ストーリーパラスポーツ

山本篤 元ライバル・ポポフと共に見据えるパラスポーツの未来

2019-04-26 午後 04:15

パラ陸上走り幅跳びの山本篤選手。パラリンピックに3大会連続で出場し、3つのメダルを獲得したレジェンドです。開幕まで500日を切った東京大会に、パラスポーツの未来を懸けて挑もうとしています。(サンデースポーツ2020 2019年4月21日放送から)

 

 

山本篤 37歳の苦闘

山本選手の跳躍に不可欠なものは二つあります。ひとつは「助走のスピード」。左足の義足に体重を乗せ、歩を進めるごとに加速していきます。そしてもうひとつは「力強い踏み切り」。助走のスピードと義足の反発力を最大限生かし、踏み切りで義足に体重をかけ、勢いよく跳び出します。

 

山本選手のリオでの跳躍

 

リオデジャネイロパラリンピックでは銀メダルを獲得。

 

東京パラリンピックを自らの集大成と位置づけ悲願の金メダルを狙います。

 

山本選手

「まあリオでは銀メダルで、悔しい思いをしたからこそやりたいっていう思いが強いです。自分のできる最高のパフォーマンスをして、結果一番いい色のメダルがついてくるとうれしいなと思います。」

 

東京大会まで約1年半。山本選手は今「復活への道」の途中にいます。20年近く競技を続けた37歳の肉体には、腰や足の付け根に大きな疲労が蓄積。

 

さらに昨シーズン、スノーボードで冬のパラリンピックに挑戦した際、転倒して左肩を脱臼。肩にボルトを入れる手術を余儀なくされました。

 

平昌パラリンピック 肩を落とす山本選手

 

山本選手の左肩の画像 ボルトを入れる手術を受けた

 

この左肩の手術は、山本選手最大の強み、スピードに大きな影響を与えています。肩にボルトが入っているため、どうしても左脇が開き、腕の振りを十分に推進力につなげられないのです。

 

 

「タイム悪いでしょう。もうちょっと出てほしかったね。」

 

この日の練習、短距離のダッシュでも、かつてのようなスピードは取り戻せていませんでした。

スピードを取り戻すのには、正しいフォームを身に着けることが不可欠。ダッシュを行う前、脇を締めるのに効果があるという器具を試すことにしました。

 

手でこの器具を握り、正しいフォームを模索

 

この器具を軽く握ることで、適度に腕に力が入り、腕振りのフォームが修正されると言います。

 

脇を締める感覚を体にしみこませようと、フォームを確かめながら走り込みます。

挑戦に後悔はない

左肩のけがと闘う山本選手。当初、トレーナーの安宅優輔さんは、ケガのリスクを恐れスノーボード挑戦に反対していたといいます。

 

「僕は辞めさせたかったですよ。ピョンチャン出るの辞めましょうか、って言いましたもんね。」

 

しかし山本選手は。

 

「僕はやめる気さらさらなかったけどね。」

挑戦した事に後悔はない。そこには、パラスポーツにかける信念があります。

 

山本選手

「ケガはしましたけど、ピョンチャンには出てよかったと思いますね。自分自身がやりたいと思った事に挑戦したこと。できるかできないか試したことはもう、絶対自分の中では大きな財産になりました。」

経験をどう若手に伝えるか

山本選手は東京パラリンピックに向け、自分が培ってきた経験を若い選手にも伝えています。特に気にかけているのが、走り幅跳び女子、2018年の世界ランキング3位の兎澤朋美選手。そして世界ランキング4位の前川楓選手です。

 

 

 

ことし2月。アラブ首長国連邦でパラ陸上ドバイグランプリが行われ、兎澤選手、前川選手が出場しました。

 

山本選手がスタンドから見守る中、前川選手が銀メダルを獲得。
しかし、世界の壁の厚さも痛感させられます。優勝した選手は前川選手に1メートルもの差をつけていたのです。

 

若い選手にメダルを取らせるにはどうすればいいか、山本選手は考えていました。

心強い助っ人はかつてのライバル

大会後、ドバイで行われた日本代表候補の合宿。ここに山本選手と強い絆で結ばれた臨時コーチが参加しました。ハインリッヒ・ポポフさんです。

 

これまで何度も山本選手と死闘を繰り広げ、リオ大会では金メダルを獲得した、走り幅跳びの世界記録保持者です。

 

リオ大会 金メダルのポポフさん(中央)と銀メダルの山本選手

 

 

去年現役を引退し、世界各地で指導を行っているポポフさん。早速ふたりの弱点に気付きました。

ポポフさん

「カエデとトモミは義足のエネルギーを生かし切れていない。」

 

ポポフさんは義足のエネルギー、つまりバネの反発力を生かしきれていないと指摘しました。

 

画像上が山本選手の踏み切りです。義足を真下に踏み込むことで強い反発力を生みます。一方の女子選手は画像下。義足を前に踏み出しているため反発力が弱まります。体の軸を比較すると、山本選手は地面と垂直になっているのに対し、女子選手は斜めに傾いています。

 

ポポフさんと山本選手は、義足にしっかり体重をかけるよう指導します。

 

「義足側で進めるようになって。もっともっと!無理じゃないよ!」。

 

自然と指導にも熱が入ります。

 

選手にとって義足に全体重をかけることは、その衝撃の強さゆえに恐怖心を感じるものだといいます。しかしそれを乗り越えなければ、義足の反発力を生かして踏み切る正しいフォームは身につきません。

 

ここで、感覚をつかめない女子選手にポポフさんが手本を見せます。義足に全体重をかけるトレーニングです。

 

 

 

ポポフさんは義足でジャンプ。「ケンケン」をするように義足で跳びはね続け、ぐんぐん前に進みます。

 

これには女子選手たちも「初めて見た!」と驚きの表情。それでも、ポポフさんは何度も飛び続けます。

 

すると…。

 

 

バキッ!という音を立て、ポポフさんの義足が折れました。全体重をかけ続けたことで義足がそのパワーに耐えきれなくなったのです。世界のトップ選手では、練習中に義足が折れることは起こりうることだといいます。

 

山本選手がすかさず女子選手にハッパをかけます。

 

「あれができたら合格!本当に力が入って、義足がたわんだら折れるんだよ。」

 

ブレードが折れるほどの力を義足にどうかけるのか。世界トップクラスの技術を教え込みました。

 

練習後、二人の女子選手は。

前川選手

「やってみるとできない事ばっかりで、でもそれはずっとやり続けていけば、できるようになるものだと思うので、意識してやっていきたいです。」

兎澤選手

「やらなければいけない事が山のようにあるので、それを一つ一つ着実に、自分の中でうまくまとめていって、解決していく事で2020年につながっていくと思います。」

山本選手も復活への一歩

そして山本選手も、復活への足掛かりとなる結果を出しました。今年2月、UAEでの大会。半年ぶりとなる実戦で自己ベストに迫る好記録を出したのです。

 

復活への跳躍をみせた

 

山本選手は悲願の金メダル、そして日本のパラスポーツのため、東京パラリンピックに挑みます。

 

山本選手

「自分がもらったものを、他の選手たちにも還元していかないといけないなと思っています。みんなで共有をしながら、お互いが強くなれるたら最高の形だと思うので。山本篤がそうやって日本のパラスポーツを動かした、となったら最高ですよね。」

 


サタデースポーツ/サンデースポーツ2020

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