ストーリー相撲

高校相撲界きっての名門埼玉栄高校 山田道紀監督の教育論

2020-07-16 午後 02:47

32年にわたって相撲部を指導して、全国大会の優勝が50回を超えるレジェンド山田道紀監督が、教育論、食育論を展開した「わが子の心と体を強くする、人生に『勝つ』食事力」を出版しました。山田監督の指導哲学について聞きました。

32年間生徒の立場で指導した 心が大切と訴えたい

埼玉栄高校相撲部 山田道紀監督

 
――監督が出された本には監督の考え方、教育論、哲学があふれていると思っています。まず、本を出すきっかけは何だったのですか。

いろいろとご縁がありまして、家内(早苗夫人)の知り合いの方と話していて、埼玉栄高校の相撲部で私たちがやっていることを見たり聞いたりして、ぜひ本にしましょうとお話をいただいたのです。これまでは断ってきたのですが、私も55歳になってこういうご縁があったので受けました。

 

――この本を通していちばん訴えたかったことは何でしょうか。

監督を32年やってきましたが、毎日こつこつとやってきたことと食事を通しての指導や、私が日本大学相撲部時代に田中英壽先生(現日本大学理事長)に教わったことをどう伝えていこうかと思って本にしました。私が32年間、生徒の立場になっていろいろと考えたことなのです。失敗もしましたがやはり心が大切だと思っています。生徒が相撲部に在籍するのは正味2年半ですが、そういうなかで強くするためは生徒の思いを受け止めることが必要です。今は強くてもその先は分からないということです。

弁当も監督が朝早く起きて作ったと思うと全く違う

生徒全員の弁当を作る山田監督(1月31日)

 

山田監督が作った栄養満点の弁当(1月31日)

 

――本には監督が作る弁当の話が出てきますね。

私が作る生徒の昼の弁当でも、これは監督が朝早く起きて作っているのだと分かって食べるのと、当たり前だと思っているのでは全く違ってきます。何かのときに思い出してもらえるように指導をしているつもりです。自分が指導をした結果として大会で勝たせていただいていると思います。

監督を好きになると強くなる 感謝することを教えたい

相撲道場で弁当を食べる生徒たち(1月31日)

 

――本のなかに出てくる「おいしく食べれば栄養はとれる」という言葉は監督の長年の経験から出たのでしょうか。

そうですね。おいしくない物を食べてもお腹を壊したりしますね。部員は2年余りしかないのですが、寮での食事では好きな物をおいしく食べるとともに、嫌いだった物も食べられるようになってきています。不思議ですね。「これを食べたら強くなるよ」と言ったら、これまでは食べず嫌いもありましたが、自然と食べられるようになりました。稽古も同じですね。嫌いな監督に指導してもらっても決して強くなりません。監督を好きになって指導を受けたら強くなります。押しつけるのではなく、うまく管理をしながら自然と分からせることだと思います。

生徒に飽きさせない味付け レシピはなくて勘で作る

夕食を作る山田監督と早苗夫人(1月31日)

 

――食事のメニューで、生徒のいちばん人気は唐揚げだったのですね。

そうですね。唐揚げは私が作るのと家内が作るのは違うんですね。家内は時間をかけて作るのですが、私はぱっぱぱっぱと揚げてしまうのです。どちらも生徒にはおいしいと思ってもらっています。唐揚げはあらかじめ肉の筋を切っておかないとジューシーにさっと揚がらないですね。

 

――定番メニューのちゃんこ鍋ではどんな工夫がありますか。

生徒に飽きないようにすることです。味も変えないといけません。試合の前は体が疲れて食欲が落ちるので、水炊きにしてポン酢で食べるように変化をつけています。汗をかくから味付けが濃いほうがいいかというとそれだけではだめなのです。レシピというものはないので私の勘で作っているようなものです。昼の弁当も生徒が食べやすいように味に工夫をしています。手作りの弁当は飽きがこないです。

相撲は一日で強くなる競技 勝てるのは選手の執念がある

山田監督夫妻と相撲部全員(1月31日)

 

――監督の相撲への思いを聞かせてください。

相撲は一日で強くなる競技だと思うんです。ある日突然強くなる競技です。一生懸命努力していて、ある日突然当たりが強くなったりするのです。生徒には「一日で変わるぞ」といつも言っています。勝ち負けよりも相撲の厳しさを見てほしいです。強い選手が勝てるのはその選手の執念もあるし、そこを生徒に見てほしいと思います。

 

――これからの生徒の育成について改めて監督の思いを聞かせてください。

改めてというより今までどおりですが、やはり日々努力して変化していかなければだめです。今はぶつかり稽古をユーチューブで見ることができますが、昔のぶつかり稽古と今のぶつかり稽古はイメージが違うのです。昔のぶつかり稽古は本当に力を出し切るような稽古でした。今のように押す一方の稽古とは違います。ぶつかり稽古を研究していきたいですね。アマチュアとプロの差はぶつかり稽古だと思っています。昔のビデオを見ているといいなと思うので、もう一度生徒とやり直そうと思っています。

 

――監督は一人一人の個性を見極めて指導されているのですね。

そこまで考えてはいないです。指導はちょっとしたことですね。悩みながら指導した面もあります。不安だらけで毎日どうしたらいいかと思うことの繰り返しですね。やっていることが全部正しかったと思うことは1回もないです。これからもやることは一緒ですが、相撲部に選手が集まるかどうか危機感があります。私も55歳なので、あと10年ですか。本を出すのは初め恥ずかしかったのですが、結構よく読んでいただいています。皆さん最初はレシピ本だと思うようですが中身は教育本です(笑)。

山田道紀監督の経歴

兵庫県浜坂町(現新温泉町)出身。兵庫県の市川高校から日本大学に進み、全国学生相撲選手権個人戦で準優勝。昭和63年埼玉栄高校相撲部監督に就任。全国大会の優勝回数は史上最多の50回を超える。七月場所現在の卒業生の関取は、大関貴景勝、小結大栄翔、幕内北勝富士、妙義龍ら10人。

この記事を書いた人

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北出 幸一

相撲雑誌「NHK G-Media大相撲中継」編集長。元NHK記者。昭和の時代に横綱千代の富士、北勝海、大乃国らを取材し、NHKを定年退職後に相撲雑誌編集長となる。

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