたと思います。チームの人数も少ないので、本当にファミリーのようでしたしね。合宿に初めて参加した時もすぐファミリーに受け入れてくれて、明るい雰囲気で練習できました。僕に『続けてほしい』と言ってくれる選手もいましたけど、チームに残った選手たちそれぞれが本当にすばらしい能力を持った選手たちです。7人制がなかなか注目されていない時もチームをずっとけん引した選手たちがたくさんいるので、来年絶対にメダルを取ってくれると僕は信じています。」

 

会見当日、福岡選手を含めて5人の選手が7人制日本代表のスコッドから外れることが発表されました。福岡選手だけでなく、他の選手にとってもオリンピックが延期された「1年」という時間が大きなものであることをうかがわせる発表。この日、日本ラグビー協会会長の森重隆さんは、NHKの取材に対しコメントを寄せてくれました。

 

森重隆 日本ラグビー協会会長

いずれも本人の意思による離脱と聞いております。代表チームとしてはダメージを受けますが、このような状況下において選手たちも非常に悩んだ末の判断と捉えており、彼らの意思を受け止め、尊重した結果となります。去年のラグビーW杯で活躍した福岡選手について言えば、非常に多くの皆さまに注目いただいていた中での離脱となり、本人も心苦しい思いだったのではないかと想像します。私もファンの皆さんと同様に残念ではありますが、離脱となった5名の選手の今後の挑戦と成長を心から応援したいと思います。

 

高校時代の恩師でもある森会長の言葉に、福岡選手は次のように答えました。

 

 

「本当にずっと、すごく親身になって応援していただいて。協会の会長と選手という立場ですが、それぞれの立場で自分たちで一緒にラグビー界を盛り上げていこうと一緒に頑張ってきたので、自分が五輪のチームから外れてしまうことに心苦しい思いは確かにあります。その決断を、自分の人生を応援してくれる会長のことを、本当に尊敬しています。」

達成感を胸に 医師の道を目指す

多くのファンが驚いた決断。それでも福岡選手自身は、すでに悔いや迷いは立ち切ったようにまっすぐ前を向いて自らの思いを言葉で紡ぎました。去年のワールドカップ。チームの中から目にした日本のファンたちの熱狂が、その背中を押していました。

 

 

「ワールドカップを通して、スポーツのすばらしさを伝えられた。日本中が一丸となって盛り上がるのを見て、僕自身すごく嬉しかった。本当によかったです。“ONE TEAM”って、社会で暮らしていく中で目標にしたり言葉にしたりすることはできても、実現することは難しいものだと思います。スポーツを通して自分たちは少しは体現できたのかなと。あれだけのものを僕たちは日本に残す事ができたんだと、本当に悔いはない、これを目標にやって来てよかったなと思えるすばらしい大会でした。」

 

現在27歳。自国開催のワールドカップでの活躍という最高の経験をしたアスリートは、ラグビー人生にひとつの区切りをつけ、もう一つの夢に挑みます。
「将来、どんな医師になりたいですか」と最後に問うと、福岡選手は答えました。

 

 

「実際にスポーツのトップレベルでやった経験は、絶対に自分の中でのアドバンテージになると思います。それを生かせるような分野で、医師としてスポーツに携わりたいですね。自分は選手として医師の先生たちにお世話になる中で、けがを治すことと同時にいかに精神的に前向きにさせるか、心に寄り添えるかが大事だと学んだので、けがだけでなくて心にも寄り添えるような医師になりたいと思います。」


再出発への決意。だけで終わることなく、ファンにとっては忘れてはいけない大切な事を最後に付け加えてくれました。

 

「今日でラグビー選手引退というタイミングではまだないです。新シーズンがどういう形になるかまだ分かりませんが、少しでも自分の所属チーム、パナソニック・ワイルドナイツの一員としていいパフォーマンスを見せられるように、前向きに準備していこうと思ってます。」

 

ワールドクラスのスピードでトライをゲットする福岡堅樹選手の姿は、トップリーグでまだ見られそうです。その雄姿を目に焼き付ける日を、ファンは心待ちにしていることでしょう。

 


 

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