特集 朝乃山 感謝の思いを忘れず 大相撲名古屋場所

大相撲名古屋場所、大関経験者の朝乃山がおよそ1年ぶりに本場所の土俵に戻ってきた。番付は西の三段目22枚目、大いちょうは結えず、黒まわしのちょんまげ姿。取組を待つ間、じっくりと天井を見上げた。
朝乃山 復帰、白星で飾る
朝乃山
1年ぶりの本場所の土俵で、もう一度、相撲を取らせて頂けるのがうれしかった。ついちょっと、上を向いてしまいました。
1年あまり前はどん底にいた。不要不急の外出が禁止されている期間、接待を伴う飲食店に複数回出入りしたうえ、日本相撲協会の聞き取りに対し、うそをついたなどとして、6場所の出場停止処分を受けた。大関の地位から陥落し、去年8月には最愛の父を亡くした。
失意の中で支えてくれたのは、かつての兄弟子でいまの師匠、元関脇・朝赤龍の高砂親方だった。
稽古中に師匠の高砂親方と話す朝乃山(2022年6月18日撮影)
朝乃山
先が見えない状態のときは、つらかった。父を亡くして気持ちがもっと落ち込んだとき、師匠が『もう1回、親のためにも頑張ろう』と言ってくださった。それで、ちゃんと相撲と向き合えるようになった。
番付が下がり、部屋の掃除などの雑務にも若い衆と同様に取り組んだ。部屋も相部屋だ。みずからを見つめ直す生活のなかで、次第に、心が落ち着きを取り戻した。
稽古で体を動かす朝乃山(2022年6月18日撮影)
朝乃山
この1年間は、なぜプロになったのか、何のために大相撲の世界に入ったのかに向き合った。
高砂親方も厳しくも優しい姿勢でエールを送り続けた。
高砂親方
自分がしっかり頑張るのが一番大事で、ファンもそうだし、お父さん、お母さんも頑張ってくれるのを待っている。1年空くから自分の相撲を忘れるなと、今までの前に出る相撲を取り続けることが大事、そう言い続けた。
朝乃山は今場所前、しこ名の名前を高校時代の恩師の名前からとった「英樹」から、本名の「広暉」に戻した。
名古屋場所に向けて稽古する朝乃山(2022年6月11日撮影)
朝乃山
不祥事をおこして、もう先生の名前を名乗れないという自分の思いもあった。母と相談したときに父が付けてくれた「ひろき」という名前を付けようと。
また一から歩み出した今場所は圧倒的な強さで、大関経験者の実力を示している。支え続けてくれた両親、そして親方。また土俵に戻ってきたときに温かい拍手で迎えてくれた多くのファンたちの思いに応えるため。元の大関の地位に戻るには、さらに長い時間がかかるが、決意は固い。
三段目で復帰した朝乃山に観客が拍手(7月11日撮影)
朝乃山
まだ許されるわけではないが、土俵の上で戦っていく姿を見てもらって、信用を取り戻したい。もう一度、本場所の土俵で相撲を取らせてもらえることに感謝を忘れずに、1日一番やっていきたい。
朝乃山の名古屋場所の全取組動画はこちらからご覧いただけます
この記事を書いた人

今野 朋寿 記者
平成23年 NHK入局
岡山局、大阪局を経てスポーツニュース部。二児の父として、子育てにも奮闘中