特集 ブレイキン世界王者・福島あゆみ「ベテランでも成長したい」

10代や20代の若い世代を中心に注目を集める競技「ブレイキン」。手や背中、頭などで回転する大技「パワームーブ」が魅力の一つです。バトルでは、2人のダンサーは、DJがその場で選んだ曲に合わせて即興で順番に踊り合います。音楽への対応力・技の完成度・オリジナリティなどを、審査員が総合的に見て、勝敗が決まります。
この「ブレイキン」の注目選手の一人が、Ayumiこと福島あゆみ選手(38)です。日本の女子ブレイキン界を牽引してきたベテランで、去年12月の世界選手権で初優勝。2024年のパリ五輪でメダル獲得を期待されています。そんな福島選手に、ブレイキンとの意外な出会いのきっかけや、自身が感じている競技の魅力、そしてパリ五輪へ向けた意気込みなどを聞きました。
38歳でつかんだ世界の頂点
―去年の世界選手権、改めて優勝おめでとうございます。当時を振り返ると、優勝したときはどのように思いましたか。
福島
正直びっくりしましたね。普通に驚きました。世界選手権はもう自分的には全然だめというか、予選から本当にだめで、私を知っている人が見たら、「大丈夫か?」と思うぐらいの感じだったので。自分自身も『あーっ』て思いながらで。最後までいって本当に驚きました。
―だめだって思ったのはどうしてですか。
福島
ちょっと焦りというか緊張であったりとか、うまく体に音楽も入ってこないし、『あまりうまくいってないな』みたいな感覚が自分であって。だから予選通過は結構難しいブロックに行っちゃったと自分で思って。総当たりになってくるから、誰と当たってもみんな強いので。『はー…』みたいに思いながら、一戦一戦臨みました。でも終わった時、全部踊れてうれしかったです。やっぱりそれだけ準備していってたので。それに向けて自分ができることはできたから、最後まであきらめないでできたことが、すごい自分的にはよかったなって思いました。
きっかけは“ダイエット”。
―そもそもブレイキンはどうして始めたのでしょうか。
福島
ブレイキンを始めたのは、すごくだめな理由かもしれないですけど、どっちかっていうとダイエットが目的でしたね(笑)もともと高校生のときにヒップポップダンスを習っていたんですけど、楽しくはやってたけどまじめに練習とかに取り組んでいたわけではなく、高校卒業して留学をしたので、ダンスはその時点でやめてしまった。それで、留学中にいっぱいおいしいもの食べて10キロぐらい太ったんですよ。それが二十歳ぐらいの時。夏休みに一時帰国したときに、ちょっと新しいことにチャレンジしたいなと思ったのと、ちょっとやせたいなっていうので、姉がずっとブレイキンを先にやっていたこともあって、始めました。
―始めてみて、ブレイキンについてどう思いましたか。
福島
最初はずっと見ていたんですよ。留学中、姉がアメリカ修行に来ていたし、そのタイミングで練習場所を一緒に行かせてもらったり、大会を見に行ったりしたけど、全然興味がなくて。自分がやると本当に思っていなかった。でもやってみたらめちゃくちゃ楽しかったですね。教えてもらっている動きも、筋肉があった方でもなかったので、できないことばっかりなんですよ全部。でも、それがすごい私はしっくりきた。『できないから練習しよう』みたいな感じで。毎日悔しいし、やってやる!みたいな感じで練習場所に行きだして、そこから毎日やっていましたね。
―できないことが楽しい。
福島
そうですね、面白い。できないと、『次はじゃあ、これできるかな』とか。『これできるようになったら、じゃあ次これ教えてもらおうかな』とか。そんな感じだったかなって思います。
壁と向き合って見つけた「お掃除スタイル」
―ご自身のブレイキンのスタイルってどういうスタイルだと思っていますか?
福島
私は自分で勝手に名付けたんですけど、私は「お掃除スタイル」って呼んでます。例えば、全部じゃないですけど、自分が動きをつくるときに、お掃除をしてる形とかで、『ああこれっぽいの行けるな』ってインスピレーションもらったことが何個かあったから。あと性格的に結構せかせかしているなとみんなに言われて、そういうのをリンクさせて、勝手に名づけました。
―ダンスに性格が出るスポーツなんですね。
福島
出ますね。はじめはわかってないですけど、やっぱり長くやっていると本当に性格は出てくると思います。踊っている時と別人っていう人もいるんですけどね。器用な人は踊り出したら別人で、普段が違うとか。私も昔はそういうふうに思っていたんですよ。ふだんはこうだけど踊ったらかっこよくなりたい、クールになりたいみたいな。でもそれを結構何年もトライしたけど、結局しっくりくるのは、あ、“自分でいいかな”って。そう思ってから楽になりました。
―自分でいい、というのは何かきっかけがあったのでしょうか。
福島
4、5年ぐらい前にそう思いはじめたかな。悩んだり、自分にダンスについてすごい壁があったりした時期もあったので、そのときに何が自分に向いているのかな、自分がどういうところを伸ばしたいかなって考えたりとかした時に、自分らしい動きをもっともっと自信持って出していってくほうが自分なのかなって思えて、そこからすごく変わりましたね。ダンスの楽しさみたいな。
福島選手にとっての“ブレイキンの魅力”とは
―ずばり、福島選手にとってブレイキンの魅力は?
福島
自分で自分をレペゼンできることかな。自分のスタイルは自分しかレペゼンできないから。それは他の人じゃ無理だと思います。そこがまずめちゃくちゃ魅力だなと思う。あとはいろんな楽しみ方があるなと思いますね。1人でやったり、みんなでやったりもあるし。ストイックに大会に向きあうこともできるし、みんなでワイワイ楽しむこともできるし。終わりがないなと思います。これができたら終わりとかないんで、ブレイキン。どんどんどんどん自分がどうなりたいかによって変わっていけるし、それが私にとっては一番の魅力だなと思います。
あと私、めっちゃ好きなんですよ、バトル。バトルって毎回が初めての瞬間。何が起こるかわからない。その日にしかわからないけどそれに向けて頑張る、それに向けての練習って、誰でもできると思うんですよ。だからやっている。その日に頑張りたい、その日に自分が最高に楽しみたい。だから練習しなあかんって、私は思います。
―目標みたいなものを達成していくのも楽しさの一つ?
福島
よしできた!という楽しさもあるし、やっぱり根本的に、“上には上”なんですよ。うまい人めちゃくちゃいるし、世界で探したら。やっぱりそういう人を見ていると、自分自身が「全然だな」みたいに思う。私もこうなりたい、みたいなのがあるんだと思うんですよ、自分の中で。そのためには、なまけていたらだめだし、やっぱり頑張らなきゃというのが自分の頭にあるからやっているのかなと。
―世界王者になっても、“上には上”なんですね。
福島
自分自身で「この技、この動きは無理だ」となったときに、その中にもできそうなことを頑張っているって感じですね。『いきなりこんなのはできないけど、こういうのは自分にない動きだからチャレンジしてみよう』とか、『完璧にはできないから自分っぽくアレンジしてやってみよう』とか。できないことがだめって思っていないんです。できないからあかんっていうのがブレイキンにはないって思っているから。それは何年やっても同じなんじゃないかな。20年ブレイキンやっても40年ブレイキンやっても、100%完璧に何でもできるわけじゃない。そんな簡単じゃないと思います。だから私は、そのできることを1個ずつ1個ずつ、ことしでダンス歴17年、18年目ですけど、いまだにそれはわたしのなかでは、あたりまえのことだと思っています。
―できたときに、ものすごい喜びがある?
福島
最高!って思います。結局できても、使えないと意味ないから。ちゃんと自分のダンスに取り入れられたらめちゃくちゃうれしいけれども。でもそれが定着するのに1年ぐらいかかるから、やっぱり何回もそういうような人前でやって、うわあ、あんまや、うわあ、あんまや、が続いて、1年くらいたったら、やっときた!となりますけど、そんないきなり1発目から最高!はないです。やっぱり自分が苦手だったものが決まったときは、いちばんうれしいですね。
パリ五輪を前に・・・
―パリ五輪の種目として採用され、周囲の期待もあると思うが、どう感じていますか?
福島
なんというか…まだ気持ちがそこまでいけてないです。パリは目標としてはあるけど、まずランキングなんて誰がいくかもわからないです。だからむしろ、私の場合はやっぱりちょっと怪我とかもあるので、パリまでいけたらめっちゃうれしいなと思いますけど、いまは1個1個って感じです。次の大会があったらそれに向けて頑張る。もちろんその先を見ていますけど、1個ずつ向き合うしかないかなっていうのが、自分の気持ちですかね。
―スポーツってオリンピックでメダルを取ることが目標みたいな人も、楽しんだり、長く続けたり、それぞれ目標があると思うんですけど、福島選手にとってはどんなことが大切だと感じていますか?
福島
もちろん大会があったら、勝ちとか負けとか出てくる。だけど、それ以外に関しては、本当にただ好きでやっていいと思うんですよ。誰でも。音楽があって体があればできるみたいな。その人その人の楽しみ方があるから、別に年齢とかではないだろうなっていうことを、ダンサーはみんな始めた時からなんとなくわかっているんですよ。そういうもんだって。ひとつのイベントに小学生がいて、年齢が上の人もいるっていうのも、うちらのジャンルじゃ普通なんです。だからあんまり勝ち負けだけじゃないです。もちろん勝ち負けも大事だし、大会は大会なんですけどね。
もうひとつ、私はやっぱりずっとチームでやっているので、チームメートと一緒に目指して大会に出たりとか、毎年何か目標をみんなで掲げてやっています。なので、みんなでやるから楽しいとか、一人でやるのってつらい時もあるけど、周りに人がいると一緒に頑張ってくれたりとか。やっぱり長くやっているんで、何回も壁にぶつかってきてるんですよ、ダンスのことで。そういう時って、ひとりじゃ乗り越えられないこととかもあったし、そういうときに話を聞いてもらったり、背中を押してもらったりとか、本当にいつも助けられてますね。そういう人たちと、大会とかもですし、それ以外の部分でも、例えば一般の人にブレイキンを知ってもらう活動であったり、そういうこともやっていきたいなと思います。
―ブレイキンを知ってもらいたい。どんなことを伝えたいですか?
福島
とくに子どもたちですね。やっぱりブレイキンの魅力って自分が思う部分がいっぱいあるから、自分たちが大事に思っている部分は絶対伝えたい。そして、それを伝えるのは、もちろんなんですけど、やっぱ一つのことを頑張るって練習とかすごくしんどいですよね。でもしんどいことを諦めないで頑張れる、それで得た楽しさを知ってほしいってすごく思うんですよ。自分の経験を生かして。自分自身の表現というものを、その子がしっかり自信もって出せるように頑張ってほしい。チャレンジする気持ちとかは、教える、伝えることはできるけど、その子が経験しなきゃわからないことがいっぱいあるから、何かちょっとでもそういうサポートができたらいいなって思っています。
―今後はどういうダンスをこれから踊っていこうと思っているんですか?
福島
何だろうな。難しい、一言ではいえない。でも今チャレンジしている動きであったりとか、何か苦手な部分を取り入れていくのっていうのは2022年の目標なので、それが12月までにいけたらなと思います。一つ一つですね。やっぱりこう、成長があったほうが楽しくないですか?それがちっちゃくてもいいんで、自分が成長したと思えるようにやっていきたいなと思います。
―きょうは、ありがとうございました!