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特集 連載2回目 “初心に返ろう”~鍵山優真を支えた父・コーチ 鍵山正和さん~

フィギュアスケート 2022年6月29日(水) 午後6:00

 

連載1回目 鍵山優真の成長を促した合言葉 “YuMaximus” (ユーマキシマス)はこちらから

 

優真の父であり、コーチの鍵山正和さんは、アルベールビルとリレハンメルのオリンピック2大会に出場した元選手で、自身と同じ舞台を目指す息子を支えてきた。

 

1989年NHK杯 鍵山正和さん(鍵山優真選手の父親・コーチ)の演技動画(フルバージョン)はこちら

 

常々、語ってきたのは“3番手を狙わない”ということ。オリンピック2大会連続金メダルの羽生結弦、そして銀メダリストの宇野昌磨。いま世界で最も層が厚い日本で本気で頂点を目指すことが成長につながると説いてきた。

 

(正和さん)

「怪物選手たちと肩を並べていくためには怪物級の練習をしなきゃいけない。もちろん優真にも言ったんですけど、誰が見ても真似できないっていうぐらいまで練習をしていかないと追いつけない。大事なのは3番手を狙わないってことです。3番手を狙っていてはやっぱりそこがてっぺんになってしまうので」

 

5歳の頃から指導を受けてきた優真は、父の指導に全幅の信頼を寄せている。

 

(優真)

「父はもともと現役で選手をやっていたので、一番近くで昔の体験談が聞けるのですごくいい。先生を変えようと思ったことは一度もない。ずっと一緒にスケートをしてきたので自分が成長した姿を大舞台で見せられるように。これだけ頑張って成長してきたんだよっていうのを見せたいなって思います」

 

親子で基礎から積み上げたスケートが花開いたのが、2021年に初出場した世界選手権だった。トーループとサルコー、2種類の4回転ジャンプを次々と決めて銀メダル。その安定感は世界のトップ選手の中でも際立っていた。夢の舞台だったオリンピックが明確な目標に変わった瞬間だった。

 

(優真)

「メダルを手にして、なんか重たいなって思いました。うれしかったんですよ。この試合を通して、オリンピックでメダルを本気で取りたいって思えた。あとは練習するだけ」

 

東京オリンピックが開催されていた2021年8月、優真は北京大会に向けて一新したプログラムの振り付けを磨くとともに、ある挑戦を始めていた。自身にとって3種類目となる4回転ジャンプ「ループ」の習得だ。これまではトーループとサルコーの2種類を跳んできたが、より基礎点の高いループをプログラムに組み込めれば、得点をさらに伸ばせる。オリンピックでメダルを狙う上での決断だった。

 

順調に進んでいるように見えたその道のり。

しかしシーズンの中盤、試合に出場し始めると異変が起きた。

 

10月の関東選手権では4回転ループを初めて試合で試したが、着氷でバランスを崩してしまい失敗。その失敗が他のジャンプにも連鎖するなど不調に陥った。正和さんは優真の様子を気にかけていた。

 

(正和さん)

「彼自身に変なプレッシャーがかからなければいいなと頭によぎった。初めての世界選手権でメダルを取って、それを守らなきゃいけないという気持ちになるといけない」

 

その懸念は現実のものになった。11月、オリンピックの代表選考にかかわるグランプリシリーズ・イタリア大会。持ち味であるはずのジャンプの安定感が影を潜め、ショートプログラムを終えて7位。優真にいつもの笑顔はなかった。

 

トップ選手になったゆえに膨らんだ周囲の期待。

そのプレッシャーと戦う日々で、自分らしいスケートを見失ってしまった。

 

(優真)

「僕の気持ちがあんなに落ちたのは初めて。単純に練習から調子が悪くて試合でもできないならまだ分かるけど、練習で出来ているのに本番ではなぜか跳べない状況で、ひどかったので。試合するのが嫌になって、途中で」

 

そんな優真を救ったのが、正和さんだった。

 

「初心にかえって練習してきたことをやるだけ、われわれは挑戦者だ」

 

結果を求めて守りに入るのではなく、

挑戦者として攻めの姿勢を貫くことが大切だと優真に伝えた。

 

正和さん)

「試合をするのが怖くなり、体が萎縮して失敗が続いてしまうこともあった。シーズンの途中で怖さを知り始めたんじゃないか。トップを争える選手たちがどういう気持ちで、どういうモチベーションで乗り越えていくのかというのをすごく感じてほしい」

 

その後のフリーでは立ち直り、完璧な演技で巻き返して逆転優勝を果たした。

優真は正和さんの言葉を胸に刻み、調子を取り戻し始めた。

 

 

次回(第3回)は、優真の成長を促した羽生結弦選手のある言葉に迫ります。

連載3回目 “気持ちに嘘はつくな”~羽生結弦が鍵山優真にかけた言葉~

取材メモ「親子2人の絆」

 

正和さんは2018年にあった脳出血のため、いまも左半身にまひが残っている。優真は率先して正和さんが座った椅子を片付けたり、移動の車いすを押したり、様々な場面で父を支えている。それは北京オリンピックでも同様だった。大会では選手とコーチの宿舎は別々だったため、優真は練習の際など、1人だけ早めにバスに乗って父が泊まる宿舎に迎えに行き、正和さんをサポートしながら試合会場に向かっていた。

 

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