ストーリーパラスポーツ

"音で戦う"ブラインドサッカーの選手の能力とは?

2018-09-12 午後 01:01

ブラインドサッカーは東京パラリンピックの正式種目のひとつ。選手たちはアイマスクをつけ、音だけを頼りにサッカーをします。

 

NHK BS1の番組「スポーツイノベーション」ではそんなブラインドサッカーをAR(拡張現実)を使って紐解くとともに、選手達の優れた能力を分析しました。

音だけで戦うブラインドサッカー

 

まずは、ブラインドサッカーの基本ルールについてご紹介しましょう。

 

ブラインドサッカーはキーパーを含め5対5で戦うサッカーです。
キーパー以外の4人は、視覚障害の差がなくなるよう、アイマスクをした状態でプレーします。

キーパーは目の見える選手で、守備の指示を出す役割がありますが、ゴールの後ろにはもう1人攻撃側の指示を出すコーラーと呼ばれる人がいるのも特徴です。

 

ピッチのサイズはサッカーの約9分の1で、コートの脇には1メートルほどの高さの壁があり、ボールがサイドから出ることがないため壁沿いの攻防も繰り広げられます。

 

そして最大の特徴は、ボールに特殊な鈴が入っていること。目が見えない選手たちが試合中頼りにできるのは、ボールが動くときに鳴る鈴の音と、コーラー・キーパーの声、ボールを持つ相手に向かう選手たちが居場所を知らせるために発する「ボイ」という言葉などの“音”のみ。

この音だけの世界で、選手は戦っているのです。

“音カメラ”で音を見る!

 

選手が音のみでどのように戦っているのかを知るために今回使ったのが、音をとらえるこの特殊な「音カメラ」です。

 

 

小型カメラの上に風防があり、この風防の中にある5つの特殊なマイクで、音の方向や距離を記録します。
そもそもはトンネル工事の際に壁の強度を音で検査するために作られたものです。

 

 

音が鳴ると、このように円で音の大きさや位置を示してくれます。そうすることによって「音を目で見る」ことができるのです。

 

この音カメラを使って、今回ブラインドサッカーのすべての音を“可視化”することにチャレンジしました。

ブラインドサッカーで“見えた”さまざまな音

 

さっそく音カメラを使ってブラインドサッカーを撮影してみると、さまざまな色の丸が現れました。これらは何を示すのでしょうか?

 

 

まず、赤い丸が示すのは、ボールが発する鈴の音です。

 

 

そして最も多く見られる緑の丸は、選手がぶつかることを避けるためにディフェンス側の選手が発する「ボイ」という声でした。

 

さらに分析すると、ブラインドサッカーでは10種類以上の音が発せられていることが分かったのです。

 

 

味方選手や相手選手の足音に、キーパーや監督、コーラーの指示の声、そして審判の発する音や、壁にぶつかるボールや選手の音、ゴールが決まった後に起こる観客たちの歓声など…。

これらの音を聞き分けて選手たちはプレーしています。

音で状況を判断し、シュートを決めろ!

ブラインドサッカーにおいて、音を聞き分けずしてシュートを決めることは不可能です。

 

実際にシュートシーンの映像をご覧ください。

 

 

選手たちは音を聞き分けることで、見えているかのように正確なシュートを放ちます。

 

 

この画像は、先ほどのシュートシーンを音カメラでとらえたもの。
右側で攻撃側の選手が守備側の選手に取り囲まれている状態です。攻撃側の選手はディフェンダーが発する「ボイ」の声で取り囲まれているのを知り、ディフェンダーの選手に背を向けボールを奪われないようにしていました。

 

その時、相手キーパーの「左に行け!」という声が聞こえました。

 

攻撃側の選手はこの一声により、ピッチ左側に敵がいないこと、キーパーも右側にいてゴール左が空いていると考えました。そして、ゴール左端を狙ってシュート!みごとゴールを決めることができたのです。

ブラインドサッカーをARで再現!

このシーンを選手がどう聞き、感じていたのか、番組ではARで再現しました。

 

 

選手の足もとには、ボールの音を示す赤。そして3人のディフェンダーの「ボイ」という声が、緑色で示され、迫ってきます。

 

 

その時に、ゴール方向からキーパーの「左に行け!」というディフェンダーへの指示。水色で示されたその声を、試合中の雑音の中から聞き取り、選手から見て右が空いていることを判断しシュートを放ちます。

 

これがすべて試合中の音だと思うと、その音を聞き分け、位置を把握するのはとても困難なことだというのが分かりますよね。

音の戦略を駆使せよ。あえて「無音」を作り出す

 

さらに他のシーンを音カメラのデータを見ると、ボールの周辺にも関わらず、音を示す丸がみられなくなる場面がありました。一体なぜでしょうか?

実際の試合の様子を確認してみると…

 

 

この時、選手はパスやドリブルではなく、一旦静止させたボールをそのまま蹴り上げていたのです。

ボールを浮かせることで鈴の音が止まり、ボールの位置が把握できないディフェンダーの動きも一瞬止まります。その隙にシュートチャンスが生まれたのです。

 

音を頼りに攻撃を生み出すブラインドサッカーで、あえて音を消すという戦略が使われていたことが、音カメラで明らかになりました。

脳の研究で分かった優れた空間認知の秘密

 

選手はどのように音を聞いているのかを、脳の研究から探っていきましょう。

 

ブラインドサッカーの選手の脳を調べてみると、目の見える人に比べて3つの部分が拡大していることが分かりました。

 

1. 音の情報を処理する“聴覚野”
2. 記憶などをつかさどる“海馬“
3. 空間認識能力に関わるとされる“脳梁膨大後部皮質”(のうりょうぼうだいこうぶひしつ)

 

音だけで自分の位置や、変わり続ける状況を把握しなければいけない選手たちは、目の見える人々よりもこの部分に負荷がかかり発達したのだと考えられます。

つまり、ブラインドサッカーを通じて、脳がトレーニングされたのではないかというのです。

 

 

脳梁膨大後部皮質は、脳のなかに周りの景色をイメージさせる機能を持つとされています。

 

このことから研究者は、この部分が発達しているブラインドサッカー選手は、空間の中で自分がどこにいて、場面が変わるとどうなるのかを、まるで見ているかのようにイメージできているのではないかと推測しました。

 

選手たちは音を聞いて脳の中で空間を映像化している可能性がある、ということです。

 

日本代表選手は「空間認知は自然に頭の中でできている」と話します。

ブラインドサッカーで“見えた”さまざまな音

 

ブラインドサッカー日本代表チームは、東京パラリンピックに初出場することが決まっています。今はメダル獲得に向け、高田敏志監督のもと、猛特訓しています。

 

 

監督は手本を見ることができない選手たちに身体で触れて、複雑で繊細な指示を丁寧に送ります。

 

 

そんな日本代表が新たに取り入れた練習は、耳栓を使ったもの。ブラインドサッカー選手の生命線と言える耳をふさぐのです。

 

ふさぐのは、片耳のみ。これにはどのような効果があるのでしょうか。

 

じつは、人間は耳にも、手や足と同じように利き耳があり、左右で聞こえやすさに差があるのです。
選手たちは耳栓で利き耳である聞きやすい方を耳栓でふさぐことで、聞きにくい方の耳を鍛えようとしていました。そうすることでより認知力を高めると高田監督は考えています。耳を鍛えることで「ルーズボール」への対応力が上がる、というのです。

 

ブラインドサッカーでは、試合中にボールの勢いが止まったり、音が弱くなったりすることでボールの位置が分からなくなり、ボールがどちらのチームのものでもない「ルーズボール」がよく発生します。

 

 

相手よりも早く、的確にルーズボールを獲り、自分たちのボールにし攻撃につなげるチームが勝つチームだと信じ、耳を鍛えているのです。

 

東京パラリンピックで、ブラインドサッカー日本代表はメダル獲得を目指します。「見えているのでは?」と疑ってしまうほど、的確で激しい戦いを繰り広げるブラインドサッカーのトップレベルの戦いは見逃せません!



※こちらは、2018年9月12日に公開されたものです。内容は公開時のものとなります。

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