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特集 剣道 安藤翔 悲願の日本一に向けて 飽くなき挑戦は続く

その他のスポーツ 2022年11月17日(木) 午後8:50

剣道日本一を決める全日本選手権。

東京代表の安藤翔は10回目となる節目の出場で初めて決勝の舞台に進んだが、悲願の日本一にあと一歩届かなかった。

それでも32歳の剣士は「自分の限界を決めてしまうと今後の成長はない」と飽くなき向上心で剣の道を歩む。

警察官を辞め教員への転身 自身の剣道を追い求めて

「面を打つときは打突と同じタイミングで発声をしましょう」

 

大学の道場で学生たちを指導する安藤選手(左)

大学の道場で未経験の学生たちに優しく剣道を教える1人の剣士。

この春北海道警を辞めて母校の国士舘大学の教員となった安藤翔だ。

警察官から教員へと転身を遂げた安藤は自身の剣道を追い求めて母校に帰ってきた。

大学では日中は教員として授業をし朝晩の部活では学生とともに猛稽古。

全国から集まった学生剣士たちとほぼ同じ稽古内容で汗を流す。

 

安藤選手

体力面では学生には勝てない。きつい稽古の時に逃げ出したくなる部分もあるが、学生が本当に頑張っている姿を見るとやっぱり私も頑張らないといけないなと鼓舞されることが多い。

数々のタイトル あとは日本一だけ…

北海道上砂川町出身の安藤。

3歳から剣道を始め小学校、中学校、そして高校と地元・北海道で稽古に励み、幼少期から全国大会で成績を残して名をとどろかせた。

大学は東京の強豪、国士舘大学に進学し全国の猛者とともに鍛錬を続け、4年の時には個人と団体で学生チャンピオンに輝いた。

 

国士舘大学時代には学生チャンピオンに輝いた

その後、北海道警に進んで再び地元で稽古に励み、2017年には警察官の全国大会で優勝。

2018年には韓国で開かれた世界選手権の個人戦で優勝、団体戦では連覇を遂げた日本の大将としてチームをけん引した。

真摯に稽古に励みそれを裏付ける確かな実力を示した。

しかし剣道日本一を決める全日本選手権ではその実力をいまだ発揮できずにいた。

2012年に初出場して以来去年まで9回出場して1回戦負けが4回。

決勝にはまだ進めていなかった。

 

去年の全日本選手権は1回戦で敗退(2021年11月)

安藤選手

全日本選手権は夢のまた夢。ことしで10回目になるがもう少し早く取れているだろうなとは若い時には思っていた。なかなかうまくいかない。小さいころから全日本優勝というのは夢だがこれまでなかなか自分の剣道ができていない。

”攻めて勝つ” それが剣道のだいご味だ

「あとは全日本」という思いが強すぎるあまり自分の剣道を見失っていたという安藤。

結果が求められた警察官時代、技術的な点ばかりを気にして試合に勝つためだけの剣道になっていた。

しかし教員として母校に戻り環境が変わったことを機にもう一度自らの剣道を見つめ直す。

学生とともに徹底的に基本稽古に励み、自身が理想とする“攻めて勝つ”剣道に磨きをかけていった。

 

安藤選手

試合重視、結果重視の警察から教員になって結果だけではなく剣道スタイルというか周りに感動を与えるような正しく強い剣道をしたいと思うようになった。ここ最近は引いて自分が技を出すというのがすごく多かったが、やっぱり剣道のだいご味というのは攻めて勝つことだと思う。基本を徹底していくことで自信を持って強い気持ちを持って攻めて相手に向かうことができている。結果だけではなくて自分の剣道を貫きたい。

順調な立ち上がりから決勝に進むも

確かな自信を胸に激戦の東京予選を勝ち上がって全日本選手権出場を決めた安藤。

10回目の出場は出場選手の中で最多となった。

迎えた11月3日。

会場の日本武道館には国士舘大学の学生が応援に駆けつけた。

1回戦、岐阜代表の選手を相手に落ち着いた試合運びで「二本勝ち」。

2回戦も「二本勝ち」。

その後も順調な立ち上がりを見せた。

攻めて勝つ剣道を貫いて初めて進んだ決勝の舞台。

相手は愛媛代表の30歳、村上哲彦選手。

大会での対戦は初めてだ。

ともに初優勝をかけた一戦が始まった。

先に攻めたのは安藤。

相手の手元がわずかに上がった隙を見逃さず小手を打ちに出たが一本にはならなかった。

逆に開始1分20秒すぎに思い切って飛び込んできた相手に「面」を打たれた。

 

決勝で村上選手(左)に面を決められる安藤選手(2022年11月3日)

反撃の機会を伺うも開始からまもなく4分の場面で再び「面」を決められた。

「二本負け」。

悲願の日本一にはあと一歩届かなかった。

試合のあと安藤は悔しさをにじませながら振り絞るように思いを話した。

安藤選手

優勝しか目指していなかったので悔しい。激戦の東京を勝ち抜いて数少ないチャンスだと思っていたが改めて難しさを感じた。欲が出てしまったのかな。

飽くなき挑戦は続く

負けたあと安藤は再び道場にいた。

大学でいつもと同じように竹刀を振っていた。

大学時代の恩師からのことば、“素直な心”を意味する「直心」(じきしん)を胸に稽古に励む。

どんなにつらいことがあっても逃げ出したくなっても素直な心で正直に、まっすぐに、自分と向き合うことを大切に。

ことしもつかみかけた夢を逃してしまったが、悔しさを糧にさらに強くなると誓う。

安藤選手

剣道は自分を成長させてくれるもの。気持ちひとつで結果も変わる競技だと思うしそういった部分で年を重ねてもまだ強くなれる競技だと思う。自分の限界を決めてしまうとなかなか今後の成長は無いと思う。今後もどんどん自分の剣道を精進させていきたい。

 


【取材後記】

決勝を終えた安藤選手に取材を始めると最初に出てきたのは「ごめん」ということばでした。

自らの目標はもちろん家族や学生をはじめ、周りの人たちの期待に応えようと必死に戦っていたのだと感じました。

そしてひと通り取材を終えて最後にこう話しました。

 

「負けたときこそ、稽古が大事。あしたからも稽古する」

 

飽くなき挑戦を続ける剣士はさらなる精進を続けどう成長を遂げるのか。

悲願の日本一までの道のりを今後も見届けたいと思います。

この記事を書いた人

持井 俊哉 記者

持井 俊哉 記者

平成26年NHK入局

北九州局を経て、スポーツニュース部。小1から剣道をはじめ、現在、5段。「打って反省、打たれて感謝」をモットーに何事にも謙虚に誠実にチャレンジすることを目指す。

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