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特集 佐々木元×早川起生 人気急上昇!BMXフラットランドの2大ライダーに迫る

アーバンスポーツ 2022年7月28日(木) 午後7:10

”自転車のフィギュアスケート”と称されるBMX「フラットランド」。選手たちは平らなアスファルトなどで回転したり、バランスをとったりして技を繰り広げて演技し、その難度や独創性を競います。この競技の第一人者として活躍するのが、4月のXGAMESで3位だった37歳の佐々木元と、XGAMESと5月の世界大会を連続で制し、勢いに乗る20歳の早川起生の2人です。6月のジャパンカップではその二人が直接対決。世界大会さながらのハイレベルな熱戦を、僅差で早川が制しました。過去16回ジャパンカップを制してフラットランド界をけん引してきた佐々木と、次世代の若手エース早川は、いまどのような思いでフラットランドに臨んでいるのか、それぞれにインタビューしました。

早川選手・佐々木選手のインタビューや、2人が争ったジャパンカップの模様は、「アーバンスポーツFans」で放送します。ぜひご覧ください。

BS1 7月31日(日)16時00分~16時49分

※再放送 8月4日(木)前0時50分~1時39分(水曜深夜)

連戦連勝!20歳の新星・早川起生

―早川選手が技をやるうえで、もっともこだわっているところはどこですか?

 

早川

ぼくがこだわっているのがいわゆる「オリジナリティ」っていうところなんですけど、誰もやっていなかったりとか、想像できない動きっていうのにこだわって練習しています。BMXをやっている上で1番こだわっているところかなと思います。「これはやってみたらどれくらい評価されるんだろう」とか。難度だけみるとそれは、ジャッジの人が判断するところだと思うんですけど、そこよりかは、誰もできなかったりする動きとかにこだわっています。

 

―そこにワクワク感を感じているのですか?

 

早川

その大会のために持っていっている技だったりとか、大会で出したことがない技だったりとか。練習場で何回決めても大会で出す、大会の限られた制限時間で出すっていうのは全然違う感覚です。そこで自分が出せるのか、その時間内にできるかっていうのが、ワクワクしますよね。自分を試すじゃないですけど、自分はその状況下でできるのかって。例えば練習場で10回やってほとんど決まっても、大会ではどのくらいの頻度で決まるのかとかそういうモチベーションを持って、大会にも出ています。

 

―大会で出すにはどのくらいの成功率が必要なんですか?

 

早川

ぼくの中では5回やって4回くらいできないと大会には出さない。自分が絶対表彰台にいなきゃいけないっていう意識があるので。やっぱり意地になって、これを出したいからこれだけのために、これを成功させたいから何回もミスってもいい、みたいなのはなくて。もちろん挑戦は好きですし、そこでさっきも言ったみたいにワクワクしたいっていうのはあるんですけど、やっぱり仕事として、プロのライダーとして、表彰台は意識しています。プロクラスに出て最初の方は、いかに爪痕を残せるかって思い、ミスを恐れず自分のオリジナルとかをやっていたんですけど。1~2年くらい前からサポートしてもらえたりとか、企業に応援してもらえるようになってからは、やっぱり立場も変わって、自分がやりたいことだけをやってればいいってことじゃないんで。

 

―そうしたプロ意識の一方で、観客を楽しませることも必要。

 

早川

そうですね、リアクションは欲しいですね。やっぱり嬉しいので、反応が見たくてやっているっていうのはありますね。驚かれたりとか、MCの人に「ここで出す!?」って言ってもらえたり。そういう新鮮さというか、いい意味で期待を裏切るのが一番良いかな。驚いてもらえるように。

BMXを始めたころに地元で一緒にほかの先輩に教えてもらったりして乗らせてもらっていたんですけど、その中でその先輩たちに隠して新しい技をやりたいなって思った時期があって。ひたすら練習したんですよ。秘密にしておいて驚かせたいっていう気持ちがそこで初めて生まれて、半年くらい隠しきって、成功したんですよ。その日の夜練習でいきなりその技やって、「なにそれ!」って喜んでもらえたりとか驚いてもらえたりして。その時の感覚が、変な話、快感で!そこからですね。人を驚かせたいとか、どういう反応なのか知りたいって。そのときはオリジナルじゃなかったけど、みんなが知らないとか、まさかやってるとは思わない動きができたとき、それをみんなに見せたときの反応が嬉しくて今もそれに似た形でオリジナルにこだわったりとか、大会でやったことない技をやったりだとかそこから通じているものなのかなと思います。

 

―そのオリジナリティは、どうやって思いつくものですか?

 

早川

聞こえはかっこいいと思うんですけど。前例がないってことはお手本がいなかったりとか、そもそも実現できるかもわかんないんですよね、最初は。なので、いろんな方法を試して、持ち方を順手から逆手に変えるとか、本当にちっちゃなことでも試してみて、それで大きなケガをしたりとかも、もちろんありましたし、でもいけるんじゃないかな、みたいな。本当に信じるしかないんですよ、できるのを。それでやっと何か新しい動きを実現しても、大会に出すまでにはかなり期間が必要で。あの緊張感の中でできるかだとか、メイク率って言われるんですけど、完成度を高めていけるか。そういうの含めて、オリジナルをやるのはかなり時間はかかります。考えてから実現するまでが半年で、大会に出すってなるともっとかかりますし、1年くらいかかることも、ありましたね。

 

―どんなときに思いつくんですか?

 

早川

乗っているときですかね。例えば大会が近かったりとか、半年後の大会にむけて新しいのを考えようってなったときは、考えてYOUTUBEとかを見て、今までのライダーを参考にしたりするんですけど、そういうときに限って全然出てこなくて。結局思いつくのは、それこそスピンまわっているときとか、自転車に乗って触れてるときが多いです。

あと、BMXも流行りみたいなのがあって、自転車を回すのが流行りだったり、バランスをとって進んでいくのだったり。その流行りと自分のスタイルを組み合わせたら、すごいのができるんじゃないかなって。流行りに乗りつつ自分も出していくという考えはありますね。それと逆に、今はもうみんなやってないけど、昔の人たちは普通にやっていた動きを、あえて持ってきたりとか。やっぱり人がやっていないことをやりたいと思っているので、流行りをやるときも自分のスタイルは見せたいし、そこで同じことやっても点は取れないわ、かっこよくないっていうのが自分の意見です。

 

 

―その中で、早川選手のいまのスタイルについて教えてください。

 

早川

ぼくはいま、リアっていうリアタイヤを使っている技を多くやっていて、ペダルにのってやる技が多いんですよ。流れ、ルーティンって言うんですけど、ひとつの構成の中にペダルの上でやっている技が多くあって、そこは自分のスタイルかな。あと長くルーティンを繋げる、ロングルーティンをやっているライダーも結構いて、そういう人たちはリスペクトしています。自分があんまり長いのが得意じゃなくて、どっちかっていうとドカンっだったりとか、あんまり長く続けられないんですよ。なので、そういうところもしっかり長く続けられるようにすればもっと強くなれるのかな、もっと強みになれるのかなっていうのは思っています。やっぱりメリハリがないルーティンだったらあんまりかっこよくないなって思っちゃいますし。そこはまだ、足りない部分がありすぎて、まだまだ乗れそうですよね、BMX。

 

―大きな大会での優勝が続いていますが、自分でどう分析してますか?

 

早川

あんまり深くというか、「自分が評価されてるのはこうやってるからだ!」とか考えたことなくて、ただひたすらに大会があれば、大会のために練習して、その大会で自分を見せられればっていう考えなんでここが評価されてるんだっていうのはあんまり考えないですね。その場その場で、自分がやりたいことやって、見せたいものを見せて、そこで順位を獲れているので嬉しいし、これ以上のものをやらないとなって思っています。

例えば、自分の好きな技で「サーカス」という自転車を縦にして、一輪車みたいに漕ぐ技があって、乱用しているんですよ、今。大会で。その技がずっと好きでその技から技に発展させたりとか、その技をスタートにして、その技を終わりにしてっていうのはぼくのスタイル・強みでもあるんですけど、やっぱり同じ技ばっかりやっていたら、飽きられる原因のひとつでもあるんですよね。うまいこと活かしつつ、次のステップに行ければなって。でもその技が好きなので、それが原因で順位を落とすのがすごく嫌で、好きな技だからこそ大事に使っていきたいなって思っています。

 

 

―6月のジャパンカップはノーミスで優勝。2位の佐々木選手は途中で1度足をついてしまうミスがありましたが、結果としては100点満点で1.5点差の僅差でした。

 

早川

1.5点っていう小さな差は勝ったから嬉しい気持ちもあるんですけど、悔しくもあり、あんまり正直嬉しくはなかったです。やっぱり見方を変えると、ぼくノーミス、フルメイクで、(佐々木)元さんはミスをして、それでもこの点差しかつけることはできなかった。なので、難度は元さんに負けてるのかなっていうのは意識しちゃいますね。元さんだけでなく、ほかのひとのレベルも上がってきていると思います。予選のときにAグループを見てたんですけど、Aグループの人たちってあんまり大会に出てない人とかが入るんですけど、もうそのグループのときから本当にレベルが高くて。予選決勝って言ってはいるものの、みんな決勝にあがるような人ばっかだと思った。みんなプロライダーなんで。そこは気が抜けないというか、レベルは本当に高いですね。

 

―XGamesをはじめ、ほぼタイトルは獲ってしまいましたが、次の目標は?

 

早川

うまいこと言えないんですけど、世界タイトルをもっと獲りたいって言うのはずっとあります。BMXを始めたころからあるんですけど、1回獲ったから満足って言うよりは、ぼくもBMXを始めたころから、元さんとか他のライダーとか、こういうふうになりたいっていう人たちがいて。なので、そう思ってもらえるライダーになりたい。そのために世界タイトルをもっと獲りたいと思いますし、BMXをもっと知ってもらいたい、自分がこういうライディングをしてるよ、自分の技を知ってもらいたいっていうのは常に考えています。たとえば、スポンサーや企業ひとつにしても、BMXを知らないブランドだったりとか、あんまりBMXに興味がないじゃないですけど、あんまり見てもらえてないブランドにあえて声をかけたりとか。流行りとか運とかももちろんあると思うんですけど、いまは優勝できているので、このタイミングでしかできないことができればなって考えています。

 

先駆者・佐々木元『今もどんどん上手くなっている』

 

―若手対佐々木選手が注目されていますが、意識はしているのでしょうか。

 

佐々木

あんまり気にしていないとも言いづらくて、何だろうな・・・、めちゃくちゃ気にしてるという訳でもないんですけど、自分と同世代のライダー達が引退してしまって、自分がいて、他はほとんど若い世代になって、表彰台争いが20歳前後の子か自分か、みたいなところがあるので、そこの負けられない意地っていうのはちょっとあります。負けられないというか、勝たせたくないのが本音で。なんていうんですかね、自分が一番練習してきて、自分が一番自転車が上手いと思っているので。3分間の演技なので、比べるものが3分間というたったそれだけの時間なので、ミスもありますし、難しい土俵ですけど。ただ全体的な技の量とか、作ってきた技の数とかは負けてないと思うので、まだ勝たせたくないという気持ちが自分の本音です

 

―特別意識している相手はいますか?

 

佐々木

そうですね、やっぱ早川選手と弟子の庄司選手は意識していないわけではないんですけど、結局自分が1番になるかは、自分の技が決まるかどうか。自分がミスれば2位か3位だし、決まれば優勝だと思っているので、そこに誰が何人出てこようと自分の演技次第で順位がいつも決まると思っているので、エントリーを見て「うわ、上手い人多いね」っていうんですけど、結局自分がミスしたら負けるし、何人出ようがノーミスなら勝てるし、自分との戦いみたいな状態になっています。

 

―相手は自分。

 

佐々木

そうなんですよね。他の選手の演技も見ないです。見ても自分の演技をするかどうかなんで、他の人がミスったから演技を変えることもないし、他の人が調子良かったからもっとこうしなきゃっていうのもない。始めからこれに向けて練習してきたこの技を出すって決めてるんで、だから他の選手を見る必要はないと思っています。ただ最後になるとやむを得ず全部見なきゃいけなくなるんですよ。最後になると出番待ちをずっとしていて、スタンバイしていないといけないから、前の選手を見なきゃいけない状態が作られちゃう。見たくないので、先にやってもう自分が終わっている状態で見るくらいの感じが好きなので。

 

 

―試合の時のメンタルコントロールについて伺います。堂々と楽しそうに乗っている姿が印象的ですが、緊張はするのでしょうか。

 

佐々木

ぶっちゃけると、やっぱり負けたら恥ずかしいし、予選落ちとかもしばらくしたことないし、それがいつになるのかっていうドキドキはずっとあって。ただ、緊張はするんですけど、いつもそのバロメーターは決めてて、緊張し過ぎだなと思ったらそれを落とすやり方はあって、全くしてないと思ったら、しにいくやり方もあります。音響がでかいので、し過ぎだと思ったらデカイ声を出すようにしています。逆に緊張していないなと思ったら、わざと不安なイメージをやって、緊張の度合いを10段階の7か8にしています。

 

―緊張をコントロールできる?

 

佐々木

もうほとんどできると思います。なので、やる前に必ずどのくらい緊張してるかを考えて、自分の名前が呼ばれて「佐々木元」って呼ばれて、ライディングするまでの時間があるんですけど、そこでかなり調整しているんです。間を作ったりとか、結構戦略的で、呼ばれてすぐやり始めないし、限界まで引き延ばしてから始めるようにしていますね。観客もジャッジも、「もう準備できているんだから早くやれよ」って気持ちにしてからやらないといけない。すぐやり始めちゃうと「まだ応援する気持ちになっていないのに」とか、ジャッジが前の人の事を考えているパターンもあるので、周りの目が集まるまでギリギリまで待ってやったりしています。

ベテランだからこの空気感を楽しんでるのかな、と余裕があるように見せたりとか。舞台に出てきてヘラヘラしたりすると、なんかすごい人なのかなってなったりするので、キャラクターを作るようにしています。裏ではめちゃくちゃ緊張してたりするんですけど(笑)

でも、緊張していないとむしろいい演技ができないので緊張はいい事だと思っています。それだけ練習してきた証拠だし、練習してなかったら緊張してないし、教え子とかには「大して練習してないんだから緊張するなよ」とか言いますよ。「俺ぐらいやってれば人生かかっているし、そりゃ緊張するのは当たり前かと思うけど、アマチュアクラスなんて勝とうが負けようが一緒やん」って。

 

 

―「練習してきたから大丈夫」と自分自身に言い聞かせている感じですか?

 

佐々木

それは絶対あります。あれだけやったから絶対大丈夫っていうのはあるし、まさか予選落ちすると思っていないのは、自分が一番上手いと思うし、演技構成から絶対に調子悪くても取り戻せるような構成を練っているし、不安要素をちょっとでも減らすように考えていますね。あとは、普段の練習から技の1本目の、ここでミスったらこうしようっていう分岐を全て想定してやっています。2本目の技の入りでミスるのか、真ん中でミスるのか、最後でミスるのか。その場合、どういう選択肢があって、どれくらい時間が余るのかとか枝分かれをいっぱい作って、2本目の真ん中でミスって3本目でミスっても大丈夫なような道筋を立てている想定をしています。みんな事前に3分とか測って練習していると思うんですけど、始め3回位ミスったら「やり直し」って言って最初からやり直す人もいるんですけど、それこそ一番重要で、始め3回ミスってもそれをどうするか。どういう状況だから、今何をしなきゃいけないとかを試合中めちゃくちゃ考えています。自分でやりながら、違う視点で自分を見ているような感覚で演技しているかもしれないですね。

 

―練習が自信を作る、ということなんですね。

 

佐々木

どこかで練習をサボったり自分に言い訳をしたら、自信がなくなってしまうから、その自信を持つためにも普段の練習から「もうこんだけやったから、これ以上やる余裕なかったよね」っていう状態で大会に行っています。練習だけは絶対に裏切らないので、自分が一番わかっているので、そこに関しては誰にも負けないし、誰よりも上手くなっていると思うので、この状態で誰よりも上手くなってるんだったらまだまだ表彰台に登れるよねって絶対思っている自分がいて、なのであと10年続けるって言ってるんですけど、10年間成績が落ちることは絶対にないって言い切れますね。

 

 

―フラットランド界をけん引して、ベテランと呼ばれるようになってからも活躍。今後の選手人生をどのように考えていますか?

 

佐々木

どんどん上手くなっている実感がめちゃくちゃあります。それこそ、世界で一番上手くなれていると思います。そこを大会で出せてるかどうかは別なんですけど、普段の練習から大会で使わない技まで、毎日いろんなことを覚えて技の数も増えていっています。今年のエックスゲームでやった技は、絶対成功する確率上げるの無理だろうって思っていたんですけど、でもその技ですら、あれだけ3000時間も練習してもやって全然確率が上がらなかったのに、大会本番で出せるところまで持ってこれたというのは、やっぱり上手くなっているってことなので。そこでまたこれをクリアしたら、また新しい事をやらなきゃいけない。

 

上手くならなくなったらきっぱりと引退します。現状維持で続けるつもりはなくて。すごいカッコ悪いじゃないですか、大会で「うわ、元さん見るたびに下手になってるな」って。「昔あの技落ちなかったのにめっちゃ落ちるじゃん」って。そうなるのは嫌なので、すぐ辞めると思います。他の選手に聞けばわかると思うんですけど、「元さん体力めちゃめちゃあるな」とか「一番乗ってるな」ってみんな言うと思うので、その期待には応えたいですね。いつまで元気なんだ、あのおっさんってたぶん言ってると思うんですけどね(笑)

 

早川選手・佐々木選手のインタビューや、2人が争ったジャパンカップの模様は、「アーバンスポーツFans」で放送します。ぜひご覧ください。

BS1 7月31日(日)16時00分~16時49分

※再放送 8月4日(木)前0時50分~1時39分(水曜深夜)

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