特集 FIFAワールドカップ2022 究極のワンプレーを探せ! サッカーの園

サッカーの“究極のワンプレー”に秘められた極意を探っていく番組「サッカーの園」(BS1で放送)。
元日本代表の前園真聖さん、アンタッチャブルの柴田英嗣さんをMCに毎回さまざまなゲストを迎え、超一流が生んだ究極のワンプレーとその神髄に迫ります。
今回のテーマはFIFAワールドカップ2022。いずれも元日本代表の佐藤寿人さん、中村憲剛さん、中澤佑二さんなどとワールドカップで生まれた究極のワンプレーにとことん迫ります!
(この記事は番組の内容を再構成しました)
究極のスルーパスは 日本にゆかりのある選手!
まずは中村憲剛さんから。中村さんが現役時代にこだわってきたのがスルーパスでした。
アルゼンチンのベロンが見せるピッチを切り裂くキラーパス。イタリアのピルロは精密機械のようなパスをノールックで出しました。ワールドカップはまさに芸術的なパスの品評会。中村さんがほれ込んだのはスルーパスの宝庫ともいえるスペインでした。2010年の南アフリカ大会でスペインはワールドカップ初優勝。大会で見せた華麗なパスサッカーはティキタカと呼ばれ、世界のトレンドになりました。このパスサッカーについて語ったのは元スペイン代表のビジャさん。南アフリカ大会では5得点を決めて得点王に輝きました。
インタビューを受ける元スペイン代表のビジャさん
ビジャさん
僕たちの強みはボールを支配すること。なかでも重要だったのはシャビとイニエスタだね。この2人は長いサッカー史において最高レベルの技術を持っているよ。2人とも共通するのは狭いスペースを見つけ正確にパスを出すこと。あえて言うなら、シャビは長距離、イニエスタはフォワードの近くで驚くようなパスを出す。
南アフリカ大会でプレーするシャビ(左)とイニエスタ(2010年)
ビジャさんとイニエスタは出会いから20年。クラブではバルセロナとヴィッセル神戸でともにプレーしました。長い間いちばん近くで見てきたからこそ、ビジャさんはそのすごさを実感しています。
ビジャさん
イニエスタのすごさは類いまれなボールコントロールとスペースを見つける視野の広さだね。こっちを見ていなくてもいきなりパスが出てくる。だから僕らフォワードは一切、気が抜けないんだよ。ディフェンスを無効化するあのスルーパスは絶品さ。
ピッチを俯瞰(ふかん)する広い視野でスペースを見つけ1本のパスでしとめる。時にはドリブルでマークを引き寄せて味方をフリーに。変幻自在のスルーパスを繰り出すイニエスタにビジャさんはどんな要求をしていたのでしょうか?
ビジャさん
そういう会話はほとんどしないよ。イニエスタは僕の動き出しを把握してるし僕は動けばパスが出てくるのを確信している。僕たちは完璧にわかり合っているからね。
イニエスタの究極のスルーパス。ビジャさんと中村さんは同じプレーを選びました。南アフリカ大会パラグアイ戦でのこのプレー。
南アフリカ大会準々決勝のパラグアイ戦(2010年)
ビジャさん
イニエスタ、セスク、シャビ、もう1度イニエスタ。ドリブルしてペドロ・ロドリゲスへパス。最後は僕。全員が連係したスペインサッカーの象徴のようなプレーだね。
ビジャさん(中央)の決勝ゴールに喜ぶイニエスタとセスク(2010年)
中村さん
あのパスだけを切り取るとそうでもないじゃないですか。その前ですよね。パスコースからあとはドリブルで割って入って、2人ポンポンってかわすんですよ。3人ぎゅっとイニエスタに集まってペドロ。で、中澤さんとも話していたんですけど相手はパラグアイだったんですよ。パラグアイは守備が堅いじゃないですか。その守備網をほぼ1人で2人かわして3人集め、で、ペドロにもう決めていいよっていうパス。もうこれ以上ないです。イニエスタ1人でパラグアイの守備を破壊しているわけです。思いやりにあふれたパスと言いたいですね。早すぎず、けどちゃんと味方の選手がコントロールしてすぐ打てるところにボールが来るんですよ。だからすごいメッセージがついてるパスだなっていうふうにいつも見ていて思いました。
そんなイニエスタの後継者と言われているのがペドリ。カタール大会で中村さんが注目する20歳です。
スペイン代表のペドリ
ポジショニングやドリブルしながらいつ見ているのかというパスを出すところが似ていると言います。
究極のボレーシュートは究極の胸トラップから
佐藤寿人さんは究極のワンプレーでボレーシュートを選びました。
佐藤さんの代名詞といえばループボレー。かつてFIFA年間最優秀ゴール候補に選ばれたゴールを決めました。その佐藤さんが取り上げたのは2014年ブラジル大会でコロンビアのハメス・ロドリゲスが見せた大会最優秀ゴールに選ばれた反転ボレー。
ブラジル大会ウルグアイ戦 コロンビアのハメス・ロドリゲスのボレーシュート(2014年)
佐藤さん
最後のボレーのところのミートもそうなんですけど、それ以上にすごいと思ったのは胸のコントロールのところです。コントロールしてから上半身が動かない。体の軸があってあそこまでの振り抜きと一連がもう芸術だったなと。あと若干、左アウトサイドにかかってゴールキーパーから逃げていく軌道も。この大会で印象的な1つのシーンだったと思いますね。
カタール大会でボレーシューターの注目選手について、佐藤さんはイングランドのキャプテンのケインをあげました。ワールドカップ予選ではアクロバティックな形でボレーシュートを決めました。
ワールドカップ予選のアルバニア戦 ケインが決めたボレーシュート(2021年11月)
佐藤さん
懐と言われるその空間を足の方を動かしながら最終的に作れてしまうんで、それも頭だとバウンドさせるってことはできないじゃないですか。ボレーだと意図的にボールを弾ませるっていう選択肢ができるので、そういったところはより時間と空間を作れるっていう感じですね。
ミドルシュートの極意とは?
こんどはゴール数がJリーグナンバーワンの大久保嘉人さんにとって究極のミドルシュートとは?
大久保さんがスペインでプレーしていた時に衝撃を受けた世界屈指のストライカーがいます。2010年の南アフリカ大会で得点王に輝いたウルグアイのフォルラン。ワールドカップ通算6ゴールのうち半分がミドルシュートでした。2014年にはセレッソ大阪に入団。世界レベルのプレーでファンを魅了しました。大久保さんが選んだ究極のミドルシュートは南アフリカ大会オランダとの準決勝で生まれました。
南アフリカ大会準決勝 ミドルシュートを狙うフォルラン(2010年)
大久保さん
両足で同じようにシュートを打てるのはまれだと思います。本当にフォルランは右でも左でも同じぐらい蹴れるので。守る立場からすれば難しいのかなと思います。宮本武蔵みたいなね、二刀流。かっこいいですよ。おもしろいと思います、サッカーやっていて。
そのすごさを間近で体感していたのが元セレッソ大阪のゴールキーパー武田博行さんです。
武田さん
右足でキックフェイントしてというのは結構やっていましたね。切り返すと分かっていても、ちょっと引っ掛かってしまうというのがシュート打ってくるやろっていう印象を植え付けているんで。だからこそ引っ掛かるというか。
究極のフリーキックは俺で
前園さんの高校の後輩にあたる遠藤保仁選手。遠藤選手と言えばフリーキック!ワールドカップでも忘れられない一撃がありました。
遠藤選手
スピード、コース、高さも含めてすばらしいゴールだったなと思います。
2010年に行われた南アフリカ大会デンマーク戦の前半30分。この場面で決めたフリーキックは標高1500mというピッチの状況を計算に入れたものでした。
南アフリカ大会デンマーク戦 フリーキックを蹴る遠藤選手(2010年)
遠藤選手
まず標高が高いとボールが上に飛んでいっちゃいます。僕も前日練習でかなり手こずっていたので。練習の時はこういう蹴り方をしたら上に行くなとか、こういう蹴り方をしたら壁に当たっちゃうなという当たりどころを確認していました。
そして蹴る直前、ボールの前に立ったのはこの試合フリーキックを決めている本田圭佑選手。ここでも遠藤選手の計算がありました。
遠藤選手
キーパーも多分、本田が蹴ると思っていたでしょうし、本田が助走にバックステップ踏む前ぐらいのタイミングで壁を見て、一番端の壁の選手の横ぐらいを通ればチャンスだなと思いました。「俺蹴るわ」って最後に言ったのは間違いないと思います。
その遠藤選手が選んだ究極のフリーキックは1990年のイタリア大会でユーゴスラビアのストイコビッチが決めたフリーキックでした。
イタリア大会のストイコビッチ(1990年)
遠藤選手
小さいころ、カーブをかけるのも憧れていたので。これちょうど真後ろからの映像もあったので、うわーすげえ、かっこいいって思って見ていましたよね。
フリーキックの名手・遠藤選手をうならせたピクシーの一撃、これぞまさに究極と思いきや…
遠藤選手
自分でいいんじゃないんですかね。ピクシーも僕の中では1位ですけど、番組の中では俺が1位でお願いします。
この試合を日本代表のベンチで見ていた中村さん。遠藤選手がフリーキックを蹴れば、ゴールが決まるという確信がありました。
中村さんは「ヤットさんが蹴ったら絶対入る」とベンチで見守った
中村さん
圭佑が先に1点決めたじゃないですか。2人が立った時に「ヤットさんが蹴ったら絶対入る」って思ったんですよ。何でかっていうと、圭佑が先に決めているからもう1本決めてくるとたぶんキーパーは読むわけですよ。で、壁を見た時に思いっきりこっち(片方のゴール隅)が空いていたんです。圭佑用にキーパーちょっと寄っていたので、ヤットさんが蹴ってくれってベンチで思ったんですよ。蹴った瞬間に入ったと思いました。
最強ストライカーは誰だ?
ワールドカップを彩ってきた数々のストライカーたち。ドイツのクリンスマンに初出場の日本に立ちはだかったアルゼンチンのバティストゥータ。冷静沈着なオランダのベルカンプ。並み居るストライカーの中でひときわ輝きを放ったのがブラジルの怪物ロナウド。
日韓大会決勝でゴールを決めたロナウド(2002年)
ロナウドはワールドカップで通算15ゴール。2002年の日韓大会では8得点を決めて大会の得点王。そしてブラジルを史上最多となる5回目の優勝に導きました。
エジミウソンさん(ブラジル代表で当時チームメート)
ロナウドはスピードとパワーを兼ね備えていてドリブルもうまい。しかも相手の動きを読んでボールを受ける賢さがあるんだ。まさに怪物だよ。ロナウド相手に難しいのは2つ。1つは自由なスペースを一瞬でも与えたら確実にしとめられてしまう。もう1つはボールの到達地点を読む空間認知能力と予測の速さ。フィニッシュパターンが多いから、ロナウドはパサーの選択肢を増やすんだよ。
ロナウドについて語る元ブラジル代表のエジミウソンさん
ストライカーとして異次元の才能を肌で感じたのが中澤さん。2006年ドイツ大会の日本対ブラジル。前半にヘディングで1点を奪われ後半に衝撃の一撃が。トラップから反転し素早いモーションで強烈なミドルシュートを決められました。エジミウソンさんは日本のディフェンスの甘さを指摘した上で、ロナウドにとって十分なスペースを与えボールを持って前を向かせた時点で勝負があったと指摘しました。
ドイツ大会日本戦 ブラジルの4点目を決めるロナウド(2006年)
中澤さん
Jリーグだとあそこでパスを選択するんですね。世界になってくるとシュートを打ってくる。ここで初めて世界のストライカーはこのスペースでもシュートを打ってくるんだなっていうのを痛感しました。明らかに寄せが甘かったというのが映像で見てわかるんですけど実際に対峙(たいじ)するとね、全然。詰めていたという感覚だったんですね。
まさに最強ストライカーのロナウド。隙があったとすれば2002年の日韓大会で見せた奇抜な髪形でしょうか?
エジミウソンさん
これはダサすぎるよね。チームメートみんな衝撃だったよ。実はジダが持っていたバリカンでやってもらったんだ。ロナウドは足をけがしていたから、マスコミの注目をそらすため自分の意思でやったけど、それにしてもダサいよね。
今回のカタール大会で世界を驚かせる怪物候補に佐藤さんはフランスのエムバペをあげます。
フランス代表のエムバペ
佐藤さん
フィジカル、スピード、テクニック。自分が決めなくても味方を決めさせる。守備側からすると中澤さん、どうやって守りますか?
中澤さん
1人じゃ守れないので、複数でいくしかないですよね。スピードを止める人と寄せる人とパスコースとかのカバーに入る、4人ぐらい必要かもしれないです。純粋な1対1だったら勝てない、スペースを与えてしまうと。いろんな役割を持った人が寄せないと止めることは無理かなと思いますね。
ゴールキーパーのスーパースターはイノシシ?
2002年日韓大会の顔だったと言えるのがドイツ代表キャプテンでゴールキーパーのカーン。大会でスーパーセーブを連発し枠内シュートのセーブ率は驚異の93パーセントに達しました。チームを準優勝へと導きゴールキーパーとして史上初の大会MVPを受賞しました。
日韓大会決勝でブラジル代表と対戦したカーン(2002年)
国民的ヒーローとなったカーン。地元ミュンヘンの高速道路には巨大なアーチが作られました。現在は強豪のバイエルンミュンヘンCEOとなりドイツサッカーの中枢を担っています。しかし現役時代のカーンには荒々しい一面もありました。ピッチ上での驚くべき姿を教えてくれたのは日韓大会でチームメートだったラメロウさん。
元ドイツ代表のラメロウさんが語るカーンの性格とは・・・
ラメロウさん
あんなクレイジーなキーパーはいないよ。あの頃のカーンはまるで怒り狂うイノシシだ。僕の仲間がカーンともめたんだ。すると首根っこをつかんで引きずり回したんだよ。サッカーの試合でそんな場面を見たことがないだろ。カーンのいる試合は違う。これが日常茶飯事なんだ。ただカーンのプレーは不思議とチームに勇気を与えるんだ。最後尾から背中を押される感覚があるんだよ。
カーンの盟友ラメロウさんが選ぶ究極のワンプレーは2002年の日韓大会、開催国韓国との準決勝です。決勝トーナメントでイタリア、スペインを撃破し勢いに乗る韓国。6万5000人がスタジアムをチームカラーの赤に染め、完全アウェーの雰囲気になりました。そうした中でカーンは試合立ち上がりのミドルシュートを右手一本ではじきました。
日韓大会韓国戦 カーンはミドルシュートをはじいてゴールを守った(2002年)
ラメロウさん
もはや芸術と呼べるプレーだった。韓国の選手がシュートを打った時、僕を含めて3人がカーンの前にいて、目隠しになっていただろう。防ぐのはかなり難しいシュートだったはずだ。だがカーンは野生的な反応でシュートをはじいた。持ち味を最大限に生かしたセーブだ。カーンはどんな場面でも油断しない。その集中力がチームに伝わっていくんだ。
迎えたブラジルとの決勝。カーンは試合中の接触で右手薬指のじん帯を損傷してしまいました。そして後半22分のシュートを痛恨のキャッチミス。優勝を逃したカーンはけがを言い訳にすることはありませんでした。
ブラジルに敗れ、ゴールポストに寄り掛かりぼうぜんとするカーン(2002年)
ラメロウさん
サッカーは時に残酷なスポーツだと思う。この大会を含め何度もそう思わされた。だけど結果と向き合うことの大切さをカーンに学んだんだ。これも人生の一部なんだとね。
あれから20年。カーンは日韓大会の決勝をこう振り返りました。
日韓大会決勝について振り返るカーンさん
カーンさん
あの決勝でのミスは大会を通じて唯一のミスだった。あの時はなぜゴールキーパーなんかになったんだと自問自答したよ。だがゴールキーパーというポジションはヒーローになるか負け犬になるかのどちらかだ。そのプレッシャーと戦うことがゴールキーパーならではの魅力なんだ。