ストーリーその他のスポーツ

「Number」と写真 伝えるスポーツの力

2020-05-02 午後 05:26

日本初のスポーツ総合誌、「Sports Graphic Number」。

ひとつの競技に特化した専門誌は多数存在しますが、あらゆるジャンルのスポーツを扱う総合誌として歩み続け、ことし創刊40年。号数は1000号を超えました。スポーツをいかに描き、どう味わうか。そのテーマに向かいあい続けてきた、雑誌の歴史を全2回で紐解きます。第2回で注目するのは、紙面を彩った印象的な「写真」。そこには、創刊当時から続くこだわりが受け継がれていました。

表紙は、ボツ写真の中から

「神は細部に宿る」の精神で、独自の取材からアスリートの物語を紡いできた「Number」。もうひとつ、40年間大事にしてきた武器が、それまでのスポーツ報道では見られなかった、印象的な写真です。初代編集長の岡崎満義さんいわく、そのこだわりとは。

 

岡崎満義さん

「その人の本質が一番出ている写真を使いたい。」

 

 

1980年、当時下位に低迷していた巨人の長嶋茂雄監督を特集した第10号。表紙に選んだのは、監督としての長嶋の写真ではなく、あえて選手時代の空振りの写真でした。実はその写真は、スポーツ新聞が一度も掲載せずにボツとなっていたもの。「人間、長嶋茂雄」を象徴する写真は何か。考えぬいた末にあえて採用した写真だったと、岡崎さんは振り返ります。

 

岡崎さん

「体がねじ切れるほどのスイングですよね。(空振りでも)こんなにバットを振れるバッター長嶋はすごいんだ。これがやっぱり、ファンにアピールすることになるんじゃないか。そう考えたんです。」

 

以来40年、「Number」は、この長嶋の写真のようなインパクトを大事にし続けてきました。

カメラマン近藤篤の流儀

 

その写真はどのように生まれているのか。撮影した写真が幾度となく表紙を飾っている近藤篤さんは、26年に渡り「Number」で活躍するカメラマン。サッカー、ラグビーなど世界中のスタジアムを主戦場にスポーツを撮り続けています。サッカー・バルセロナのメッシが見せるドリブル、PK戦勝利の瞬間駆けだすサッカー日本代表イレブン、ラグビー・稲垣啓太のワールドカップでのトライ…。世界が注目する舞台で、その瞬間をいかに写真に収めるか。そのために心掛けていることを語ってくれました。

 

近藤篤さん

「Numberから撮影を依頼されると自分なりに緊張するんですよね。クオリティに見合った写真を、絶対撮って来なきゃいけないわけだし。『頑張ったんですけど撮れませんでした』っていう回答はなくて、(編集者に)見せた時に『はいはい、こういうの探してたんだよね!』と言われるレベルは満たしていなきゃいけない。そういう仕事を依頼されているんだという感覚で、いつも仕事させてもらっています。」

 

近藤さんが担当した表紙の数々

 

近藤さん

「サッカーやラグビーって、人と人が絡んで複雑な動き方をするじゃないですか。だから写真としてすごく美しかったり、迫力があったりすると思うんです。自分のオリジナリティを出そうということはあまり思っていなくて、ただ目の前で起こることに対して自分のベストな状態で反応しながら、自分の撮るタイミングで撮っていくだけだと思うんです。」

 

シャッターを切る一瞬。その1枚には、時に選手やサポーターの怒りや悲しみなどあふれ出てくる感情、情熱も切り取っていると感じると言います。これまで数多くの被写体と向き合ってきた近藤さんがカメラマンとして大切にしていることを聞くと、スタジアムの熱狂の真っただ中で生きるイメージとは一味違う、意外な答えが返ってきました。

 

 

近藤さん

「いつもニコニコ、機嫌よく笑い続けています。たとえどういう状態で朝を迎えても、スタジアムに行ったり選手に会ったりする時は、ポジティブな人間としてその人の前に現れること。これは強く意識しています。そうすると(選手に)『この人だったら大丈夫だな』という安心感みたいなものが生まれる。僕の場合は被写体の人と自分の間に安心感というものが早く生まれることが、極めて大事な事なんです。」

1001号に込めた思い

 

今、新型コロナウイルス感染拡大の影響でスポーツ界全体が止まってしまっています。そんな中、4月16日に発売された「Number」1001号。三浦知良選手の笑顔の写真が表紙を飾るこの1冊には、現在の編集長・宇賀康之さんの強いメッセージが込められています。

特集のタイトルは、日本サッカー界の歴史に残るゴールシーンを振り返る、その名も「日本サッカー 希望の1ゴール」。

 

 

宇賀康之 編集長

「見る者にとっての希望、サッカー選手にとっての希望がゴールにはあふれています。コロナウイルス感染拡大という今の状況ではありますけれども、だからこそ読んでおもしろいものを作りたい。試合が見られないからこそ、読んでサッカーを楽しんでいただく。そういう雑誌を作りたいなと思って、この1001号を作ったんです。」

 

特集を象徴する写真として編集長が選んだのが、三浦選手の笑顔。「男はつらいよ」の寅さんをイメージしたという衣装で撮影に応じたのも、三浦選手からのアイデアでした。

 

 

こんなときだからこそ、前向きにふっきっていかないと。笑顔は大事だよ。ここのところずっとフーテンの寅さんのDVDを見ているんだけど、刺激受けてますよ。

 

 

 

宇賀さん

「笑顔を見せるか、それともすごくシリアスな表情を見せるか。この状況を考えると非常に難しいところだと思うんですけど、(三浦選手が)笑顔を出してくれた事で、我々もこういう時だからこそ明るい雑誌を届けなきゃいけないんだ、という事を強く思いました。」

 

三浦選手の「希望の1ゴール」。そのひとつに選んだのが、東日本大震災の直後に行われたチャリティーマッチでのゴールでした。Jリーグ選抜の一員として日本代表と対戦した三浦選手。震災から再び立ち上がるために、多くの人がゴールを願っていた中でネットを揺らし見せた「カズダンス」は、多くの人に希望を感じさせたのではないでしょうか。

 

 

特集の最後は、こう締めくくられています。

 

リーグ再開を待つ53歳の最高齢プレーヤーは、ウイルス禍が終息する日をにらみながら、新しいゴールへの道を進みゆく。

2020年、カズが放つ「希望のゴール」を、私たちは果たして目にすることができるのだろうか。

スポーツジャーナリズムにできること

長年ノンフィクション作家として活動している後藤正治さん。世界中がウイルスに翻弄される中で、スポーツの役割、そして「Number」のような雑誌が持つ役割とは何か。その問いに次のように答えました。

 

後藤正治さん

「私は子供のころ、名前も知らない野球選手からサインをもらった記憶が忘れられないんです。スポーツにはそういう小さな記憶というか、何か人の心に残る物語を残していく力があると思います。我々が求めているのは情報だけではなく、心にしみこんでくるようなプラスアルファのものだと思うんです。そういう意味で雑誌もテレビも、ジャーナリズムができることはまだまだある。」

 

 

後藤さん

「スポーツの結果だけではなくて、なぜそういう結果が生まれたのか、という疑問や問題意識を持つ読者は多いと思うんです。その疑問にこたえていくものが雑誌なのかなと。いわばひとつの物語、新しい解釈や解析方法を提示する。そういう発掘力が今も強く求められていると思います。『Number』も新しい企画力、斬新な発想で面白い雑誌をこれからも作ってほしいなと思います。」

 

テレビのスポーツジャーナリズムにも大きな影響を与えた「Number」。節目の1000号を超え、ウイルス禍でスポーツが止まる中でも歩みを続けています。NHKのスポーツ報道も、その姿勢に刺激を受けながら、今の時代にスポーツで何を伝えられるか挑戦を続けていきたいと思います。


(終)

 

関連キーワード

関連トピックス

最新トピックス

RANKING人気のトピックス

アクセス数の多いコンテンツをランキング形式でお届け!