特集 錦富士 地道なけいこを積み重ね優勝争いへ 大相撲九州場所

「力強さが出てきた。優勝争いに絡んでくるのではないか」
序盤戦だった5日目に日本相撲協会の八角理事長が優勝候補の1人として名前を挙げたのがまだ幕内3場所目、26歳の錦富士だった。
理事長の見立てどおり10日目で早くも勝ち越しを決め、トップの豊昇龍と王鵬を星の差1つで追いかけている。
錦富士
勝ち越しを決めて上位と組まれていくと思う。思い切りのいい相撲を取っていけたらいい。勝てるだけ勝ちたい。
意欲的なことばの裏には先場所の悔しさがある。
11日目まで2敗で走り優勝争いに絡んだが、終盤戦で優勝した玉鷲や大関・貴景勝などに3連敗。
上位陣に跳ね返されて実力不足を痛感した。
強い相手に勝つためには稽古しかない。
今場所に向けて所属する伊勢ヶ濱部屋の関取との申し合いをさらに10番ほど増やし、連日40番から50番の稽古を積んできた。
今場所前に同じ伊勢ヶ浜部屋の熱海富士(右)と稽古を行う錦富士(左)
しかも相撲を取る前にてっぽうや腕立て伏せをそれぞれ500回行い、肩が上がらない状態になるまで体をいじめてから稽古場の土俵に入っている。
錦富士
下馬評を覆すことが1回もできなかったのですごく悔しかった。チャンスはそう何回も訪れるものではないし、自分で引き寄せないといけないものだと思う。そういう相手とこれからどんどん当たるので勝ちきることを目標にしていきたい。
地道な稽古に加えジムにも精力的に通って筋肉をつけ体もできてきた。
体重は6年前の初土俵の時と比べて20キロ近く増え150キロを超えた。
錦富士
やってきたことが全部、今のタイミングでいい方向に行っている感じ。上位に行ったら相手も研究してくるし。いかに自分の相撲を取らせないかということをやってくる。その中で大事なのは圧力や体重になってくるので少しずつ増やしたいと思っている。
自己最高位の前頭5枚目で迎えた今場所は得意の四つだけにこだわらず、威力のある突き押しでも白星を重ねてきた。
9日目は1敗で前を走る阿炎との対戦。
十両時代に2回、顔が合った時は一度も勝てなかったが、強烈な突きに耐えて右にかわし相手の体勢が崩れたところを突き落とした。
九州場所9日目 突き落としで阿炎に勝利
さらに10日目は幕内最重量、体重212キロの逸ノ城との初顔合わせの一番。
約60キロも重い相手に対して、当たり負けないこととしっかり足を出すことを意識。
立ち合いで強くぶつかると終始前に出て押し出し勝ち越しを決めた。
九州場所10日目 逸ノ城を押し出しで破った
星を重ねるごとに稽古で培った力を実感し自信に変えている。
錦富士
毎日自信は少しずつ、ついている。自信は持ちつつも浮かれることなく、1日一番しっかり集中して勝てたらいいと思う。
九州場所もいよいよ終盤戦。
上位との対戦が組まれることが予想される中、錦富士には1場所15日制が定着した昭和24年以降では2人目となる新入幕から3場所連続のふた桁勝利という快挙もかかる。
先場所、上位陣に感じた壁を打ち壊すことができるのか。
錦富士にとって力試しの5日間になる。
九州場所2日目 竜電を突き出した
この記事を書いた人

足立 隆門 記者
平成25年NHK入局。甲府局、山形局から地元の大阪局を経て、スポーツニュース部。30代半ばにして初の東京暮らし。