特集 錦富士 大先輩の背中を追って 大相撲名古屋場所

大相撲名古屋場所、新入幕の錦富士が元気だ。中日の8日目を終えて6勝2敗、横綱・照ノ富士などと並び優勝争いのトップを走る堂々の成績を残している。
名古屋場所8日目 錦富士(右)が寄り切りで千代翔馬(左)を破る
錦富士
ここまではいいと思うが連敗してしまう癖がある。あまり調子には乗らないように。
淡々と語りながらも表情には充実感も漂う。
左ひじの大けがを乗り越えつかんだもの
数々の名力士を輩出してきた青森県出身の25歳。照ノ富士など関取6人が所属し、猛稽古で知られる伊勢ヶ濱部屋で力をつけてきた。
名古屋場所の新番付が発表され、オンラインで記者会見する新入幕の錦富士
しかし、ここまでの歩みは決して平たんではなかった。初土俵から3年、順調に番付を上げ幕下3枚目で迎えた令和元年の秋場所で初めて十両昇進のチャンスをつかんだ。
しかし、場所中に左のひじのじん帯を断裂する大けが。休場を余儀なくされた。ひじの状態はなかなかよくならず、3回にわたり手術をした。
錦富士
せっかくつかんだものを離したくない思い。めちゃくちゃしんどかった。
一方で、けがをしたことでつかんだものもある。左腕を手術してから右腕を重点的に強化。いまでは左腕より右腕の方が腕まわりが10センチほど太いという。
同じ部屋の照ノ富士に教えを請い、得意の左四つだけではなく右四つにも取り組むなど相撲の幅を広げてきた。
今場所、その成果が随所に出始めている。6日目の千代丸戦。右で下手を取る右四つの形で寄り切り、勝ちにつなげた。
名古屋場所6日目 錦富士(左)が寄り切りで千代丸(右)を破る
錦富士はけんそんしながらも手応えを口にする。
錦富士
ちょっとずつ、成績がよくなっているという点では成果が出てきているのかな。
大先輩の背中を追って
苦しい時期を乗り越えることができたのは、同じ青森県出身の大先輩の存在があったから。長く付け人を務めた元関脇・安美錦、安治川親方。
断髪式はさみを入れた横綱・照ノ富士と握手を交わす安治川親方(2022年5月29日撮影)
現役時代、両ひざのじん帯やアキレスけんの断裂などたび重なる大けがを乗り越えて40歳まで現役を続け関取在位は歴代1位の117場所となった。
錦富士にとってみずからが伊勢ヶ濱部屋に入門するきっかけをつくってくれた人でもあり「けがと一緒に強くなってここまでやってこられた」と語る姿を間近で見てきた。
錦富士
安治川親方の背中を見てきたので尊敬している。
大先輩の背中を追って相撲王国・青森を背負って立つ存在へ。錦富士には大きな期待がかかる。
錦富士
青森は相撲好きが多くてみんなが僕のことを知っていて相撲の話になる。十両のときには『すごいことだけど、それだけで満足するなよ』とよく激励された。幕内に上がって皆さんがすごく喜んでくれている。さらに期待に応えられるよう頑張りたい。
この記事を書いた人

今野 朋寿 記者
平成23年 NHK入局
岡山局、大阪局を経てスポーツニュース部。一児の父として、子育てにも奮闘中