ストーリーラグビー

アイルランドのラグビー 対立越える"ONE TEAM" 後編

2019-07-17 午後 05:33

ラグビーワールドカップで日本代表と対戦するアイルランド代表。7月時点での世界ランキング3位の強豪です。
彼らは試合前、国歌ではなく「アイルランズコール」と呼ばれる歌を歌います。独立戦争、宗教の対立、その後も残るテロなど複雑な歴史を経ても「ひとつのチーム」として活動を続けるアイルランド。彼らをつなぐものとは何か、それを探りにサンデースポーツ2020の大越健介キャスターの現地ルポを前後編でお送りします。

 

前編記事はこちら

紛争によって奪われたW杯の夢

「たまに興味があるという人にだけ見せるんですけどね」。

そういいながら、元アイルランド代表のラグビー選手だったナイジェル・カーさんは、「ある事件現場」の写真を見せてくれました。

 

 

それは、とある土曜日の朝のことだったと言います。ナイジェルさんは代表のチームメイトと共に、北アイルランドからアイルランド共和国のダブリンに向かっていました。ワールドカップに向けた練習に参加するためです。国境を越えてすぐのある一本道。そこは何度も爆破テロが起こっていた道でした。そしてその日も。カトリック過激派による爆破テロが起こり、その爆発にナイジェルさんたちの車が巻き込まれました。

ナイジェルさんは肋骨を5本骨折した上、内臓も損傷する大けがを負いました。この怪我が原因で、ナイジェルさんは27歳の若さで現役引退。目標としていたワールドカップ出場を目前に控えた中での事件でした。

ナイジェル・カーさん

「復帰を目指したのですが、不可能でした。ワールドカップに出場できないことは大きな失望でしたね。でも、私は現役時代にいくつか成功を収められました。ワールドカップには出られませんでしたが、今でも続く多くの友人も得られました。失望もありますがそれはやり過ごさなくてはなりません。これが人生です。」

 

 

夢を奪った事件を起こした政治的対立。今でも友人であるというチームメイトの中にも、対立するバックボーンを持つ選手たちがいる。その中で、なぜナイジェルさんは互いに仲間としてみることができたのでしょうか。

ナイジェル・カーさん

「大事なのは“分断させるもの”ではなく、“結びつけるもの”だと思います。政治的、宗教的な背景ではなく、人物そのものやラグビー選手としての能力を私たちは尊重していました。異なる立場でも“互いに敬う気持ち”を私たちは持っていたのです」。

“互いに敬う気持ち”

ナイジェルさんが語った、“互いに敬う”こと。この言葉は、今もアイルランドのラガーマンたちに受け継がれ続けています。そのことを裏付ける場所がありました。現代表のキャプテン、ロリー・ベスト選手を輩出した名門ラグビークラブ。そのグラウンドに置かれた部訓には…。

 

 

・RESPECT-THE REFEREE(審判を敬う)
・RESPECT-YOUR OPPONENT(対戦相手を敬う)
・RESPECT-VISITING SUPPORTERS(相手サポーターを敬う)
・RESPECT-YOUR CLUB CODE OF CONDUCT(クラブの規律を敬う)

 

そのすべてに「相手を敬う」精神が掲げられています。クラブでプレーする少年たちは、「互いを敬うことのできるチームの方が強い」、「試合後には相手選手をたたえるべき」、「相手をリスペクトするから、相手も自分をリスペクトしてくれる」と口々にその精神の大切さを語ってくれました。

「悲しい流血の歴史。でも攻めてラグビーだけは大事な価値を共有できる聖域であってほしい。」

それがアイルランド代表が“ワン・チーム”であり続けられた理由なのかもしれません。

 

スポーツは分断を取り払う力

爆破テロをきっかけに現役を引退してから30年。ナイジェルさんは今、次世代のスポーツを後押しするNPOで活動しています。グラウンドで肩を寄せ合いスクラムを組みラグビーボールを追う少年たちを眺めながら、ナイジェルさんはスポーツの持つ力についての考えを語ってくれました。

 

ナイジェル・カーさん

「私はスポーツには“分断”を取り払う力があると信じています。この国では過去に様々な問題がありましたが、その多くはすでに過ぎ去りました。北アイルランドとアイルランド共和国の選手の交流が、代表チームの強化、そしてワールドカップ優勝につながることを願っています。」

 

こうした考えは、決してナイジェルさんだけのものではありません。取材最終日、ベルファストのパブを訪れると、アイルランド代表の緑のジャージーを着た市民たちがビールを片手に、テレビに映るラグビーの試合を見ていました。大越キャスターは、あえて直球の質問を彼らに投げかけました。
「きわどい質問かもしれませんが…、あなたはプロテスタントですか?カトリックですか?」

一緒にビールを飲んでいた二人の男性は、「確かにきわどい質問ですね…。」と言いながらもひとりはカトリック系、一人はプロテスタント系だと答えました。しかし共にビールを飲みながらラグビーを見て、アイルランド代表チームを応援するといいます。

 


「若いときから一緒にスポーツをしてきたんだ。たくさんスポーツしてきたけど、宗教なんて気にしたことはないよ。」

そして、ラグビーの試合開始直前。パブの人たちはテレビの向こうの選手たちと声を合わせ、「アイルランズ・コール」を歌い始めたのでした。

アイルランド アイルランド

共に高く立ち上がろう

肩を寄せ合って

アイルランドの叫びを歌おう

 

 

(終)

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大越 健介 キャスター

昭和60年NHK入局、初任地は岡山局。政治部の記者、NW9キャスターなどを経てサンデースポーツ2020キャスター。
"スポーツをこよなく愛する親父"の代表として自ら楽しみながら伝える。

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