特集 帰ってきた元大関 照ノ富士目標は優勝、そして大関返り咲き

元大関の照ノ富士が、病気とケガを乗り越えて幕内に戻ってきました。序二段まで番付を下げてからの幕内復帰は史上初めて。それを支えたのは「大関として大相撲を背負ったというプライド」。照ノ富士が語りました。
外出できない環境で下半身を中心に体の作り直し
「大相撲特別場所~テレビ桟敷へようこそ」にリモート出演し、闘病と復活を語った(5月31日)
照ノ富士(以下、照):体を作り直しています。(稽古の制限は)そのきっかけになっているのかなと思います。
――そうすると今の環境は関取にはプラスですか。
照:プラスですね。序二段で復帰した去年の春場所は、四股も踏めない状態でした。その後はひたすら上半身を鍛えて上がってきましたが、下半身は何もできず、すり足もできないまま十両まで上がりました。今は上半身を休ませて、下半身をひたすら鍛えているという感じです。
引退も考えたが、まずは病気の治療に集中
観客も少ない序二段の土俵から復活へスタート
照:大関から落ちたときに親方(元横綱旭富士の伊勢ケ濱親方)に引退したいと言いました。親方は、まだ若いんだからとりあえずは病気治してから話をしようと言いました。糖尿病だけでなく、肝炎も検査の数値がひどく、腎臓には結石が両方にあると言われました。力が全く入らなくて、トレーニングをやっても筋肉は落ちていく一方でした。落ちたときに両膝の手術をし、あとは病気を治すことに専念しました。相撲を辞めても病気を抱えると大変ですし、どうせやめるならば治療をしてからと思いました。
病気を克服し序二段から出直し
序二段では荷物は自分で風呂敷で運んだ
照:筋肉を鍛え始めたら、力がちょっとずつ出せるようになり、稽古場に降りられる状態になりました。復帰した時点で糖尿病も肝炎も治っていて、病気には勝つことができました。
――再起の場所はどのくらいの状態でしたか。
照:今に比べれば、10%もいかないくらいです。今の状態が、いちばんいいときに比べて半分もいかないくらいなのですが、さらにその10%ですから。
――序二段の土俵に上がる恥ずかしさやつらさはどうでしたか。
照:そこを乗り越えられるかがいちばん不安でした。関取時代と違って、付け人もいなくて荷物は自分で持っていく。すべてが違ったので、恥ずかしくて。私はここで何をしているんだと思いましたね。
元大関のプライドで復帰 優勝を常に意識したい
春場所で10勝を挙げ幕内返り咲き
――その気持ちの強さが関取の強みですね。
照:大相撲は番付がすべてを語る世界なので、一回あそこまで行くと、もう一回味わいたいという気持が強かったです。
――入幕した今の状態はどうですか。
照:足は順調にすり足とかができるようになりました。全体的には、昔できた動きができるようになりたい。今はまだ、前に出ることができていないので、このままでは幕内上位には通じないと思います。幕内上位で一〇番勝てるくらいの体を作っておきたいという目標を持っています。
――七月場所に向けての意気込みを聞かせてください。
照:上がった以上は、落ちちゃうと頑張った意味がないので、勝ちにこだわっていきたい。また一回味わっているので、優勝というのを頭のどこかに入れておきたいと思っています。
――平幕優勝を狙いますか。
照:幕内に上がった以上は常に優勝を目指したい。高い目標を持つと、達成しようと思ってやるので。次の目標も高くしておけば成果が出るんじゃないかと思っています。ケガをして学んだことも多いです。
勝ち越し→三賞→できれば優勝
初場所十両優勝のインタビュールームで序二段優勝した宇良(右)と(初場所千秋楽)
照:自分と向き合って、毎日集中していけば成功するんだなということです。これまでの大関が経験したことのない状況を味わいましたけれど、ある意味でラッキーだったかなと思っています。努力してよかったと。
――貴景勝や朝乃山が大関になったのも刺激になっていますか。
照:ないです。すべては自分です。逆に自分の方が強いんだっていうくらいの気持ちでいます。昔は周りからいろいろ言われると気にするタイプでした。しかし、自分と向き合ったら、気持ちがぶれないようになってきたと思います。
――改めて七月場所の目標は、と聞かれるとどうですか。
照まずは勝ち越し。そこから三賞、できれば優勝ですかね。いちばんの目標は優勝。そしていつかは大関に戻り、さらに上を目指したい。そのためにも、できるだけの努力をするということです。
この記事を書いた人

古橋 明尊
元NHK記者。大阪放送局スポーツ専任部長、報道局スポーツニュース部長等を務める。現在は相撲専門雑誌「NHK G-Media大相撲中継」の編集担当。曙、若貴の横綱時代に大相撲取材。