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特集 “再出発”のフォルティウス 発足後初のカーリング日本選手権へ

カーリング 2022年5月19日(木) 午後6:00

いよいよ始まるカーリングの日本選手権。ちなみに、昨年度の女子の優勝チームはどこか、ご存じでしょうか?もしかしたら「え、北京で頑張っていた、あの…」という方もいるかとは思いますが、いえ、違います。昨年度の優勝チームは、“北海道銀行フォルティウス”です。

 

そして、優勝メンバーのうちの4人が、昨年12月に北海道銀行から独立し「フォルティウス」として再出発を果たしました。新チームとして最初に迎える大会が今回の日本選手権で、注目のチームです。

 

日本選手権に出場する「フォルティウス」

今回、私は日本選手権に向けて、このフォルティウスの取材を続けてきました。北海道銀行を離れることになり、資金面で厳しい状況でありながらも、前向きに競技を続けている選手たちの心境を知りたかったからです。どんな思いから競技を続けようと決めたのか、チーム作りに際してどんなことを話し合ったのか、取材を続けるうち、5人の選手たちの素顔が徐々に見え始めてきました。

リード・船山弓枝選手が語った “決断”の理由

リードの船山弓枝さんは、フォルティウスの創設メンバーで、五輪出場3回の大ベテランです。

 

リードの船山弓枝選手

船山さんに伺ったのは、新チーム発足時のことについて。北海道銀行から独立し、新しいスポンサー探しなど、イチからの再スタートを決める際、チームでどんな話し合いを行ったのでしょうか。

私の中でのこだわりは、選手として続けたいというよりかは、このチームを守りたいっていうほうが大きくて。私がそうだったように、結婚出産を経て、1度休養しても、そういった場がある、あったりとか、みんなが環境変わったとしても、このまた挑戦できる場っていうのをつくりたかった。

船山さんには、お子さんが2人いて、結婚や出産を経て、現在まで競技を続けてきました。カーリングという競技は、世界でも40代、50代という選手が活躍している息の長いスポーツ。なので、フォルティウスとしても、カーリングを長く続けられるようなチーム・環境作りをしていきたいのだと、メンバー全員でそのように考えたのだそうです。

 

1回会うと、もう何時間もいて、なんか「もう泊まって話そうか」ぐらいな話をするぐらいずっと話をしていて、「次は寝袋と歯ブラシ持ってこよう」ってくらいのときもありました。

お昼ぐらいに始まった話し合いが日付を越えそうになるまで続いたこともあったそう。そして、当時の心境をこう振り返っていました。

今思うのは、不安があった中でも、すごいみんな自分たちを信じれていたんでしょうね。スポンサーがいったんゼロになったとしても、やっていけるっていう、どっか自信があったし、このチームはここで終わるべきじゃないっていうふうに、たぶんみんながみんな思えたので、この決断を最終的にできたんだと思います。

5月上旬、大会に向けて常呂で合宿をしていたフォルティウスの選手たち。連日、地元の大学生・高校生たちと練習試合を行っていたのですが、その試合前に必ず、船山さんが相手の選手たちにお菓子を渡していらっしゃいました。ささやかな心配りに、すっかり心を打たれました。

セカンド・近江谷杏菜選手の“チャレンジ”

相手のストーンを弾いたり、絶妙な位置にガードを置いたり、多彩なショットを求められるというセカンドというポジション。そんなセカンドを務めるのは近江谷さん。

 

セカンドの近江谷杏菜選手

もともとはカーリング選手になるなんて思っておらず、地元で就職するんだろうなと考えていたそうです。しかし、厳しい道だと分かりつつも挑戦を続けるうち、気付けば世界を舞台にカーリングをやっていたのだそうです。

もともとの気質としては結構チャレンジすることが好きなので、環境が変わるっていうことも、全てチャレンジととらえて、何ができるかなっていうのは常に考えてます。死ななければ大丈夫か、みたいな、そんな感じです。

近江谷さんは、カーリングだけでなく、料理に手芸、写真、幅広いアスリートとの交流など、多方面に活動の幅を広げています。

 

 

色々な趣味のなかでも、特にすごいのが、料理。近江谷さんのInstagramを拝見すると、彩り鮮やかなお料理が沢山出てきて、特によく作るのが、蕎麦だそうです。もしかしてと思い「ダシもとるんですか」とこっそり尋ねてみたところ「ダシは、とります」という答えが返ってきました。

小さい頃から習い事も沢山やってて。自転車であっちの習い事行って、こっちの習い事行って、みたいな。もう町内を爆走してました。

聞けば聞くほど、なんでも出来る器用な近江谷さん。いつ頃からそうなのかというと、小学生のときにはもう色々な習い事をして見聞を広めていたそうです。友達に誘われたものは、ひとまずやってみようということで、カーリングのほかに水泳、よさこい、吹奏楽などなどやっていたそう。

 

小学生の頃の近江谷選手(写真左)

そして一番意外だったのが、詩吟。写真を見せて頂くと、たしかに、吟じていました。何ごとも、チャレンジ、ですね。

 

余談ですが、近江谷さんの父・好幸さんもカーリングの選手で、長野五輪にも出場された方です。地元・常呂で長く指導もされており、フォルティウスのメンバーともとっても仲が良く、家族同然の付き合いなのだとか。

 

近江谷選手の父・好幸さん

特に、次に紹介する小野寺さんとは相当仲が良く、下の娘さん(杏菜さんの妹)の彼氏に好幸さんが初めて会うとき、なぜか小野寺さんも同席して4人で食事へ行ったそうです。 

サード・小野寺佳歩選手は “笑いたい”

複数のストーンを弾き飛ばしたり、力強いスイープでストーンを遠くへ運んだりする、サードの小野寺さん。

 

サードの小野寺佳歩選手

もともと大学まで陸上をしていたこともあって、持久力やパワーはチームで1番だそうで、体力測定の際はトレーナー曰く「異次元の記録が毎回出る」とのことでした。そんな小野寺さんの練習帰りに少しだけお邪魔しました。

ストレスを溜めないコツは、好きなものを食べる、飲む。アイスカフェオレをお願いします。

小野寺さんの1日に欠かせないのが、コーヒー。毎日少なくとも2杯は必ず摂取するそうで、この日も帰り道にある喫茶店にて、アイスカフェラテを美味しそうに飲んでいました。小さい頃は苦いものが好きじゃなくて飲めなかったのですが、大学生ぐらいから急に好きになり、それ以来ずっと飲んでいるそうです。取材時も一口飲むごとに「あー、美味しいー」「あー、しあわせだー」とつぶやいており、相当、好きな様子が見て取れました。

 

 

いつも笑顔で我々の取材を受けてくださる小野寺さん。チーム内でもムードメーカー的な存在だそうで、練習や試合でもとっさに面白いひと言をつぶやいては、チームメイトを笑わせているのだそうです。昔からそういう性格なのか聞いてみると、お父さんの影響が少なからずあるのだそうです。

 

父の亮二さん(ロコ・ソラーレのコーチ)は、普段から大胆なギャグを繰り出す方だそうで「顔とかは全部お母さんに似たんですけど、性格とかしゃべり方だけはお父さんに似てしまったんですよねぇ」と、少し残念そう?に教えてくれました。本当は、笑わせるより笑いたいそうです。

 

チームスポーツだから、髪型もあんまり同じにならないようにしてます。キャラがかぶっちゃうじゃないですか。自分は今はロングのほうがいいのかなっていうので、ロングにしてますね。

今はチームにショートヘアが多いので、チーム全体の毛量のバランスを整えるため、3年ほど前から伸ばし続けているのだそうです。「せっかく伸ばしだしたので、いけるところまでいこう」とのこと。小野寺さんはカーリングについても「体力の限界までやりたい」と話していて、何事も、とことん突き詰めたい性格なのかもしれません。

 

この話を聞いて「なるほど、そういう理由だったのか」としみじみ納得していた筆者。ところが、取材後に小野寺さんのTwitterを見てみると、美容室へ行って髪を切ったという投稿を発見。投稿された写真には、自ら髪の毛にはさみを入れる小野寺さんと、思いっきりショートヘアになった後ろ姿が写っていました・・・。

スキップ・吉村紗也香選手の知られざる “歩み”

スキップの吉村紗也香選手

勝負を決める一投を担当するスキップの吉村さんは、これまで一体どんな競技生活を送ってきたのか。中学校から大学卒業まで10年以上に渡り指導を受けていたという、小林博文コーチとともにお話しを伺いました。

 

 

小林コーチ

初めて海外の大会に出たとき、部屋から出てこなくなったんだよね。

小林コーチが吉村さんの指導を始めたのは、吉村さんが中学2年生のころ。やはり、当初からとにかく吸収がはやく、指導から2ヶ月足らずで国内大会で優勝、いきなり中国の大会に出場することになりました。

 

しかし、海外の慣れない環境でのプレーに段々ストレスを感じたのか、ある日、ホームシックにかかってしまい、小林さんが呼んでも部屋から出てこなくなってしまったそうです。今や1年の半分以上を海外で過ごす吉村さんにも、そんな時代があったんだなぁと思わせる、ほのぼのしたエピソードでした。

 

小林コーチと吉村さん

小林コーチ

実は、高校の指導は辞めようと思ってたんだよね。

中学生でいきなり結果を出した吉村さんとチームメイトは、高校でも引き続き、小林コーチに指導をお願いしようと考えていました。しかし、小林コーチはいくつかの理由で、指導を辞めようと考えていたそうです。そのひとつが「仲が良くなったり悪くなったりが激しくて大変だから」というもの。

 

ホタテ漁師の小林コーチには、お年頃の若者たちの指導はすこし難しさを感じることが多かったそうで、一旦離れようと真剣に考えていたそうです。ただ、どうしても小林コーチがよかった吉村さんたちの必死の説得もあり、無事に指導を続けることになったのだそうです。

小林コーチ

ケンカもした。国際大会でも、一回、どえらい大げんかで怒鳴って審判に怒られたこともある。

吉村さん

そうだっけ。全然、覚えてない。

もともとは、小林コーチが言ったことをきっちりやる、というタイプだった吉村さん。しかし、高校、大学とキャリアを重ねるにつれ、練習や試合で自分の意見をはっきりと言うようになっていきました。とても良いことではありますが、しばしば、小林コーチと意見が合わず、ケンカや言い合いに発展することもあったそうです。

それでも小林コーチは今にして思えば、受け身なところもあった吉村さんが、そういう風に意見を言ってくれるようになって良かった、と振り返っていました。

新戦力のリザーブ・小林未奈選手は文武両道

リザーブの小林未奈選手は今シーズンからチームに加入した19歳の新戦力。トレーナーの資格を取るための専門学校にも通っており、文武両道です。

 

リザーブの小林未奈選手

連絡はいきなり来たのでびっくりしました。

実はフォルティウス加入前、小林さんの所属するチームが解散してしまい、活動出来ない時期があったのだとか。そんなときに吉村さんに誘われ、フォルティウスに入ることを決意。いきなり連絡が来たのでびっくりしたそうですが、ご両親とも相談し晴れてフォルティウスに加入することになりました。もしフォルティウスに入っていなかったら、カナダに留学しようと思っていたそうです。

カーリングが人生のすべてじゃなくって、それともう一つ自分の引退したあととか、現役中でも、社会人として、競技と並行してできるような自分の人生を優先というか、大事にするっていう考え方がすごくいいなっていうふうに思いました。

生き方・考え方がしっかりしています。

 

 

きょう、テストだったんですよねぇ。

この日は夕方に1人で練習に来ていた小林さん。学校帰りだったそうなので、授業のノートを見せてもらうと、几帳面な字でノートが書かれていました。また、この日はテストもあったそうで、手応えはどうだったか聞いてみると、9割ぐらいですかね、あ、でもそんなに難しいテストじゃなかったので、と奥ゆかしい答えが返ってきました。

 

取材のたびに、わざわざ控え室の出口まで来て「お疲れ様でした」と見送ってくれる小林さん。スタッフ一同、その律儀さにすっかり魅了されています。

日本選手権での優勝は今シーズン最大の目標

フォルティウスが、北海道銀行からの独立を決めた直後、体制などもまだまだ決まらず不安もあるなかで、まずチーム内で確認し合ったのが、日本選手権まではとにかく戦いきろう、ということだったとのこと。

 

優勝した昨シーズンの日本選手権。それまではチームとして、もがいていた時期もあったそうなのですが、この優勝をきっかけに、自分たちのチーム作りはうまく行っているのだと確信をもつことができたそうです。そんな日本選手権で、今回も優勝し、将来に向けて弾みをつけることができるか注目です。

 

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この記事を書いた人

古元 幹也 ディレクター

古元 幹也 ディレクター

2018年NHK入局。釧路局→札幌局。

これまでは自然番組を担当することが多かったが、昨年の五輪代表決定戦を現地で見て以降、すっかりカーリングのファンに。同じ1991年生まれの選手の活躍が励みになっている。

 

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